第五話 帰路01
第五話 帰路
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帰り道は無言に近い。橋が落ちている。第三の大地と連絡が取れない。その思いが心にのしかかる。結局、何の成果も得られなかった。状況は好転していない。
いや、わからない。存外街へ戻ったら、もう支配者が討伐されていたりするのかも知れない。モンスターが弱体化していない今、それがいいことなのかもわからないが。
だめだ、どんどん思考がマイナスに向かっていく。日が沈みはじめる中、街まではたどり着けないので、一旦無駄なルートでも、でも俺たちはモンスターのいる街から離れて野営をすることにした。
だが、その最中も空気は重い。何を話していいのか、わからない。俺たちは見張りを決めたりの、必要最低限だけの会話で野営に入った。
夜。俺は先に休むことになって、テントで寝る。
「レイ、交代の時間です」
身体が揺すられて、目を覚ます。リッカが横にいた。
「ああ。ありがとう」
短く告げて、俺はテントを出る。昨日や一昨日ならもう少し会話もあったのかも知れないが、今はただ暗い気分のまま言葉少なく、逃げるようにすべきことをこなす。
先に来ていたルークがたき火の前で俺を迎えた。お互い、軽く頭だけ下げて、向かい合う。
何か、俺たちが失敗したわけじゃない。それはわかっている。けれど、何もできなかった、という気持ちが強い。
別に、英雄になれるなんて、思っていたわけじゃない。いや、閉じ込められたとき、街にモンスターが来たとき。状況が動く度に、ちょっとは思った。一瞬は考えた。だけど、冷静になればわかる。華やかに活躍して脚光をあびる、なんて絵空事だ。何度も何度も思い描いては裏切られた、ただの妄想だ。けれど。
でも、そんな自分にだって、やれることはある。栄光を手にするような偉業ではないかも知れない。自分じゃきゃ絶対に無理だった、替えのきかない伝説ではないかも知れない。それでも、英雄じゃない誰かがやらなければいけなかったことを、英雄の手助けになる一手をうてる、そんな「何者か」にはなれると、なるのだと、思っていた。
その結果がこれだった。
橋は落ちていた。第三の大地と連絡は取れない。援軍はよんでこられない。ただ、行って帰ってきただけ。何の成果もない。そんな有様だ。
どうして、こんなに上手くいかないんだろう。
揺れる炎を見つめながら、考える。警戒はスキルに任せて、頭は別のことを考える。
けれど、何も浮かばなかった。挽回の手、なにか出来ること。自分が、自分たちが、橋を目指しただけの意味。
「レイ」
声をかけられて、顔を上げる。ルークがこちらを見ていた。
「納得、出来ないかも知れないけどさ」
ルークの声は穏やかで、俺のようにただ現状を嘆くだけではないようだった。何か、見つけられたのだろうか?
「や、そんな期待には応えられないけど」
と、表情があまりにわかりやすかったのか、ルークが肩をすくめる。
「おれたちが橋を見に行ったのは、別に無意味なんかじゃないよ。『橋が落ちている』ということがわかった。これは直接見に行かず、ずっと街にいたらわからなかったことだよ」
「……ああ」
「この情報で、対策が練れる。時間はかかるけど、例えば街にいる比較的レベルの低いメンバーをつれて狩りに行き、カーペンター技能を上げる。そうすれば橋の再建だって出来るかも知れない。少なくとも舟を大量に並べて大陸間を繋ぐことは出来る」
「うん」
「橋が落ちてるって知らなかったら、それは出来ないことなんだ。だから、意味はある」
俺は頷いた。そうだ。微かかも知れない。目をみはるようなものでは無いかも知れない。だけど、全くの無意味じゃない。活かす手段だって、ある。闇雲に落ち込んで、そのわずかな情報すら活かす事が出来ないのは、愚かだ。
俺はいつだって視野が狭い。傷つけられる前に自分で傷をつけて、見逃してもらおうとばかりする。今回だってそうだ。役たたずと罵られる前に、自分で罵って傷を浅くしようとした。そんなこと、ばっかりだ。
「それにさ――」
と、ルークは途端に余裕がないというか、手持ちぶさたというか、頬をかきながら続ける。
「この旅で、得たものだって、あったし」
「……得たもの? 情報とは別に」
「おう」
何故か急にぶっきらぼうに、ルークは頷いた。目は少しそらされているというか、泳いでいる。
「おれさ、なんていうか、」
「うん」
「結構、しばらく、一人だったんだよ。前のパーティー、やられちゃってさ。……勝てない敵なんかじゃなかった。安全マージンだって十分以上だった。だけど、ちょっとしたことで崩されてさ。あとは混乱している内に、そのまま」
「そうか」
「おれと、もう一人、何とか逃げ延びたんだけど、そいつもう、完全に心折られちゃって、『ごめん』って。『戦えない』って、最初の街に帰っていったんだ。……おれはさ、なんていうか、ショックだったし、困ったけど、そうかって。他のパーティーを探す、とか考えられなかったけど、でも、最初の街に逃げて留まってようとも、思わなかった。だからソロでいた。一人で、最初は大変だったけど、おれは弓兵だし、びびりまくってたけど、案外いけるじゃんって、そのうち思うようになって」
俺は頷いて、ルークに続きを促す。たき火がパチパチと音を立てて燃えている。
「自分の限界もわかったし、無理じゃない範囲で戦ってて、それで、そういうものかって思ったりして。なんでだろ。今でもわかんないけど、おれ、意味なく一人で戦ってて――」
そこで、ルークは俺の方をまっすぐに見た。
「だけどさ、今回こんなことになって。大変だったし、誤解されそうだけど、よかったって、少し思った」
「よかった?」
「うん。レイとかリッカとかシェリルとかと出会えて、旅が出来て、それはよかったって、思ったんだ」
「そっか」
「だからさ、もしよかったら――街へ戻って、この大地の支配者が討伐された後も、短い間かも知れないけど、おれと、パーティー組んでくれないか」
「ああ」
俺は頷いた。効率、気をつかう、ソロでいた理由はいろいろあった気がする。一人になれて、一人での戦い方ばかりで、さっそく団体行動についての不安があっさりと顔をのぞかせてはいるけれど、それでも。
俺には多分、必要とされて断る理由なんて、なかった。
だから、頷いた。もう一度、強く。
「こちらこそよろしく、ルーク」
「……ありがとう」
そう云って、ルークは笑った。照れくさそうに。俺もなんだか恥ずかしくなって、笑う。




