第三話 旅立ち02
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山や丘は遠くにあって、しばらくは平坦な道が続く。時折モンスターはいるが、そもそもの仕様としてはこちらからダンジョンへ潜って敵を倒すタイプなので、半ダンジョンの森フィールドや山フィールドならともかく、街間の移動ではさして敵と当たらない。もちろんそれは平時の話で、今回はダンジョン並みにモンスターがでる、ことを想定してのパーティーだったのだが……。
「次の街までこの調子なら、馬車とか借りてもいいかもな」
ルークの言葉に頷く。
「そうだな。場合が場合だし」
馬車なんて本来つかわない。移動は歩けばいいし、歩くのが面倒な距離なら縮地の書を使う。娯楽とか、あるいは抱えきれないほどのアイテムを運ぶ(普通のプレイヤーは、まあ必要ないだろう)くらいだ。徒歩よりは当然早いが書より遅い馬車は、主にファンタジー世界を満喫するための小道具でしかない。書が使えない今となっては、馬が最速の移動手段なのだが。
しかし……今更書を使えなくした意味はなんなのか。この一年半。閉じ込められたことをはじめ突然ではあったが、ゲームはフェアだった。モンスターが街へ来るのは、まだいい。今まではわざわざ来なかっただけで、矛盾はない。支配者の出現もいいとしよう。階級制がモンスターにあるかどうかは、確認されていなかっただけだ。モンスターが攻めにくる理由としても理解は出来る。だが、書の使用不可にはどんな理屈がつくのだ? あるいは、ずっと守ってきたフェアを捨てるだけの何かが発生しているのか。
「私はライダー技能を持っているので、馬車を使っても四人は維持できますね。隠密はともかく他のボーナスはいかせます」
「お、ほんと? さっすが」
「馬車のったことないやー」
「俺もないよ」
シェリルが目を輝かせる。
「いいよねー、馬車。すごくそれっぽい」
「確かに定番っぽいよな。よし、おれは馬車から飛び降りて戦闘だ」
「いやそれ縁起悪いですよ……」
「しかしまわりこまれてしまった!」
「素早さステータスとは。全力移動を宣言?」
「まざってるまざってる。しかも離脱は全力移動じゃない」
人間、喉もと過ぎればなんとやら。緊張感ややる気なんて持続しないものである(他人事風)。なまじ、旅立つ時は気合いを入れていただけに、拍子抜けした感が強い。出てくるモンスターも、普段よりは強いが、その程度だし。
結局。劇的になんてかわりはしないんだ。何があっても。
「っと。そろそろ日が沈むな。野営の準備するか」
「そうだな」
ルークの言葉に頷く。
あまりに何もない一日だった。劇的であればいいという事でもないはずだが、本当、なんというか、肩すかしだ。
沈んでいく夕日を見ながら、何事もなく野営の準備をする。そういえば野営なんて久しぶりだ。最初の頃を思い出す。まだ、まともに寝床を確保しておくことが難しかった頃。
だけど、それだけだ。赤く染まった空は規定通り宵闇に塗りつぶされていく。




