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悪役令嬢?

才能の使い方〜その果実の香り〜

作者: 逢瀬

ルシア視点です。

「ただいま参りました」

「どうぞ」


返事をしてくれるかどうかすら、本当は不安だった。

ドアの向こうからエマの声が聞こえた時、そんな不安も消えるくらい、胸が高鳴ったんだ。



「失礼します」

部屋の中に一歩入る。

数日前との違いといえば、窓際の机の上に小さな林檎が二つあるくらいだ。


「ひ、久しぶりね、ルシア」

僕はわざと、エマのあいさつに返事をせず、眉をひそめてみせる。

「そんな顔しないでよ、私の方がむしろ怒ってたのに」



なんだか怯えた小動物みたいだ。

エマは僕の事を可愛いと褒めてくれるけど、エマの方がずっとずっと可愛い。



「何かエミリーお嬢様の機嫌を損なうような事が、ありましたでしょうか」

「とぼけないで! 、、あの時キスしたって言った!!」

怒ってる顔はちっとも恐くない。

かーわいい。


ソファまで近づく。

座っているエマに触れられる距離にきた。

「言ったよ、ごめんね?」

「ファーストキス、、」

「ああ、それもごめん、多分相手は僕だけど、この間の馬車の中のが初めてじゃないよ」

「!!!!」

驚いて、声になってない。



「訓練がてらのかくれんぼでエマが隠れながら寝ちゃった時か、一緒にお昼寝してた時が最初かなぁ」

最初は、周りの大人の目を盗むのが楽しくてしてるだけで、あまり意味はなかったが、最近は己が欲望を満たすためだったかもしれない。

だけど、一度も気がつかないエマもすごいと思うんだ。




「全然気がついてなかった、、、」

「そりゃ、従者ですから気配消す技くらいお手の物です」

「こんなことで才能の無駄遣いしないで」

僕にとっては有効活用なんだけどな。


「じゃあ今度は、起きてる時に正々堂々と」

「〜〜っ!しない!!!」

エマからからかわれると僕も照れるけど、こうやって自分優位に進めてる分には、どんどんいじめてしまいたくなる。

本気で泣かせたいわけじゃないから、この辺で終いにしよう。



「すみません、エミリーお嬢様 悪ふざけが過ぎました 今夜は何用でございましたでしょうか」

エマも、空気が変わったのをすぐに察知する。

「お父様から聞いているのではなくて?」

「サレニー候からは、ただ私室へ向かうようにと」

なんて、魔力の補給とは言われたんだけど。 エマの口から聞きたいんだ。



「あのね、、3日間部屋の中で魔力使ってるうちに空になったので、ピアスに魔力補充させてください」

「どうぞ?」

「いいの?」

「この身も心もエマのものだって言ったのもう忘れた?」

「う〜っ! あの頃から、そういう意味でいってたの?」

「ずっと、ですよ」

そう言った僕は、うまく笑えただろうか。



立っている僕の手を、ソファに座ったままのエマが握った。

顔はこちらを見ずに、手だけ伸ばしているのは、彼女なりの抵抗だろう。

魔力の流れを感じ始めると、幾度となく感じた覚えのある甘く苦しい快感が、身体中を流れた。




「ありがとう、終わったよ」

エマの耳たぶには、以前と同じオレンジ色をしたピアスが輝いている。

「本当だ、僕たちの魔力の色に戻っている」

小さな耳たぶごとピアスを撫で、そう呟く。

僕の言葉が彼女の中に残りますように、と願いながら。



「この数週間で、冷たいルシアから意地悪なルシアになった。。」

「どっちも僕だけど、どっちも嫌い?」

「嫌いまでいかないけど、、なんか急に変わって慣れない」

「変えたつもりも無いんだけど、学園に入る不安もあるのかな エマもなんだか最近特に変だよ?」

屋敷からあまり出ずに育ったエマが、同年代の男女と共同生活だ。不安にもなる。


「ルシアはまだ14歳なのにね、寮に入るなんて辛いわよね」

なんかちょっと勘違いしてる。 僕にとっては、どこに住むかは大した問題じゃない。エマのそばに居られるかどうかだ。




小さなため息が、どうもあくびに見えたらしい。

「夜更かしは体に悪いわ! もう魔力補給は終わったし、早く部屋で休みなさいな 明日は、カナンに会いに行かなきゃいけなくなったしね」

カナン様、遠くに行って安心してたのに、なぜ今になってまた現れるんだろう。



「では、これで失礼します」

「ええ、遅くまで引き止めてごめんなさい、ルシア ありがとう」

「では、今日の分の褒美を、、」

「!キスはしないわよっ」

そう言われるのは、想定済みだ。



「それは残念。 今日は、そこの机の上にある林檎を頂戴できますか」

「ああ、あの林檎?いいわよ、食べて 庭で採れたものよ、みずみずしくて美味しかった」

「ふふっ、ありがとう 遠慮なく食べますね」

「どうぞ?」

「エマ、意味に気付いてる?これは林檎だよ?」

「どう見ても、見たまんま林檎、、ってあっ!」



ふふっ、気がついた。

彼女の香りは林檎と同じだってこと。それで、食べていいよときたもんだ。

そう意味じゃないとか、返してって言ってるけど、もうこの林檎は僕のものだからね。




彼女を抱きしめて眠ることは許されないから、今夜はこの林檎とともに過ごそうか。

彼女の香りに包まれて、よく眠れそうだ。

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