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終章

終章


 季節は巡るし日々は繰り返すのに、人生は取り返しのつかないことだらけだ。

 珍しく、意味もなく早起きをしてしまった朝に、俺は使っている部屋を出て、街を歩く。石で舗装された街路に、行き交うNPC。現実世界と変わらない。広場を抜け、メインストリートを歩いて行く。もう、モンスターに怯えることはない。浅く息を吐く。

 開け放たれた門の横の壁には、今でもはしごがかかっている。特に外す理由もないのでそのままになっているのだ。俺は、それをのぼる。壁の上から目の前に広がる草原を眺めた。どこまでもどこまでも広がっている草原。

 どのくらいそうしていただろうか。隣に人の気配を感じた。

「レイはもっと、個人主義なのかと思っていました」

「いや、自分ではそのつもりだけど」

「そうですか」

 リッカは俺の隣に並んで、同じように草原を眺める。

 南のほうから回り込んできた、討伐隊の様子が見える。俺はその中に、クレプスさんの姿を見つける。

 弓を引いて、天へ矢を放つ。空へ向かった矢は花火のように爆発し、何度か繰り返す頃にはみんなが門の方へあつまってくる。第二の大地の支配者が討伐された、というメッセージが先日きた。ここが最初なのか、それとも各大地にいないとメッセージが入ってこないのかは、まだわからない。

 モンスターに占拠されていた町はどうなっただろうか。それに併せて解放されているのか、いた分は消えないのか。まずはそれを確かめて、次は橋について考えて。リッカから聞いた外の事情のこともある。やることはたくさんある。立ち止まっている時間はない。振り返るのは、まだ先のことになりそうだ。

 空は今日も青い。何もかもをのみこむ、透明な青。意味もなく世界を照らす太陽を見上げて、そのまぶしさに、俺は少しだけ涙した。


(了)

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