常套句
今日は世界一わたしを愛してくれるきみの誕生日。
プレゼントは何にしよう。
きみが毎年わたしに贈ってくれたプレゼントを超えるものをあげたいけど、そんなものはそうそう無いね。
ねえ、何がいいですか?
「プレゼントは何がいい?」
「そんなのいいよ。俺はお前がいれば、それで」
思い切って尋ねたとき、そう微笑んでくれた。
きみは世界一ベタな言葉が好きなひとだった。
ありきたりだと笑われるような常套句を愛したひとだった。
そうして、わたしになんと理解しやすい愛を教えてくれる。
「まだ怒ってる?」
「……怒ってるー」
「ごめんてば。でも浮気はほんとにしてないって。俺が愛してんの、お前だけなんだから」
浮気を疑ってしまったとき、そう髪を撫でてくれた、
「……ねえ?」
「なに?」
「俺以外の男とあんまり出かけないで。考えるだけでおかしくなりそう、なんだ」
黙って出かけてしまったとき、そうきつく抱きしめてくれた、
「メリークリスマス!」
「うわ、っすご……!」
「いつまでも愛しいお前に、サンタさんからプレゼント」
クリスマスにそう言って笑ってプレゼントをくれた、
「ただいまー……って、お前泣いて、?」
「あ……ごめ」
「何も言わなくていいよ。……なにがあっても、俺はお前の味方だから」
そう言って優しくキスをくれた、
「……あ…」
「あ、っいやああああ、!!」
「泣く、なよ……っ、笑った顔、のほうが、俺は…すきだ、ぜ?」
わたしを――身体を張って守ってくれた、
きみを今でも愛しているのです。
今日は世界一わたしが愛したきみの誕生日。
だから、今年も言うよ。
眠ったまま目覚めることのないきみに、きみが好きだと言った笑顔で。
きみが好きな常套句で。
きみが眠る前まで言い続けた、きみの愛するすごくベタな愛の言葉を。
「誕生日、おめでとう」
出会えて良かった。
これからも――愛して、いいですか。
きみが目覚めるまで、ずっと。