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第二話 討伐隊04


「やっほー」

 と、パーティー三のテーブルに着こうとすると、少女が声をかけてきた。快活そうな、大きな瞳と八重歯。外ハネの髪は肩当たりまでで、動きやすさ重視なのか、露出は大目だが異性の気を引こうという感じはしない、色っぽさよりは天真爛漫さを窺わせる。

「どうも」

 挨拶をして席に着く。俺が四人目だったので、「悪いな、待たせちゃって」と一声かけた。

「いやいや、んな待ってないし気にすんなって。あ、待ってないってのは時間的な意味な。お前の事はちゃんと待ってたから、ああ、いやそれじゃ気を、ううん?」

 次に声をかけてきてくれた気さくな男は、なんだか随分気にしいみたいだった。でも、いいやつそうでよかった、と思う。こちらも軽装でマントをつけている。双剣士の俺も基本的には重装備ではないので、このパーティーは見た感じ、あまり物々しい感じがしない。別にモンスターが、こちらの容貌にびびったりはしないだろうから関係ないのだが。

「ルートの話をしましょう」

 と最後の一人が素っ気なく云った。彼女は髪をポニーテールにしていて、整った美人、という印象を与える。可愛いや、綺麗でもなく美人なのは、その表情がややそっけなく、冷たそうな印象を与えるからだろう。

「ちょーっとたんま! 一応自己紹介しとこうぜ。パーティーのレベルとクラスはわかっていてもさ、誰が誰だかはわかってないわけだし。あとほら、なんていうか、お約束的に?」

 そう云って俺たちを窺う男に、俺は頷いた。

「いいよー。あたしはシェリル。レベルは29ー。クラスは戦士。技能はレベル8のデストロイヤー。よろしくね」

 最初の外ハネ少女、シェリルはそういって頭をぺこりと下げると、と男の方を見た。

「お、前衛か。それは助かった。おれはルーク。レベルは28。クラスは弓兵。技能はスナイパーとイレイザーがレベル5。完全射撃スキルだ。よろしく」

 俺も男に続くことにした。

「俺はレイ。レベルは37。クラスは双剣士。技能はアサシンが7。ほぼソロだったんでスキルはバランスわるいかな。よろしく」

「うぇ、37? 結構強いな」

 ルークが驚いてみせたので「ソロだとなかなかすすめなくて」と言い訳して、ポニテ少女の方を見る。

「リッカ。レベル32の騎士。技能はパラディンが9」

 短くまとめて、一同を見回す。

「じゃ、じゃあ、ルートの話しよっか?」

 気圧されたのかルークがそう云うと「そうね」とこれまた短く応じた。彼女もソロだったのかな、と俺は思う。なんていうかその、オブラートにつつんでマイペースなとことこか。人のこと云えないけど。

「ところでさ、」

 俺の声に三人が一斉にこちらをむいて、俺はすこし戸惑う。いや、別にそんな、人になれてないとか云うわけではないが、ないが、うん。

「えっと……第三の大地に行ったことある奴っていたりする?」

「いや」

 と最初に答えたのはポニーテールのリッカ。簡潔で早いのは迷う内容でもなかったからなのか、話を進めたいからなのかとか勘ぐってしまうくらいには、俺は人になれなてな……距離感に慎重な男なのだ。そう、それだ。

「ないな」

「ないよーっていうか」

 とシェリルは付け足す。

「この街から向こう側に行ったことが、まずない。まだ手前側でもいっぱいっぱいだったからー」

 さて、と俺は今更のように思い当たる。自分がソロだったから考えが遅れたが、パーティーがフルに残って全員でここにいるなら、きっとそのパーティーで一つの扱いになっているはずだ。連携や空気を考えれば、わざわざパーティーを崩すメリットは少ない。そして、パーティーメンバーがいるのに酒場から去って行く可能性は、決して高くないだろう。パーティーを広場に置いてここにいる可能性も同じだ。

 となると、ここにる人間のほとんどは、少なくともパーティーの一部を、下手すれば自分以外全滅、なんて状態なんじゃないだろうか。それに思い当たるのが、29のシェリルがこの街より手前でいっぱいいっぱい、といったからだなんて――ソロでもクラスが戦士や騎士で対複数戦想定のデストロイヤーが8なら、安全マージンでいかないにせよ、いっぱいいっぱいでいけないなんてことないだろうと考えた。つまりそれは――自分は本当に、心底他人といるのが向かないな、と思う。

「こっちに尋ねたって事は、レイもか?」

「あ、ああ。そうだな。俺も向こう側に渡ったことはない」

 こうして気さくに話しているルークのレベルは28。完全隠密からの狙撃ならソロもないとは云い切れないが……。

「ま、まあそんな暗い顔するなよ。やるしかないんだ。やってやろうぜ」

「え、ああ」

 俺の表情を勘違いしたルークがそういいながら自分の手を叩いた。パシン、と軽い音がする。

 考えても仕方のないことだ。ましてや、問うようなことでもないだろう。ただ、心にはとめておくべきだ、と感じた。今は、それしか出来ない。

「ルートだけど」

 とリッカが広げていた地図を指でなぞる。

「直線距離だと障害物が多い。途中の補給を考えたら、やっぱりセオリー通りに町の方へ迂回して行くべきだと思うんだけど」

「ああ。多分それが一番いいと思う。それと、早いことは大事かも知れないけれど、一日二日でいける距離じゃないんだ。あんまり最初から飛ばしすぎない方がいいかな」

 奇をてらう必要はない。息切れして全滅よりは、確実に第三の大地にたどり着くべきだ。出発は明日。四パーティーとも午前九時にこの街を出る。準備もあるだろうし、俺たちは解散することにした。見ればもう解散しているパーティーもある。

「それじゃあ、また明日」

 そう云い合って、別れた。


 帰り道。俺は夜空を見上げた。昨日までと何も変わらない星空だ。

 けれど地上では多くのことが変わってしまった。今までのような、その日だけを見て、比較的安全に暮らしていけるわけじゃない。いや、そういう生き方も選べたはずだが、そうしなかった。

 俺は、旅に出る。わずかな希望と、自分の思いを背負って。

 部屋は解約しないし、片付けもしないでおこう。俺は、ここに帰ってくる。

 ぐっと手を握りしめた。瞬く星は俺なんてみていない。だけど、それでよかった。


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