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第一話 世界の終わり03


 最初に揺れを感じた。次に聞こえたのは悲鳴だ。なんだろう、と思う。だが考える必要はなかった。細い路地から大通りに出てみる。するとそこに、モンスターがいた。一体や二体ではない。乱戦状態の人とモンスター。ダンジョンでも見ないような密集率だ。遠く、街の入り口が見える。次から次へ来るわけではないようだった。そうか。これは、この街を、今、ダンジョンとした時に最適な量『わいた』のだ。倒しきればいい。それがわかると、随分気持ちが楽になった。モンスターの大群。それは恐るべきものだ。だが、無限じゃない。それは安心だ。終わりがある。目に見える。そのことは心を楽にする。俺は剣をとる。そして、悲鳴の意味を知る。

 量じゃない。質だ。そのモンスターたちは見たことがないものだった。見覚えはある。だがそのカラーリングを知らない。ということは、上位種。色違いの強敵。ある程度の行動パターン、弱点は同じだろう。だが、威力が違う。或いは切り札があるかも知れない。気を引き締める。俺はそっと。一体の色違いリザードマンを釣って、広い場所を離れる。まずは相手の力を確認したい。そのためには、複数体を相手にするのではなく、一対一に持ち込みたかった。

 あがった悲鳴に視線を向けると、一人のプレイヤーが倒され、身体が人魂のようなものを幾つか浮かび上がらせながら消えていくのが見えた。喉が渇く。久々に、人が死ぬところを見て、緊張が走る。他にも何人かやられているらしいことが、飛び交う怒号でわかった。こんな、攻略済みの、最前線でもなんでもない場所で死ぬなんて、誰も思っていなかったはずだ。

 ……俺たちはいつのまにかすっかり、なれきっていたのだ。この世界での日常に。

『世界はどこであろうと戦場で、非情なものです』先程のメッセージを思い出す。そうだ。ここは、戦って、生き延びる。そういう場所だった。いや、現実だったあの世界だって、同じだ。誰かがクリアーしてくれるのを待っているだけじゃダメだ。俺の戦場は、俺の勝利は、俺の幸福は、俺がつかみ取るものだ。

 それは最前線じゃないかも知れない。世界を変えたりはしないかも知れない。それでも。俺には俺の戦場があって、そこで剣をとらなければいけないのだ。望まなくとも。それしかないのだ。

 剣戟の合間。俺は加速していく思考でそんな当たり前のことを思った。ここにでたモンスターは、本来このあたりであたるよりは強い。だが、その程度だ。倒せない強さじゃないし、正直おもったほどですらない。だがそれは、俺が、今までこの世界で手を抜いていたからだ。安全な場所、余裕で倒せる敵しかいない場所を拠点にしていたからだ。

 路地を抜ける。そこかしこで戦闘音がしているが、おそらく、最終的にはプレイヤー側が勝つだろう。あとは、犠牲をどれだけ減らせるか。

 曲がり角を折れた先、両脇を建物に囲まれた、細い道の先。一人のプレイヤーがモンスターに追い詰められていた。倒れ込んでいて、武器はもう落としてしまっているようだった。弓に持ち替えて射撃では絶対に間に合わない。レベル3のシューター技術では、腰を落ち着けた狙撃は出来ても咄嗟に遠距離射撃を成功させるのは運次第だ。だから俺は駆ける。だが、それも。

 けれど倒れたプレイヤーも、今まで生き抜いてきた者だ。攻撃を受けきれないと悟ると、縮地の書を取り出し地名を叫ぶ。

「転移、アテナイ!」

 それは最初の大地の、最初の街の名前だ。すぐに光がプレイヤーを包――まない。

「え?」

 それは俺と彼と、どちらの言葉だっただろうか。転移は発動せず、モンスターの斬撃が彼を襲う。そして。

 ダメージエフェクトの後、彼の身体は動かなくなり、人魂をはき出しながら溶けていった。

「…………」

 俺は、もう数歩まで近づいていたモンスターに向けて剣を投擲する。彼がいなくなったことで、それはモンスターへまっすぐ届き、わずかなダメージを与えた。モンスターがよろめく。俺は地面を蹴って斜め左に跳ぶ。武器を持ちかえる。その先の壁を蹴り、モンスターを跳び越えながら頭を中心点として回る。三分の二ほど回り終えたところで、今度は身体をひねり、後からモンスターの首めがけて両手の剣を振り下ろした。赤いエフェクトともにモンスターの首が宙を舞い、人魂をはき出して消滅した。

 間に合わなかった。

 それだけを思った。

 俺は剣を手に走る。せめて。

 少しでも犠牲が少なくなることを祈って。

 路地の先には、先程見かけたのはと更に色違いの、骸骨剣士がいた。

 これは、まずいかも知れない。更に強い可能性がある。

「……なら」

 俺がやるべきだ。

 両手の剣を強く握りしめる。

 俺が何をしてもしなくても、やがて終わるこの攻防で、それでも誰かが助かる事を願って。


第一話 了

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