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緑色の香  作者: 冬野みかさ
2/8

 時計が十二時を指し、篠塚(しのづか)珂奈子(かなこ)は両手を上げて思いっきり伸びをした。

背中がポキッと音をたてる。

珂奈子はパソコンのデータを保存し画面をとじ、自分の机の引き出しの中から携帯電話を取り出し、メールが着ていないか確認した。

1件のメール受信の文字を見て、珂奈子はちょっと微笑んでメールを読んだ。

『お仕事ご苦労様。こっちは凄くいい天気で気持ちいいよ。珂奈子も一緒に連れてきたかったな。明日の夕方には東京に帰るので、いい子で待っていてね。 (りょう) 』

「誰からのメール?」

からかうように同僚の里美(さとみ)が声をかけてきた。

珂奈子の嬉しそうな顔をみて

「河野さんからでしょう」と言った。

「大正解」珂奈子が立ち上がりながら答えた。

「お昼、何を食べに行く?」ニヤニヤした顔のまま里美が聞いた。

「昨日は角の和食だったから、信号の先の2階のパスタは?」

珂奈子がバックを持ちながら答えると、里美がうなずいた。

会社から外に出るとまぶしい日差しが目に入った。

こっちでも、こんなに晴れているのだから向こうはもっと気持ちいいんだろうな。珂奈子が空を見ながら、そう考えていると里美が

「早く行こう」とせかした。


「河野さん、また山にいっているの?」

里美がランチセットのパスタを食べながら聞いてきた。

「そう、今回はS県まで行っているの」

「S県?じゃぁ新幹線で?」驚いたように里美が聞いた。

「うん、でも明日帰ってくるって」

「写真撮りに行ってるんだっけ?」

「そう」

「付き合って何年だっけ?」

「大学の時に知り合って5年、付き合うようになってから3年かな?」珂奈子はちょっと考えて答えた。

「そろそろ結婚とか?」興味津々で里美が聞いてきた。

「まぁ、ちょっとそんな話も出ているけど」

「羨ましいなぁ」

里美はパスタをフォークでくるくる回しながらニヤニヤした。

「さすがに珂奈子みたいに美人だと彼も早く自分の妻にしたくなっちゃうよね」

「何、言ってんの」

「だってさぁ、珂奈子ってスタイルもいいし、髪もサラサラだし、女の私が見たって綺麗だなぁって思っちゃうもん。早く結婚しておかないと、他の男にとられちゃうでしょ?」

「ふふっ、そんなに褒めたって今日のランチは奢らないよ。それより早く食べないと休み時間終わっちゃうよ」

珂奈子がそういうと、里美は時計を見て

「本当だ」と、慌ててパスタを口に入れた。



 河野稜は川原に腰掛けて、宿で作ってもらったおにぎりを食べ終えていた。日差しが暖かくて今日は気持ちがいい、本当に今度来る時は珂奈子をつれてこよう。

さすがに夏休みまではまだ半月ほどあるので、平日のこの時間は誰もいない。

おにぎりの包みを鞄にしまって立ち上がり、川に手を入れた。

水が冷たくて気持ちがいい。両手に水をすくって顔を洗い、ズボンのポケットからタオルを取り出し、顔を拭く。

ふと、2メートル程離れた水面を見ると水の底で何かが光ったように思えた。

「魚か?」

もう一度同じ場所を見てみると緑色に光るものがあった。

「なんだ?」

靴を脱ぎ、ズボンの裾をめくり川の中へ入ってみた。

水は冷たかったが、膝下程の水位なので大丈夫そうだ。近づいてみると水の底に緑色に光る石があったので、水の中に手を入れ、その石をつかんだ。



 アパートのドアの前で珂奈子は部屋の鍵を出すために鞄の中を手で探っていた。片方の手に持っているスーパーマーケットの袋が重い。

鍵を探している珂奈子に稜がいつも「鍵は鞄の中のわかりやすいところに入れておきなよ」と言うことを思い出した。こんな姿を見られたら、また言われてしまいそうだと思いながら、ようやく鍵見つけてドアを開けた。

「あー重かった」

荷物をテーブルの上に乗せて手首をさすりながら洗面所に向かいスーツを脱ぎ、服を半袖シャツとスカートに着替え、化粧を落とした。

買ってきたスーパーマーケットの袋の中から牛乳などを冷蔵庫にしまい、冷えたペットボトルだけ取り出して絨毯の上に腰を下ろし、飲み物を飲みながら、鞄の中から携帯電話を取り出した。

「メールきてないなぁ」

今日は会社帰りに稜にメールを送っておいたから、そろそろ返事が来るはずなのに。

「電波が通じてないのかな?」

珂奈子は携帯の画面を見ながらつぶやいた。

あきらめてテレビのリモコンを持ち、テレビのスイッチを入れた。テレビの上には、二人で一緒に写っている写真が置いてある。とても嬉しそうな二人の顔を珂奈子はじっと見つめた。

すると、突然携帯電話の音楽が鳴った。

「はーい、もしもし」珂奈子は元気に電話に出た。

「お疲れ」電話の相手は河野稜だった。

「本当に今日は疲れたよ。どう?そっちは楽しんでいる?」珂奈子が聞く

「楽しいよ。珂奈子が一緒だったら、もっと楽しかったのに。ここの宿はご飯も凄く美味しいんだよ」

「ずるーい。今度は絶対に連れて行ってよ」甘えた声で珂奈子が言う

「うん、絶対に一緒に行こうよ。ここはね、景色も最高なんだ」

「いい写真撮れた?」

「うん、楽しみにしていてね」

嬉しそうな稜の声に珂奈子も思わず微笑んだ

「明日、何時ぐらいに帰ってこられるの?」

「早朝に撮りたい写真があるのと、昼間少し撮ってから帰るから、そんなに遅くにはならないと思うよ」

「じゃぁ、だいたいの時間がわかったら連絡してね。明日はお休みで家にいるから、東京駅まで迎えに行くよ」

「うん、わかった」

「早く会いたいな」

「俺もだよ」

お互い、相手の顔は見えないが微笑みあった。


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