第6話 心意気
タイトル付けるのって難しいですね
さて、自己紹介も終わったところで本題だ。
俺の家、つまりは師匠の家に行かなければならない。
しかも先ほど修行をしていた場所よりセラを助けたこの場所は離れている。
怪我をした女の子を歩かせる距離じゃない。
「セラ、立てそう?」
「何かにつかまりながらなら立てそう。歩くのはちょっと無理かも」
転んだ時に足を捻ったらしく、あまり大した距離は移動できなかったのだ。
最低限先ほどの男たちの亡骸(暫定)から離れることしかできず、今は座りながら会話をしているところだ。
「そっか、なら仕方ない。ちょっと失礼」
「え?ちょっと?キャァ!」
セラをお姫様抱っこしたら驚かれた。
そりゃいきなりされればそうなるか。
「ごめんごめん驚かせちゃった。歩けないみたいだから連れてくにはこうするしかないかなって。それとも負ぶさる方がいい?」
「ううん、このままでいい。けどベルの家遠いんでしょ?大丈夫?」
「平気だよ、すぐ着くし」
「えっ?遠いのにすぐ着くの?」
「うん、ほら着いた」
「えっ?どういう・・・あれ、ここどこ!?」
急に景色が変わったことに驚いた様子だ。
会話の最中に空間転移したのだ。
意識が会話に集中している時の一瞬の出来事に頭が追いついていないのだろう。
「ここが師匠たちと俺の家。驚いた?」
「さっきまで森の中だったよね?あれ?」
「どうやったかの方法については後で教えてあげる。それより治療しないと」
そのまま歩き、玄関に入る。
「ただいま〜」
「あら、ベルおかえりなさ・・・」
部屋から出てきたシェータ師匠が俺を見て止まる。
視線がセラに向く。
そして一息間を空ける。
「彼女連れてきたの?もう!言ってくれれば色々準備したのに!」
「言うと思ったけど違ぇよ!」
ボケにはツッコミしなければ。
ってか師匠たちなら俺とセラが家の前に来た時点で気づいてたでしょうに。
「この子セラリスって言うんだけど、色々あって足怪我してるんだ。シェータ師匠、治してあげて」
詳しい説明は後でいいだろう。
「セラリスです。あの、ご迷惑おかけします」
「礼儀正しい子ね。私はイルシェータ。シェータでいいわ」
「シェータさん、私の事もセラって呼んでください」
「セラちゃんね、ベルがこんな可愛い子を連れてくる日が来るなんて・・・」
「もうそのネタはいいから」
「えー」
「えー、じゃない!」
まだ言うか・・・
「ま、いいか。じゃあベル、ベッドまで運んであげて。私は準備してから行くから」
「りょーかい」
客室のベッドまでセラを運ぶ。
「ちょっとここで待っててくれ、すぐに来ると思うし」
「分かった、待ってる」
「色々聞きたい事もあるけど、まずは怪我を治してからね」
「うん、私もベルに色々聞きたい事あるし」
「そっか、じゃあ待ってるよ」
そう言って部屋から出て行こうとする。
「ベル!」
セラが俺を引き止める。
「どうしてここまでしてくれるの?助けてくれた上に治療までしてくれて」
「治療するのは俺じゃないよ?」
「でもベルがここに連れてきてくれなきゃそれもできなかったでしょ?」
どうしてと言われても。
「女の子には優しくしろって親父に言われたからかな」
「さっきも言ってたね。でも危ない目にあってまでやる事なの?」
「さっきの奴らじゃ危なくないし余裕だよ」
「そういう事じゃなくて、誤魔化さないで」
あれ、バレてら。
「・・・言わなきゃダメか?」
「言えない事情とかあるならいいよ。それなら無理に聞き出そうとも思わないし」
「・・・いやそういうわけじゃないんだけどさ」
「ならどうして?」
言わなきゃダメなやつだな、これ。
「・・・これ、師匠たちには言わないでくれよ?」
「うん、シェータさんじゃない方の師匠さんにはまだ会ってないけど言わないよ」
「ああ、もう1人の師匠はヴァンって言うんだ。赤い髪の大男だから見ればすぐにわかると思う」
「分かった。それで理由は?」
「・・・俺、2年前に師匠たちに魔獣に襲われているところ助けてもらってさ。その時の縁で身寄りがなかった俺を弟子として育ててくれてるんだ」
セラが息を呑む。
「・・・ごめん、無理に聞き出して」
「いや、大丈夫。気にしないで」
俯いてしまったセラの頭を撫でる。
