第10話 宿屋にて
中々学園にたどり着けない。
門番の人に紹介された宿屋の一室でベッドに横に突っ伏す。
セラは俺の横でベッドに腰掛けている。
もう一つ、ちゃんとセラのベッドあるんだけどなぁ。
さっきまではセラが横になってたから俺がそちらのベッドに移動するわけにもいかないし、別に俺が気にしすぎなだけかもしれないが。
「なんか無駄に疲れた・・・」
「私も疲れた」
「おう、おつかれさん」
「なんかそれお父さんみたいな言い方だね、そっくり」
「・・・そうか?」
「うん」
似てると言われたことに喜べばいいのか、それとも親父臭いと言われたと悲しむべきか。
いや、まあ素直に褒め言葉(?)として受け取っておこう。
あの門番と別れてから色々とあった。
まずオススメの宿屋に行く道中だ。
前世の日本の首都ほどではないにしろ、この世界で見るのは初めてな人の数。
俺はまだ耐性があるからいいものの、セラはこんなに人が多いのは初体験なのでとても驚いていた。
今まで家族である俺たちとしか接触して来なかったセラにいきなり慣れろとは言えない訳で。
「ほれ、はぐれると大変だから」
と左腕をちょいちょいと動かして、腕を組みながら歩く事にした。
何故か満面の笑みのセラが予想以上にくっついて来た。
ちなみに先ほどの顏を隠してたフードは亜空間に収納済みだ。
なんでかって?
セラが「もういっかい髪の毛を入れるのが面倒」って言ったからだ。
結果としてその美貌を周囲に晒しながら歩く事に。
見惚れて固まる通行人A。
ギョッとして驚き、前から来る人とぶつかるBとぶつかられた通行人C。
倒れてしまったCを「すいません、怪我はないですか?」「い、いえ、大丈夫です」とBが腕を引いて立ち上がらせる。
なんかCがポーッとしているし、Bが転ばせてしまったC相手に「これも何かの縁です。お詫びも兼ねて、よろしければ食事ご一緒しませんか?」とナチュラルに誘って、2人で何処かに向かって行った。
自然な流れすぎたし、Bの方が女性でCが男だというのが印象的すぎた。
こっちみて驚いたのも演技なんじゃないかと思うレベルで手口がスムーズだ。
行動が嫌味っぽくないし。
あれか、イケメン女子か。
そんな言葉あるか知らんが。
まあ後は男どもの嫉妬と羨望の視線。
なんか女の人もこっち見て止まってるのがいるね。
セラの美しさは同性にも通用しちゃうのか。
キャー!って黄色い声も聞こえたし、なんだろ?
あれか?
お姉様!って感じなのか?
同じような能力の繋がりで、ツインテールのお嬢様が脳裏に浮かんだ。
俺も今度やってみようかな、ドロップキック。
他にもわざとぶつかって来ようとするガラの悪い男とかいたけど、ダース単位で躱したぞ?
ぶつかってたらやっぱりテンプレ的展開とかあるのだろうか?
慣れない街だし、こっちは早く宿屋に行きたいんだ。
「見てあの2人、凄いわ」
「・・・一回見たら忘れそうにないんだけど今まで見たことある?」
「ちっくしょう、羨ましい!」
「あの銀髪の男、俺と変わっ「何か言った?あなた」・・・いえ、なにも」
「ほっほっほ、儂も若い頃はの・・・」
「いい男じゃねぇか、中々の尻だ」
本能的な恐怖を感じ逃げ出すようにその場を後にする。
最後のやつはヤバイ。
そして宿に着いたら着いたで、なんか高級感ある店だし、場違い感が凄いけど意を決して中に入った。
相場とかわからないけど、資金として渡された金からするとほぼ消費しなかったし割とリーズナブルなのか?
足りないなんてことなければいいなと思いつつ支払ったけど、ちゃんと足りて良かった。
ってか親父、母さん。
俺とセラ、貨幣価値なんて分からんぞ?
