NO,5 「小屋と聖剣」
数々の 驚きと、いくつかの幻想の消失の連続から数分が過ぎ、冷鷲は要約動きを再開した。
「……帰る……」
そう、弱弱しく呟きながらであったが。
* * *
あれから数分の間、彼は獣道を黙々と歩き続けていた。
そんな中、一軒の小屋が冷鷲の眼に入る。
「あれは……!」
その小屋とは、特に何ということも無い丸太を組んで作られているログハウスだったが、彼にとっては思い出深い建物だった。
と、いうのも、この場所を中心に冷鷲のゲーム内生活が営まれていたからである。
パーフェクトコレクターと呼ばれるようになってからというもの、いつも以上に他者からの干渉が煩わしく、しつこく、身勝手な物となり始めたため、いい加減我慢の限界に達し、周囲に何もいわずにこのような奥地へと身を隠したのだった。
とりあえず、相当量を持っていたゲーム内通貨を駆使し、程よく深い森を丸まる一つ購入してその中にひっそりと小屋を立て生活をするようになった。
……つまり……。
「私は帰ってきたああああああ!!」
勝利の雄たけび(?)をあげながら小屋の入り口へとダッシュする冷鷲はとてもいい表情をしていた。
* * *
程なくして小屋へとたどり着いた冷鷲は、ほっとした表情を浮かべながら両手を組み、小屋をじっと眺めている。
かわらない。
そこにはゲーム時代と代わりのない、慣れ親しんだ小屋があった。
ただ違うことといえば、目の前の小屋が実物か、モニター越しかといったところだろうか。
次に、彼は小屋に背を向け周囲を眺める。
この場所は、何かと作業しやすいように樹木はなく開けており、小さな広場のようになっている。
そのため、少し薄暗かった森の中とは違い太陽の光がさんさんと降り注ぐ、憩いの場所となっていた。……あるものがなければ。
「……やっぱり、あるんだな」
そういいながら、冷鷲は広場の中心へと眼を向ける。
そこには黒く、磨きぬかれた台座に刺さった一振りの剣が鎮座していた。
大きさ的に冷鷲が背負っている、オーバーキラーのような大剣だ。
「……シュバール……か。……本物……だよな……?」
その大剣とは冷鷲が作り上げ、あまりの出来の良さに調子に乗った結果、思わず台座を作ってしまったと言う、冷鷲にとっては良い思い出であり、赤面物の黒歴史でもあった。
剣が刺さっているのは台座ではあるものの、一応種別は鞘ということになっており、当時はMSの自由度に想像力と妄想力と中2パワーをフルスロットルで製作にあたったのを彼は何ともいえない表情で思い出していた。
話を剣に戻そう。
刀身も柄も鍔も。全てが漆黒の大剣。
それが、この《闇を統べし聖剣、シュバール》だ。
お決まりの設定だが、こうである。
昔、名工によって一振りの美しい純白の聖剣が生み出された。
その剣によって人々は幾重にも危機を脱し、生き延びてきた。
その、純白に輝く光の力を使い、闇を切り裂きながら。
しかし、運命の時は唐突にやってくる。
……ある時代。
その時代には、魔王という、すべての魔を統括し、人類を滅ぼそうとする者がいた。
人々は戦った。生きるために。大事な人を守るために。
当然純白の聖剣の力も使われた。
その時代の勇者と呼ばれた若者に。
そして、魔王との最終決戦。
勇者は魔王を打ち倒し、その心臓に深々と純白の聖剣を突き刺した。
……その瞬間。
純白に輝いていた聖剣はその色を大きく変化させた。……完全な漆黒へと。
そして。
人々は気付く。自分たちがいかに聖剣という存在に依存し、それを闇を切り裂く、ただの道具のようにしか扱ってこなかったことに。
感謝などせず、それが当然と疑いもしなかったことに。
そうやって長い間酷使し続けた結果、純白に輝く聖剣は……。
ーー黒く。
ーー闇よりも暗く、純黒といっても良いほどの。
……漆黒へと色を変えてしまったのではないだろうか。……と。
そうして、要約人々は聖剣へと感謝の念を感じるようになり、考えるようになった。
これからは自分たちの力で生きていこうと。
何かに依存するのではなく。
精一杯楽しみながら。
漆黒に染まった聖剣は、このことの教訓として台座に封印される事となった……。
……と、以上のような感じだ。
一連のストーリーを思い出して冷鷲は遠い眼をする。
もし、この世界がMSの世界そのものだったら。
「……剣を抜きに来るやつがいるだろうな……」
そう、漠然と思いながら、振り返り、小屋へと入っていくのであった。