「だからさ。あの時、俺が助けられたみたいに他の人も助けたいんだ。別に全世界の困ってる人を助けたいとか、そういうのじゃない。せめて俺が気づいた範囲で危ない目にあっている人がいて、俺の力が及ぶものなら助けたい、そう思ってる」
飢える人を助ける、戦争で怪我をした人を治す、貧しい人を救う。
なんて事は俺にはできない。
かと言って力があるから救わなきゃいけない、なんて事は思っていない。
例えばお金があるなら、お金がない人に配れ、なんて筋違いもいいところだろう。
だからこれは俺のエゴだ。
「だからあんまり恩とか感じないでくれると助かる。そういうのあったら友達としてやりづらくなっちゃうしな」
恩の貸し借り関しては俺はこう考えている。
ま、俺も友達だから借りたもの返さなくていいじゃん。みたいな事を言う輩は許さないが。
だから俺が貸した本、返してくれ友人Iよ。
「・・・そっか、分かった。でもベルこれだけはもう一回言わせて」
そう言って顔をあげ、こちらを見つめるセラ。
「助けてくれてありがとう。あのままだったら私、酷い目にあってだと思うし」
「どういたしまして」
そう言って今度こそ部屋を出て行く。
そうして階段をあがり、自分の部屋に入り、ベッドにダイブする。
「痒い、痒い、背中が痒い!何、言っちゃってんの俺!?無茶苦茶こっぱずかしい事を口走ってた気がする!」
ジタバタ転げ回る。
思い返すだけで恥ずかしい。
セラに聞かれたからといってあそこまで答える必要なかった気もする。
15分くらい前に戻って、俺に飛び蹴り食らわせたい。
「あー死に・・・たくはないけど、無かったことにしたい。間違いなく黒歴史だわ。この事で揶揄われたら憤死する。いっそ記憶のメモリーから消しさりたい」
電気ショックで記憶消したりできないかな。
そうやって悶えているとノックがあった。
「ベル、入るぞーって、どうしたんだお前さん?昼間っから横になって、そんなに修業疲れたのか?」
ヴァン師匠が部屋に入ってきて俺に尋ねる。
「今は放っておいて。己の言動を振り返って悶えてるだけだから」
「ん?別に恥ずかしがる事ねぇだろ?俺は立派な目標だと思うぞ?」
・・・え?
「・・・・・・なんで知ってるのさ?」
部屋の近くには居なかったはず。
セラと話す前に俺が確認したはずなのに!
あの時ヴァン師匠とシェータ師匠は2人でこちらの声が聞こえない位置にいたはずだ!
「いや、シェータの奴が『ベルが女の子を連れてきたのよ!セラちゃんって言うんだけど、今その子と2人でお話ししてるみたいだし聞いてみましょう!』って言ってよ?風と光の魔術で部屋の様子を映してな。それを俺と2人で見てたからな」
それか!!
しかも光と風の魔術って事は映像と音声付きのリアルタイム観戦だと!?
おのれ、シェータ師匠!
俺が探知して安心したところの意表を突いてくるなんて!!
シェータ師匠の魔術の巧さは徹底的に発動を隠されると俺じゃ把握できない。
2年前に初めてこの家にきた時に、隠されている違和感に気づけたのは、それが空間に作用する魔術だったからだ。
「ぐぉぉぉぉぉ!!あれが見られていたなんて!!」
くそっ、なぜ油断した20分前の俺!
一生の不覚!!
「カッコイイと思うぜ?セラリスの頭撫でてるとことか男として素直に凄えと思う。あれ、あの子落ちたんじゃねぇか?」
やめてくれ、これ以上は俺の精神がもたない。
ヴァン師匠の記憶を消さないと!!
庭へと空間転移する。
「うお!?いきなりどうしたんだよ、ベル」
電気ショック、試すときが来たようだな!
「ふっふっふっ、じっとしててねヴァン師匠。ちょっとここ数分の記憶を消すだけだから」
両腕の間で雷を走らせる。
そして一気に距離を詰める。
「喰らえ!!」
身体強化、さらに雷で強化して最大加速で雷を纏った拳で顔めがけ殴りかかる。
「あぶねぇ!?いきなりなにすんだよ!?」
ヴァン師匠はその拳を一歩下がる事で避けた。
「ちっ、外したか!」
「お前、俺の事殺す気か!?今の雷かなり本気だったろ!?」
「気のせいだよ。それに避けなければすぐ楽になれる、よ!!」
「楽になれるって、それ俺死んでるよな!?」
さらにラッシュをかけるが全て躱される。
「流石師匠。簡単にはやらせてくれないか!」
斯くなる上は!
