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NO,8 「生産スキル」

 「……ううむ」

両手を組み、唸る冷鷲。

その目の前には金床といくつかのインゴット、それと鍛冶に使用されるハンマーが置かれている。

インゴットは極一般的な鉄のもので、何度かハンマーで打ち据えられたのだろう小さな凹みが見られた。

 「……ううむ」

そして唸る冷鷲。

ふうと、一つため息を漏らし、彼はこれまでのことを思い返すのだった。

  * * *

 「でっきるかな、でっきるうかな、あと自主規制!!」

無駄にテンションが高いのはほかならぬ冷鷲その人である。

長年プレイしてきたゲームの世界が現実となり、その上、今までの世界に魅力を感じられなかったのだから、無理も無い。

この世界では、自分がしたいように生活ができるのだ。

たとえ、命の危険や命を奪う重みを背負ったとしても、

彼には夢のように、魅力的に感じられた。

この世界であれば、自分はもっと自分らしく、生きられるかもしれない。

そんな気持ちが、彼の気分を高揚させる。

楽しい。……自分は今を生きている。

ただただ消費するだけの、そんな毎日とはもう別れるときがきた。

自分ではなく、自分の才能を愛する親や、周囲の人間ともおさらばだ。

……数少ない、自分という存在を見てくれた人にも、もう会えない。

一夜を慣れぬ土地で明かし、見たことも無いような様々な物に触れ、今までの世界では説明できない様な、不可思議な現象を目の当たりにし、彼はその全てを受け入れた。

新しい世界との出会いと。

故郷たる世界との決別を。

愛すべき人との、別れを。

そして彼は小さく苦笑するのであった。

『冷鷲よ。もし、お前が何かを決意したときは、周りなぞ気にせんで良い。』

『人は、自分が心の底から願い、望んだことについてなら、努力できる。』

『自分が望まないことをどれだけしようとも、それは本当に生きていると言えるのかと、わしは思うのだ。……お前にはそんな人生をおくって欲しくない。』

『兄さん。兄さんは兄さんです。……だから、僕たちの前では、本当の自分でいてください。』

『冷鷲。今度はどんなやつをぶちのめしに行くか?』

『れいちゃんはすごいってみんな言うけど、そんなのはそれこそみんなの主観なんだから、気にしなくていいんだよ。だからね。だから、れいちゃんには私たちの前でだけでもいいから、普通の男の子でいてほしいな』

そんな、決別したはずの世界の住人の声が、とめどなく、思い出されたのだから。

良く考えてみれば、自分のことを思っていてくれた人はこんなにもいたのだと、分かれて、手が届かなくなってから分かってしまったと、彼は人知れず、表情を崩すのであった。

それでも。

それでも、もう決めた。

この世界で生き、最後には死ぬのだと。

要約、自由になれたのだから。

俺は、この世界で楽しくやってくよ。

そう、心の中で、自分自身を見てくれた掛け替えの無い家族にそっと呟くのだった。

だからこそ、彼は世界を楽しもうとする。毎日を有意義な物にしようとする。

そうすれば、きっと家族たちも喜んでくれる。

そんな、予感を胸に彼はより一層この世界を楽しみつくそうと決めるのだった。

  * * *

 兎にも角にも彼は今世界を楽しむ第一歩としてゲーム時代にも好んで使用していた鍛冶スキルを試してみることにした。

MS内での鍛冶スキルとは武器を作るのに不可欠なスキルだが、鍛冶スキルだけでは武器は完成しない。

柄や鞘は木工スキルや服飾スキルなどを使用しなければならないし、装飾をしたり、刀身や鞘に魔術刻印を刻みたければ細工スキルを使用しなければならない。

鍛冶スキルでは刀身と鍔しか作成できないのだ。

たとえば、鍛冶スキルで鉄製の刀身と鍔を作り、木工スキルで木製の鞘と一般的な柄を作り、細工スキルで装飾を済ませるか、魔術刻印を刻んだ跡に、組み立てスキルで武具組み立てを行い、やっと一振りの鉄の剣が出来上がるのだ。

このような面倒なシステムゆえに生産を主として行うプレイヤーはそれほど多くなかったが、冷鷲のようにのめりこむ者も少なからず存在していた。

しかし、創造魔法という生産スキルを鼻で笑うような魔法のおかげで、生産スキルはより一層肩身の狭いスキルとなった。

それでも生産スキルを使う者はいた。

それは何故か。

……理由は到って簡単で、スキルで作ったほうが魔法で作るより性能が良かった。それに、自由度もある。

魔法で作れば瞬時に出来上がるがデザインから性能までが一定なのに対してスキルで作れば、見掛けは良いが性能は普通という聖剣(笑い)というネタ装備までが作れてしまう。……実際に冷鷲も作ったことがある。

