第六話 決戦01
第六話 決戦
1
砦から放たれた何本もの矢がモンスターへ降り注ぐ。しかし、迎え撃つにしてはやはり明らかに本数が少ない。本来なら何十本と降り注ぐべきシーンなのだ。
一番近くに落ちた俺の矢が爆発し、薄暗い夜を引き裂いた。ぼう、と燃える火に照らされるモンスターの大群は、どれも見分けのつかない醜い姿をしている。俺たちはひたすらに矢を放つ。一体でも多く、先に殺しておくために。数で劣る俺たちにとって、それは大切なことだ。
「ウヴォォォォォォ!」
先頭に立つオークが門に斧を打ち付ける。更にモンスターの一部は門から少し離れたところに回り込み、のぼりはじめる。
「3と4の間だ! 叩け!」
誰かの声に、メンバーが走る。
「もう一方は8だ!」
予め決めてあったポイントに従って声を上げる。壁を上がってくるモンスターをたたき落とす。俺は門が破られるまでひたすらに矢を放ち続ける。門周辺は俺の矢でえぐられでこぼこになっているが、数が多すぎるモンスターはそれでも代わる代わる門に武器を打ち付け続ける。死体が消える間も惜しむように詰めかけてくるので、どの程度撃破できているのか、或いはまるで減っていないのかがわかりにくい。
しかしそれもしばらくの事、予想通りに門は破られる。ここからは市街戦だ。
「ゴォォォォォォォォッッッ!」
モンスターの叫び声。散っていたモンスター隊も戻り、門へなだれ込む。
「門が破られたぞ! 散開!」
俺は弓兵隊や、壁際でモンスターを落としている部隊に声をかける。街へ戻り、あとは各パーティーでの行動だ。
俺も身を翻し、門の上から近くの建物の屋根へ飛び移る。そしてそのまま集合場所まで屋根から屋根へ移動する。街下へなだれ込んだモンスター達はある程度まで直進し、戦闘を始める。俺は屋根の上を駆け、合流ポイントまでたどりついた。程なくてリッカとシェリルも現れる。
「よし、行こう。予定通り戦闘開始後は自由に動く。特に注意すべき集団の敵はみんなであたろう」
俺たちは元々別のパーティーだ。無理足並みを揃えようとしてがたつくよりも、ある程度自由に動いた方が強い。石造りの街路を駆ける。モンスターを見つければ襲いかかる。まず見つけたのはオークだ。まずは手にした弓から矢を放つ。オークはその矢を棍棒で弾くが、同時に爆破、ひるんだ隙に剣に持ち替えてつっこむ。左手の剣で目のあたりを裂き、更にひるませて、右手の剣を喉に突き刺す。ひねり、横に払う。散っていくオークをみて次へ。ダメだ。今のオークは弱かった。俺には強弱の判断が見た目でつかないようだ。簡単に倒せるもの、苦戦するもの。その差がつかめないと、致命的なミスを犯す。ならば常に安全策でいればいいのだが、初日と違い人数に劣る今、それはそれで全体の敗北に繋がる。
喉が焼け付くような不安。上手く回らない頭。けれど、今、どんな時よりも、俺は生きている。戦場に身を置いて、間違えば死ぬような場所で、それを愉しんでいる。踊るように剣を振るう。
ああ、そうだ。愉しい。
上がる心拍数が、分泌される脳内物質が、俺の神経を研ぎ澄まし、反応速度を上げていく。
もっと速く。もっと強く。さらに激しく。なお疾く。
対峙するはオークの主。手には一メートルを超す大剣。刃幅も広く、鈍器としても十分な威力を持つだろう。派手な装飾の鎧を纏い、こちらを睥睨する。
紛れもない強敵。俺の心臓はさらに速くなる。ああ、ああ、世界はこんなにも輝いている。
駆ける。左手の剣を振るう。あっさり弾かれ、手放すモーションをキャンセル。右手の剣も読まれるが、更に次の左手の剣は奴を捉える。浅い。まだまだだ。奴もそれをわかって、切り傷程度無視してこちらを攻めたてた。剣が舞う。一、二、四、八、弾かれ切り裂き打ち合い躱し折れ貫き剣が舞う。剣同士が打ち合う金属音は置いていかれ、銀線だけが闇夜に奔る。加速された思考は唯ひたすらに、剣を振るえと命じ続ける。型も思考もない、勘に任せた人殺しの剣。弾かれたモーションに勢いを乗せふるれる剣、受けた瞬間俺の剣ははじき飛ばされる。だがその隙間を縫って持ち替えた俺の剣が奴の身体を捉え、それでも奴は止まらずに剣を振るう。
「うおおおおおおおおおお!」
もっとだ。もっと速く。奴が追いつけないくらい。強いダメージがのるくらい、疾く。
一閃二閃重ねて剣を、一歩踏み込む、今より深く。麻痺する思考に加速する視界。次だ。
振り下ろした俺の剣が爆発する。当然ダメージは来るが、わかっていれば更に踏み込める。俺は右手にした手持ちで最強の剣を奴に向けて突き刺す。数多の攻撃でひび割れた、その隙間へと。最速で振り抜いた剣は俺の想像を超え、右手の拳まで奴の身体に埋まる。両足で奴の鎧を蹴りつけて無理矢理引き抜いた俺が身体を起こすと、それは霊魂をはき出しながら消滅した。
「はぁ、はぁ……はぁ」
ふりすぎた腕が痛い。辺りに散らばる剣の、果たしてどれだけが無事だろうか。
俺は建物を背にして、座り込む。
ああ、ルーク、やったよ。
体重を預けるようにもたれかかると、首が上をむく。そこに広がっていたのは星空だ。あの日と変わらない、いつでも変わらない、星空。




