表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
PR

アネモネ

作者: ふつか苺味
掲載日:2013/05/17

ハッピーエンドではないと思うので、ハッピーエンド主義の方の閲覧はお断りいたします。

読んだ後で気分を害されても、作者は一切責任を負えませんのでご了承くださいませ。

「今日も先生に怒られたんだ」


 俺は半泣きで愚痴を零していた。

 こいつに愚痴を聞かせるのは俺の日課となっていた。




「お前怒られてばっかりだな。何したの?」

「先生の顔写真で指名手配のポスター作って学校中に貼った」

「馬鹿……」


 空は橙色に染まっていた。

 ビルや住宅街や、電柱の影が、黒く変わる。

 それを薄暗いこいつの部屋から、二人で眺めていた。

 窓際に置かれたアネモネの造花の赤も、染まっていく。


「アネモネ、っていうんだっけ、あの花」

「ふうん」

「ふうんじゃないでしょうが」

「だって花の名前なんか知らない。あれ造花だし」

「造花なの?」


 明かりのない部屋で、あいつは静かに頷いた。

 長い睫毛が小刻みに揺れ動くのを、俺はただ見つめていた。


 くだらない話をしながら、再び空を見た。

 いつの間にか橙色が濃くなって、空は紫色を帯びていた。

 なんとも言えない甘ったるい空気が、辺りに広がった。




「……ふふ」

「何? 気持ち悪い」

「あのときの旅、思い出した」

「あれかぁ。旅という名の家出」

「いや、駆け落ち」




 ――あの日も、こんな色の空だった。


 俺はお前を連れて、手持ちの金が尽きるまで電車で旅をした。

 金の尽きた駅で降りて、そこで二人で暮らしていこうって、甘すぎる考えも、あった。




「お前とならどこまでも行けるって、本気で思ってた」

「連れ戻されなければ、どこまでも行けたよ」

「…………ごめん」

「なんで謝るの」


 冷たい手が俺の頬の痣に触れた。

 こいつの親に殴られた痣が、まだ生々しい。




 空は既に暗くなり、濃い紫色が遥か遠くに見えた。

 ちらちらと、小さな星が踊るように輝き始める。


「うわっ! 流れ星だ! 見たか?」

「お前が邪魔で見えなかったよ。願い事した?」

「あんな一瞬じゃ無理。今しよう」

「遅いって」

「お前と一緒にいたいです!」

「三回言え」

「しんどい」

「うおい」




「ていうか、もう叶ってる」




 指をさして微笑むと、指をさすなと怒られた。




 *




――バン!




「あ」

「もう来た」


 俺たちの雰囲気を壊すように、バンバンと部屋の扉が叩かれた。

 部屋の外からはこいつの親や、警察の罵声が聞こえる。

 ふと窓の外を見ると、パトカーが一台停まっていた。


「鍵壊されるのも時間の問題だなー」

「ていうかお前の親うっせ!」

「うるさいね」


 苦笑して、思った。

 二人を取り巻く環境だけが、乗り越えられない壁だった。

 たった一枚の壁なのに、それが何より高すぎて、悔しかった。




「アネモネの花言葉、知ってる?」

「知らない」

「俺も知らない」

「なんだそれ」

「でも、なんかいいよな、アネモネ」




 繋がったままの手。

 あいつのぬくもり。

 もう、なにも、いらない。




「次は二人で、貧乏生活満喫したい」

「毎月赤字とか、節約とか、楽しそう」

「お前が女? で、俺が男」

「反対が良いよ」

「やだ。俺が養う」

「はいはい」

「……まあ、また男同士でも、いっか」


 机の上の錠剤を手に取り、強く抱きしめて、キスをした。






「あの時言えなかったから、今言わせて」

「ん?」




「……俺と結婚してください」




 最初で最後のプロポーズを聞いたあいつは、ぼろぼろと涙を零して、頷いた。


 ああ、窓際のアネモネだけが、きっと俺達を祝福してくれるんだろう。




-END-

アネモネの花言葉は、「はかない恋」です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] よかったです。とても、好きです。面白かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