「なんか文字が違う気がすんな、おい。そろそろ落ちつ・・・」
そこでヴァン師匠が固まる。
その視線の先では俺が亜空間から取り出した剣が数本浮いている。
その剣は全て雷を纏っている。
これも修行の成果で、剣に雷を纏わせて攻撃してみようと思ったところ、発熱してとても持てる温度じゃなくなった事から考え出された。
空間魔術で剣を浮かせれば直接触らずに済むし、その高温も転じて武器になる。
「おいおい、待てって。流石にそれは洒落にならねぇ・・・ってぇ!?」
高速で飛ばした剣にを避けられた。
「避けないでよ、記憶消せないじゃないか」
「当たって消えるのは記憶だけじゃないと思うんだが!?」
「ヘイキヘイキ、ヴァン師匠ナラ問題ナイヨ」
「問題大有りだ!」
剣を四方八方から飛ばす。
しかし全て避けられる。
それにしてもこれだけやって、ヴァン師匠に剣すら使わせられないなんて。
せめて剣を使わせてみたい。
途中から趣旨が変わったが、今の俺の全力で攻撃をしかける。
そうしてしばらくたった後、俺の方が先にガス欠になった。
体力魔力共にほぼ空だ。
立っていられず地面に大の字に寝っ転がる。
そんな俺に対してヴァン師匠は多少汗をかいているだけである。
「ベルもやるようになったな」
「・・・俺が、全力で、攻撃、してるのに・・・一発も、当たらなかったじゃん」
「いや、ちょっと掠ったぞ?ほれ」
そう言って服の一部が少し切れているのを見せてきた。
「あれだけやって、掠っただけ、か・・・」
「お前さんの年でそれだけ出来れば十分だっつーの」
ようやく息も整った。
まだ立てそうにはないが。
「・・・次は、剣を使わせてみせるから」
「おう、楽しみにしてるぜ。俺は先に戻ってるぞ?そろそろ飯だ」
そう言って家に入っていくヴァン師匠。
気付いたら周りも暗くなっている。
しばらく倒れているとセラが迎えにきた。
「ベル、大丈夫?」
「俺は体力切れただけだから大丈夫。セラもケガ治った?」
「うん、綺麗サッパリ跡も残ってないよ。しかも新しい服までもらっちゃった」
どう?といいながらその場でクルッとターンをするセラ。
助けた時の服装は質素な感じであったが、今は華やかなワンピースである。
正直ものすごい似合っている、可愛い。
シェータ師匠が小さい頃の服でも残っていたのだろうか?
「似合ってるよ、すげぇ可愛い」
「・・・ありがと」
素直に感想を述べたところ、消え入りそうな声でお礼を言ってきた。
顔赤くして照れてる、可愛い。
俺、さっきからセラのこと可愛いって思いすぎじゃね?
一瞬跳ねた鼓動を誤魔化すように質問をする。
「んでセラはどうしたの?」
そう言ってなんとか立ち上がれる。
足がまだプルプルいってやがるぜ。
この世界で俺は7歳の時、前世の記憶を思い出した。
前世の俺の年齢は19歳くらい。
今は9歳、つまり精神的には21歳のはずだ。
これでセラ(9歳児)に惚れたら俺はロリで始まってコンで終わる紳士になってしまう。
あれ、でもこの世界だと俺の体の年齢9歳だよね?
全然問題ない?
混乱しているところにセラの声がかかる。
「ご飯だから呼んできてってシェータ師匠に頼まれたから、呼びに来たの」
ん?なんか違和感が・・・
「そっか、ありがと」
「どういたしまして。ほら、早く行こう?」
そう言って俺の手を取り引っ張り始めるセラ。
「分かった、分かったからちょっと待って!」
足が生まれたての子鹿状態からなんとか復帰したばかりなんだから、そんなに引っ張ると倒れる!
そうしてセラに手を引かれ家に入る。
それにしても先ほどの違和感はなんだったんだろう?
前話より戦闘しちゃっている気がする修行内容。
読者の皆様の周りに黒歴史を持っている方がいらっしゃったらその事には触れずそっとして置いてあげてください。