表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/31

番外編 銀朱の盾03


 ドラゴンから逃げるために、細い路地に入る。他の三人はどうだろうか? 街の中さえも、あちこちから剣戟が響いている。悲鳴も聞こえている。どこを目指すでもなく、おそらくドラゴンは来られないだろう、細い道ばかりを選んで通っていく。時折通常サイズのモンスターと出会い、倒す。本来よりも随分と強いが、狭い道を盾でふさぐようにしてちまちまと削っていく。地味で非効率的だが、比較的安全な方法だ。

 どのくらい時間がたっただろうか、ポーン、というシステム音に気づき、ウインドウを開くと、アイテム入手のメッセージ。『存意の炎』

「え?」

 リッカは思わず声を出した。どうしてこのタイミングで? という疑問の答えにはすぐに行き着いて、けれど他の答えを探そうとした。しかし見つからなかった。リッカは足を止めて、ぼんやりと立ち尽くす。

 喧噪が遠く聞こえる。今も、誰かは戦っていて。

(私は、どうしたらいいんだろう)

 ふらふらと街を彷徨う。気がつくと少し大きな通りに来てしまっていたけれど、それに気づく余裕すらなかった。

「あ」

 通りの向こう側。広場のあたりに、その背が見えた。あの、ドラゴンだ。こちら側からでは、そのドラゴンの身体が邪魔でよく見えないが、誰かと戦っているようだ。悲鳴がここまで聞こえてくる。

 いかなきゃ、と思う。

 いっても無意味だ、とも思う。

 今更自分一人でいったところで、何が出来るのだろう。連携もとれない誰かとともに戦って、どんな成果があるのだろう。

(でも)

 もう、それでもよかった。仲間はいなくなって、これからのあてはなくて、なにもわからなくて、もういいや、と。投げやりな気持ちで盾を構え、歩いて行く。

 突然、ドラゴンが暴れ出して、リッカは足を止める。腕を振り回したかと思えば、のけぞって悲鳴をあげる。人が、じゃなく、あのドラゴンが。

「え?」

 一人の少年がドラゴンの身体を駆け上がって飛び出てきた。弱点部位である首のところへ着地して、剣を振るう。数え切れないほどの疾さで打ち付け、そのたびに剣が宙を舞う。やがて今までとは違う剣に持ち替えると、深くつきさし、横へ向けて引き裂いた。一際大きなドラゴンの鳴き声がして、ばったりと身体を倒す。

「すごい……」

 少年は竜の消滅を確認すると、大の字になって広場に寝転んだ。

 リッカずっと、地面に横になった少年を見ていた。


 やがて、街のモンスターは掃討され、みんな何となく広場に集まっていた。先程の少年もそこにいて、リッカは少し距離を空けて、彼のことを見ていた。深い意味はない、と思う。行く場所もなかったし、出来ることもなかった。

 することもないまま広場にいるのも無意味に思えてきた頃。少年が立ち上がり、広場を出て行こうとしていた。見ると何人かそうしているようで、リッカも立ち上がりそれについて行く。

「ちょっといいかな」

 広場を出たあたりの道で、バックスが七人に歩み寄ってくる。リッカを含めみんな、心当たりがないのかそのまま通り過ぎようとした。

「あ、七人ともなんだ。最終シナリオについて話がある」

 少年たちがそれに反応した。リッカはぼんやりとしていて、まだ少年の方を見ている。

「……うん、もうリミットかな。俺についてきてくれるかい? 酒場で少し話をしたいんだ」

 どちらでもよかった。でも、少年がついて行くようなので、リッカもついて行くことにした。いろいろなことは、後で考えよう、と思った。

 こうしてリッカは酒場へ行き、討伐隊はいることになった。


§


「どうかした?」

「……なんでもありません」

 二日目。野営を終えて町を目指して歩いていたリッカは、隣のレイに声をかけられた。

 自分はどうしてここにいるのだろう。その答えは、まだ出ていない。

「お、見えてきたぞ」

 日も頂点を過ぎた頃、先頭を行くルークが三人に声をかける。結局、モンスターはそこまで過剰に増えていないようなので、馬車をかりようということになった。けれどとりあえず、今日はあの町に宿泊する。ベッドの寝心地は特別いいわけではないけれど、安心して眠れるのはいいことだ。

(誰かに剣を捧げる、つもりはないけれど)

 隣にいる誰かのために盾を使えたら、それはとても幸せなことだな、と、似合わないことを考えた。

 もう町はすぐそこだ。駆けだしたルークを追い抜いて、シェリルが走る。

「あ、ずるいぞ、抜くなよ!」

「いっちばーん!」

 そんな二人に苦笑しておいて、レイも小走りに二人を追いかける。

 そんな三人を眺めながら、リッカは特に速度を上げもせず、背中へ向けて歩いて行く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