プロローグ 散々な始まり
この小説を見に来てくださった皆さん、ありがとうございます、そして初めまして。広地永久……いえ、鈴鳴凛音と言います。
一次創作はあまり書いた事がないので少し不安ですが、少しでも皆さんを楽しませられたらな、と思います。
どうぞこれからよろしくお願いします。
なんでだろう。なんで僕は、こんな目にあっているんだろう。ただ、街で有名な『安心、安全!! 快適なギルドライフを』がキャッチコピーのギルドに入りに行こうと思っただけなのに。
「ギァァァァァァアアアアアアアアアア!!」
「!?」
固い鱗で体を覆い、屈強な体をした見るからに強そうなトカゲ型モンスターの攻撃を、すんでの所でよける。
安心? 何が安心だ。安心どころか危険が目の前に迫ってるじゃないか。安全? どこが安全なんだ。現に僕は今絶体絶命の危機に直面してるじゃないか。
街からギルドに行く道はギルド独自の警備によってすごく安全、雑魚モンスター一匹でないんじゃなかったの? それともこのギルドにとっては雑魚にも値しないようなカスモンスターなの? ……目、節穴でもあいてるでしょ。考えながら、モンスターの攻撃を何とかかわす。僕には魔法も使えないし、モンスターを投げ飛ばすような剛腕スキルもない。この場から逃げ出せるような脚力ももちろんないし、しょうじきいってないものだらけだけど、いじめっ子から逃げまくったことによって身についた僕の回避力をなめるな。
……興奮しきった頭は逆に冷静な状態に陥って、僕の思考をぐるぐる回す。
短かった十六年。ここで死んでも、誰も悲しむ人はいないだろう。父さんと母さんは謎の駆け落ちを成し遂げたまま帰ってこない。僕は一人っ子だし、ぼっちだった。
だから、このままじゃダメだと思ってギルドに入ることを決意したのに。僕は変わるんだって、そう決意したのに……。
このまま何もせずにこいつの餌にはなりたくない。だから……。
街を出る前に買った、僕の唯一無二の武器『短剣』。致命傷を与えることはできないかもしれないけど、うまくいけばひるんだ隙に逃げられるだろう。
「う、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!」
精一杯の力と、僕の全体重をかけて、モンスターに刃を突き立てる。さあ、刺さった後が勝負だ。上手くひるんでk
ガキンッ
「…………がきん?」
ヒュンヒュンと音を立てて宙を舞う刃。……あの詐欺師め。ボロいもん寄こしやがったな……!!
怒り心頭のご様子のモンスターが、すごい形相で僕に向かって殴りかかる。もう避けることもできない。ただぎゅっと目を瞑り、歯を食いしばる。
と、その時。
ザン、と言う何かを斬るような音。続いて、どさっと重い音が落ちるような音が響いた。想像していたような衝撃は、来ない。
恐る恐る目を開けると、そこには真っ赤な鮮血をまき散らしながら倒れていくモンスターの死骸と、
真っ黒いローブを着て、大きな鎌をもった、それこそ死神のようなものがいた。
ローブの奥から見える鋭い眼光は、それだけで恐怖を覚えさせられる。目だけで殺す、とはまさにこの事だろうか。
「ぃッ、ひ?!」
どうにか助かった喜びと、さっきまで死が間近にあった恐怖が混ざり合い、今更になって僕の体を支配する。死神から逃げようにもうまく体に力が入らず、足がもつれて転んでしまった。
だらしなく転んで、モンスターから流れ出る血で服が真っ赤に染まる。いや、正直そんなのどうでもいいんだ。怖い。今一瞬でも息を止めたら死神に殺されるかもしれないし、止めてなくてもこのモンスターみたいに一瞬で首を跳ね飛ばされるかもしれない。
モンスターと対峙してた時は、死ぬことなんて全然怖くなかった。けど、この死神の前では死ぬ事が怖い。……死ぬ事が怖いんじゃない。純粋に死神が怖いんだ。
気が付いたら、ぼろぼろと涙をこぼしていた。喉から嗚咽がこぼれる。
男なのにこんな泣き方をするなんて、気持ち悪いって自分でもわかってる。だけど、涙が止まらなかった。
「……おい」
「……ッ!?」
しばらく泣いていたことにしびれを切らしたのか、死神が声をかけてくる。
男性にしては若干高く、女性にしては若干低い、どちらともつかない声。
その死神が、フードをとって僕に手を差し伸べて……
手を差し伸べる?