そんなこんなで、スキルヲ使うことにした冷鷲は、意気揚々とハンマーを握り瞬時に固まるのだった。

 「……どうすれば、スキルが使えるんだ?」

  * * *

 場面は冒頭へと戻る。

依然として彼は唸りつつインゴットを睨みつけている。変わりない。

ためしに鉄のインゴットを金床に置きハンマーで叩いてみたが、少し凹んだだけだった。

この結果には、他ならぬ冷鷲自身が凹むこととなった。

ならばと、今度は鍛冶スキルの一つである【上級鍛造】と叫びながらハンマーを振るってみたが、カーンという金属音が空しく響くばかりだった。

 「……どうすればいいんだよ……。ゲームだと、スキル画面を開いてクリック一つだったからな。……うん?」

そこでふと気付く。

アイテムとかステータスとか、見れたんだし、出し入れまでできたんだからこれはスキルもどうにかなるに違いない。

そう感じた冷鷲は焦る気持ちを落ち着けながら、小さく呟いてみた。

 「スキル……うわ。マジか」

彼の呟きに答えるように、『スキル一覧』と書かれた画面(?)が現れた。

ここで取り乱しては何かに負けた気がした冷鷲は、さも驚いていないように振舞いながら(誰にだよ)画面を操作していく。

初期の画面には【戦闘】と【生産】の二つがあったため、【生産】をタッチする。

そして出てきたいくつもの生産スキルの中から、【鍛冶】を選択する。

画面内に表示された鍛冶スキルのナカから上級鍛造を選ぶと、

鉄のインゴット(中)×1

と、表示され、生産可能なアイテムがその下に示される。

鉄製の刀身ナイフ

鉄製の刀身(短剣)

鉄製の刀身(短刀)

鉄製の穂先(槍)

鉄製の鍔(大剣)

等等である。

その中から鉄製の刀身ナイフを選ぶと、またもや画面の中にいくつもの文字が並んだ。

サバイバルナイフ

グルカナイフ

スローイングナイフ

ジャックナイフ

ハンティングナイフ

バタフライナイフ

コンバットナイフ

等等。

これよりたくさんあったが、良く分からないし何より面倒なため、一番上にあったサバイバルナイフをタッチする冷鷲。

すると画面は掻き消え、同時に金床の上のインゴットに光点が表れた。

すぐさまハンマーを手に取る冷鷲だったが、はたして今本当に叩いてよいのかどうかが分からず首を傾げてしまう。

そうしていると光点の周りにその点を中心とした円がいくつも現れ、その大きさをだんだんと小さくしていく。

円がついに光点と同じ大きさとなり、重なった瞬間。

ぱっと、光点が一段と明るく光を発した。

まるで、水面で波紋が広がっていくのを逆再生したようだと、そう感じた冷鷲はそれと同時に、これだ。このタイミングでハンマーを振るえばいいんだという言葉にできない何かを感じあわててハンマーを握りなおす。

そんな焦りにも思える気持ちを胸に、冷鷲は全神経を奮い立たせ、光点へとハンマーを振り下ろす。

カーン、カーンと小気味の良い音を響かせながら、彼は無心に鉄を打ち続ける。

タイミングよく振るわれたハンマーは光点を打ち、そこからは波紋が広がっていき、別の場所に光点が浮かび上がる。

再び波紋が新たな光点へと収束したのを見計らい、再度ハンマーを振り下ろす。

楽しい。

その一心を胸に何度も、何度もハンマーを振り上げ、振り下ろし、波紋たちと遊び続ける冷鷲。その顔にはいつしか笑みが零れていた。

  * * *

 あれから、1時間ほど鉄を叩き続けた冷鷲は要約作業を完了した。

出来上がったのは、鉄製の刀身サバイバルナイフだ。

 「……きつい」

それが、鍛冶スキルへの感想だった。

楽しいけどきつい。

1時間の間波紋たちと戯れるのは楽しかったが、彼の手はパンパンに張っており、今日はもう作業できそうに無い。

 「明日は、絶対に筋肉痛だろうな」

そう、遠い眼をしながら乾いた笑いを漏らす冷鷲であった。


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