第四話 平坦02
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それが物語と自分を同化させるためなのか、そういう思考だから物語を楽しめるのか。ラブコメの主人公たちは頑ななまでに受け身だし、自分への好意を信じない。それは結局のところ対象は対象でしかないという、ヒロインに人格を認めない思考パターンなのではないだろうか。例えば俺はそうだった。
平和とか暇っていうのはよくないことだ。いろいろ無意味なことを考えすぎる。してみると俺は、レベル上げも社会も大嫌いだから、戦闘キチなのかもしれない。
兎のように馬車に揺られながらそんなことを考えた。
「どうしたの?」
と隣に座っていたシェリルが問う。なんでもないよ、と俺は答えて、前を向く。馬を繰るリッカの背が見える。横を見れば歩くより数段早い勢いで流れていく外の景色。町を出た後、次の町へ向かうために森を通っているから草原よりは変化を目にしやすい。といっても流れるのは木木木の群れで、なんだかよくわからない常緑樹を百も二百も通り過ぎていく。これなら次の町へは随分早く着く。そして、その町を越えればあとは橋まで中継地点なしの旅になる。さして長くもない旅だ。第三の大地がよほど悲惨なことになっていない限り、俺たちの旅はそこで終わる。状況を伝えれば目標達成だ。とんぼ返りになるだろう帰路も、この様子なら何事も起こらないだろう。
ああ、結局。このくらいの変化じゃ、世界が終わったくらいじゃ、俺は何も変われなかった。今だって馬車に揺られて、俺は支配者なるボスと関係のないお使いをこなしている。それが重要だというのはわかる。だが同時に、ここが中心ではないというのもわかる。今頃討伐パーティーは支配者を見つけているだろか? 場合によってはもう倒してしまっているのかも知れない。
俺の歩行より何倍も速い速度で前へ進んでいて、俺はただ馬車に乗っているだけで、世界は俺と関係なく進む。
「っ! モンスターです」
こちらに声をかけながら、リッカが速度を落とし馬車を止める。
「どうした?」
声をかけるルークにリッカが答える。
「前方にモンスターが。こちら側ではなく、あちらの町に向かっているようですね。数は三なので、本格的な襲撃とは思えませんが」
俺たちを身を乗り出して、四人して前を見る。いた。モンスターだ。三体。未だ遠いが、見える範囲。森が切れて町へ続く細い道があるあたりに。
「なるほど。三体か。確かに」
頷くルーク。
三体か、と俺は思う。三体。この数に意味はあるだろうか。俺たちは四人だ。それは行動に補正がかかる最大人数だ。一人は嫌だ、とシェリルはいった。敵は三体だ。
「町へ着く前にかたづけるか。このまま馬車で追いつこう」
「わかりました。では三人とも、馬車に戻ってください。身を乗り出したままだと危ないですよ」
俺たちはリッカに従って、馬車に戻る。ゆっくりと馬車が走り出す。徐々に速く。やがて先程までのようなスピードになった車内で、俺たちは戦闘の準備をする。
「そうか……前の町が安全だったから忘れていたけれど、イーリアス以外にもモンスターが来る可能性はあったのか」
「あそこは一番目立つ都市だからな……。或いはもしかしたら、支配者の拠点があの近くにあったのかも知れない」
「それは同じように、こっちの方にあるかも知れないって事か」
「だな」
俺たちは頷きあう。
モンスターが馬車に気づく。馬車はとまらない。ひき殺す勢いで突っ込む。モンスターが跳んで躱した。モンスターの進路をふさぐように、町を背にした馬車が止まる。そして俺たちは飛び降りた。戦闘だ。
今回はわざわざ全員で順番に戦う必要がない。俺は近い一体に斬りかかる。初撃の振りおろしは当然のように防がれるが、それは想定済みで武器を手放す。両手とも外して高威力のものに持ち替えた。慎重に戦う理由もないので、最初の一撃で出来た隙に両手の剣を連続で叩き込む。仮想の肉を裂く感触。血のエフェクトを浴びながら、強く踏み込んで腕をふるう。相手になにかする隙を与えない、一方的な蹂躙。みるみるモンスターのHPは減り、致命エフェクトとともに散った。
見れば他の二体も、もう随分とHPを減らしていた。これなら無理に加勢して混乱するより、おとなしくまっていたほうがいいだろう。
すぐに戦闘は終了した。うん、このくらいの敵ならさして苦戦はしない。イーリアスに敵が来たときのような恐れがないから、戦い方にも余裕が出る。そうだ、だって随分前から、俺たちは普通にモンスターと戦って生きていたんだ。多少強くはなっても、やることはかわらない。
「ま、こんなもんか」
「しゅーりょー」
たいした怪我もなく馬車へ戻る。次の町は、もうすぐだ。




