立春
ゾンビゲーに限らずホラーゲーの女性型クリーチャーって、やたら美人とかやたらスタイルの良いやつが多いよね。
目の前にいる存在もまさにその通りだ。
ー透き通るような金髪はい一本一本が光を反射しキラキラと輝いている。
ー顔立ちは生前の面影を半分(物理的に)しか残していないが、それでも非常に整っている。
ーその瞳は灰色で大きく、白い部分との対比が美しい。まさに、吸い込まれそうだ。…一つしかないが。
ーその鼻梁はスッと通って、唇は薄く、肌の白さと対比するような赤をしている。まぁ、赤と言うより赤黒いんだが。
ー肌と言えば、抜けるように白いその肌は、血が通っているか疑問に思うほどだ。通ってないから当たり前か。
ーその胸は暴力的なまでの大きさを誇り、形も完璧に維持している。白い物がウゾウゾしてるけども。
ーその腰は抱けば折れるかと思うほどに細く…言ってしまうが、内蔵は入っていないため細さに拍車がかかっている。
…
……
………
腐ってなければ絶世の美女なのに…。
ところで気のせいじゃなければ、
『止めて!殺さないで!』
って言ってる気がするんだよね。
『まだ、人としての意識があるのよ!』
うーん。残念なことに呻き声をあげながら手を振るその姿は、言葉がわからなければこっちに襲いかかろうとしているようにも見える。
「はぁー。大丈夫。殺す気はないよ。」
『えっ?言葉が解るの?』
「マァネー。」
『良かった!自宅に居たはずがいきなりこんなところに飛ばされて、困っていたのよ…。いきなり死んじゃうし…リビングデッドになっても意識があるし…こんなこと聞いたこともないわ。』
ん?若干違和感が…。
『まぁ、そんなことよりも、あなたはどうして私の言葉が解るの?』
「さぁ?それは俺にも解らん。」
『うん。理由はどうだって良いわ。重要なのは言葉が通じるってことだけ。で、助けて欲しいのだけど…』
うーん。ゾンビを助けるメリットは…。
いや、モテる人は大体こう言う。言葉が通じればそれは人だと。そうして差別を受けている美女たちに惚れられてまうんやな。
つまり。
「もちろん助けるさ。俺も言葉と意志がつうじる相手を殺そうとまでは思わないからな。」
『ありがとう。助かるわ。まずは、この体を何とかしたいんだけれど。』
んー。なんだろう。この助けてもらうのに慣れている感じは。
「それについては大丈夫。まずはゾンビを500匹ほど殺せば体の修復が出来るようになるから。それを使えば綺麗な体に戻ることが出来る。」
『500匹!そんなにやらなきゃいけないの?あの汚いものにそんなに触りたくないわ。何とかしてくれない?』
「ア、ハイ。…じゃなくて、自分でやらないとダメだと思うぞ。視界に数字が表示されているだろ?それが、経験値みたいなものでな。ゾンビを狩った分だけ上がるんだ。で、規定値に達すればレベルみたいなものが上がるんだ。」
『ふーん。…ところで、あなたはなんでそんなに詳しいのかしら?人間よね?』
「それは俺もゾンビだからだよ。」
『えっ?そうなの?』
「そうなの。修復スキルを使えば生前の姿を取り戻すことができるんだ。そのスキルを取るためにゾンビを狩る必要があるんだ。」
『なるほどね。わかったわ。少し我慢する。私の美貌を取り戻すためだもの。』
高飛車系なのかな?
「わかってくれたところで、外に出ようか。」
『あっ。そう言えば、外に私の追っかけがいた筈だけど、どうしたの?』
「えっと…知り合いでした?」
『なんで急に敬語になってるのよ?』
「いやー。どうしても通さないって言ってたものですから、殺しちゃったんですよ。」
『えっ?あれを倒せたの?』
「あら?意外とショックじゃないのね…。」
『私もあいつには困ってたのよ。ほとんどストーカーになってたし。そのわりに、音響魔法の使い手で、追い払うには勿体ないくらい優秀だし。』
ん?
『あれで、顔が良くて言動がまともなら良かったのに…。』
「ちょっと待った。魔法?」
『えぇ。教会魔術の音響魔法。音の反射で周囲の探査もできるし、衝撃波を放って攻撃もできるってあれよ。本当は讃美歌のために作られた魔法なんだけどね。』
「えっと…。あなたはどちら様で?」
『あ、ごめんなさい。助けてもらったのに名乗り忘れてたわね。イリーツ国の聖女こと第二王女のイスカ・イリーツよ。よろしく。』
…
……
………ここは何処だ?