突然のことに驚き、涙が止まってその場で固まる。
「え?」
「……大丈夫か? こんなに泣くなんて、よっぽど怖い思いしたんだな。でも、短剣で立ち向かうなんて勇敢だったと思うぞ。……『まだそんなに年もいかない女子なのに』よく頑張ったな」
フードの奥に隠れていたとても整った顔立ちの死神みたいな『人』が、僕に若干困ったような笑い顔をして見せた。この人にとってはこれで満面の笑みのつもりなんだろう。
……そんなことはどうでもよくて、
「僕は子供でも女子でもないですっ!!!!」
立ち上がって、ずいっと顔を寄せる。確かに僕は背が同い年の男共より背が小さいし、女顔だ。……そのせいでいじめられていたわけだし。女子が嫌だとかそういうのが嫌なわけじゃないけど、勘違いされると腹が立つ。なんか男としての威厳を根元から粉砕されたような気持になるというか……。
勘違いされたことによる怒りと、この人が死神じゃなかったことを確信した僕は、さっきまでの恐怖を忘れていた。
☆ ☆ ☆
「……さっきはいきなり怒ったりしてすみませんでした」
「……こっちも女子呼ばわりして悪かったな」
暴れまわる僕をルークさん(……というらしい)が何かよくわからない魔法で落ち着かせて聞いた話によると、さっきのモンスターはどこかの地方からやってきた、名前もつかないような中雑魚のモンスターらしい。
……あれで中雑魚なのか……。というのもびっくりだけど、もっとびっくりなのはその討伐を例の『安心、安全!!』ギルドから頼まれて、はるか遠くの地方からルークさんが討伐しにやってきたってわけだ。
「……この辺には雑魚の雑魚みたいなモンスターしかいないはずだったんだけどな……」
「僕もあんな大きいモンスター初めて見ました。というか、中雑魚のモンスター討伐を遠くの街に依頼するなんて、この辺はすごく平和なんですか? 僕、街から出たことないから外の事とかまったく分からなくて……」
「……いや、人が多く住んでいる街がある場所には、そういうのしかいないな。ただ、最近たまにこういうことが起きてるらしいが」
そうなのか……。というか、ルークさんは遠いところから中雑魚のためだけにここまでわざわざ来たんだろうか? だとしたらかなり親切な人なんだろうけど、初見からしてそうは見えないし、今ようやく慣れてきてこうやって話してみても、普段はそんなにしゃべらない無口な人ってイメージだ。
そんな人がなんで……。
「……俺がどうしてこんなところにまで来て中雑魚倒しの仕事をしてたのか不思議なんだろ?」
「えっ? ……あ、まあ」
「……報酬もある程度よかったしな。それに、俺としては本拠地から目的地までどのくらい離れていようと、関係ない。……疲れはするが。で、お前……じゃないや、ハルはどうするんだ? このままそこの商業ギルドに入るのか?」
「あっ、いや、その、なんというか……正直、絶対嫌です。さっきの件でトラウマだし、この周辺にはもう金輪際近寄りたくない」
「……そうか……」
ルークさんは、顎のあたりに手を持ってきて少し考えた後、
「……なら、俺たちの所に来るか」
そう言い放った。
はい? 俺たちの所に来る? ルークさんのギルドに行くってこと?
「……まあ、入るか入らないかはハル自身が決めたらいい。入るようならきちんと改めて俺のことを話すし、嫌なら嫌でどこか適当な、新しい街に送ってやる」
「え、僕まだなにm」
「いくぞ」
ルークさんが僕の腕をつかむ。待って、なにこれどうするの?
「るーk」
「『本拠地』に『移動』」
ルークさんって意外と気が早い人なんだな、などとのんきなことを思っていた瞬間、今まで感じたことのない衝撃とともに視界が暗転した。
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