ちなみに1人部屋2つか2人部屋1つか選ぶときに、俺が答える前にセラが2人部屋に決めた。
そっちのほうが安いって宿屋の人が言ってたし、まあいいけど。
耐えろ、俺の理性。
そんなこんなで体力的にというより精神的に疲れてしまった。
夕飯も食べたし明日に備えてもう寝たい。
明日は学院に行って親父たちの知り合い、つまりは俺たちを学院に呼んだ人に会わなければいけないのだし。
「セラ、明日も大変だろうし早く寝ようぜ」
「一緒に?」
「別々でお願いします・・・」
「私は気にしないよ」
「ベッド二つあるし別に俺のとこで寝なくてもいいよね?」
「むぅ、手強い」
むぅ、じゃない。
ふくれっ面しない。
可愛いから。
「可愛い・・・」
「・・・あれ、声出てた?」
「うん」
「・・・」
「ありがとう?」
「・・・どういたしまして」
まあ嘘じゃないし、聞かれても俺の精神がダメージ受けるだけだし、うん。
気にしない気にしない。
「そうだ、ベル」
「ん?どうした?」
突っ伏してる俺の服の袖を摘んでクイクイっと引っ張るセラ。
それに引かれて立ち上がり、セラの横に腰掛ける。
「久しぶりにあれやって、今日はちょっと疲れた」
「あー、あれか」
お互い長い付き合いなのですぐに分かった。
「まあこの後は寝るだけだしな。すぐに寝られるよう自分のベッドに・・・」
「ここでやって」
そう言って俺が先ほどまで寝転がっていた場所にうつ伏せになるセラ。
「セラさんや」
「なに?」
「あなた、これやるといつも直ぐに寝ちゃうでしょ?」
「うん、気持ちいいから眠くなっちゃう」
「だから、自分のベッドに移動するべきじゃないかなー?と思うわけですよ。そこ俺のベッドだし寝ちゃうと困るよ、俺が寝れないし」
「ん、なら問題ない」
「俺に寝るなと!?」
「使ってない私のベッド使えばいい」
「そういう問題じゃないんですよ・・・」
こちとら身体は15歳だよ?
そんな女の子の使ったベッドに入って寝れる気なんてしないわ。
「私は気にしないよ?」
「俺が気にするの!!はあ、まあいいや。寝たらセラのこと運べばいいか。ほら始めるぞー」
「肩からお願い」
「はいよー」
そこで俺は両手に微弱な電気を纏わせる。
今から俺がやろうとしているのは所謂電気マッサージだ。
普通に手でマッサージしても普通なら解せないような筋肉のコリや疲労を解消できるためセラと母さんに好評だ。
親父はって?
筋肉の壁が厚すぎて生半可な刺激じゃ何も効かないんだよね。
「もっと強く、しても大丈夫だよ?」
「・・・」
「んんんっ!そこ、いい・・・」
「・・・」
「ふあ・・・そ、そこはもう少し下、に。ひゃん!」
「・・・」
ちなみに欠点としてはこのマッサージの刺激によってセラが艶めかしい声を上げる事か。
僅かに上気し赤くなった頬が何とも言えない色気を醸し出している。
ひたすら俺はその間、自分に暗示をかけている。
俺はマッサージ器、俺はマッサージ器・・・
足の筋肉を重点的に、他にも肩など満遍なく刺激を与えていく。
俺にとってはある意味修行、セラにとっての至福の時間が過ぎ、案の定セラは安らかな寝息をたて眠ってしまった。
「はあ、今日も何とか耐えきったぜ・・・」
精神的にさらに疲労した気しかしない。
まあセラのためだし別にこの程度の疲れならいいかな?
「ったく、俺の気も知らないで・・・」
当のセラはそんな事は知らないとばかりに熟睡している。
「運ぶのはいいんだけど、起こしちゃったらゴメンな?」
一応断りを入れて寝ているセラをベッドに運ぶ。
布団をかけ、顔にかかった髪を手で整える。
その感触が絹糸に手を通すような感触で思わず頭を撫でる。
うん、素晴らしい手触り。
いつまでも撫でていたい。
「っとこれ以上は起こしちゃうかもな。んじゃおやすみ、セラ」
名残惜しいが切り上げて眠る事にする。
自分のベッドに横になったはいいが・・・
(やっべぇ、セラの残り香とは!?何でこんないい匂いするんだよ!寝れねぇ!!)
と、しばらく悶々として眠れなかったが、やはり俺も疲れていたのだろう。
段々と重くなる瞼。
そうして夢の世界へと旅立っていった。
作者、風邪とインフルのダブルコンボのせいで、気管支炎を発症。
死にかけました・・・