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NO,4 「その幻想が打ち砕かれるとき」

 「……」

草臥れた獣道を歩く若者が一人。

その姿は異様の一言に尽きる。全身黒尽くめで、体中に多彩な武器や装飾品を装備しているのだから。……てか多すぎ。

そして、なにより。

……彼は、黒髪黒目だったのだ。

 「……」

その少年ーー霧下 冷鷲ーーは、一言も発することなく、ただ淡々と歩み続けるのであった。

  * * *

彼がそれに気がついたのは、獣道を発見して直ぐのことだった。

 「ふう……」

やっとの思いで見つけ出した人工物にほっと肩の荷が下りた気がした冷鷲は、少しこの場で休憩をとることにした。

 「……うん?」

と、その前に背に背負った大剣がじゃまで座れないことに気がつきふと、インベントリにしまえないだろうかと考えた。

……その瞬間

 「おお」

再び現れた黒い板。

しかしそこに記されている常法は前回のステータスとは違い、今冷鷲が持っているアイテムの一覧が表示されているようだった。

 「とりあえず…」

とりあえず何か取り出してみることにした冷鷲は、手ごろな物がないかと所持アイテムの一覧をスクロールしていく。

 「お?」

そこで、あるアイテムの名前が目に付いた。

その名を《聖銀のペンダント》。

これを装備しておけば、たとえ敵モンスターに出会ってもこちらから攻撃を仕掛けない限り敵対されないという、何とも便利な一品なのである。

 「よし、これにしよう」

瞬時に決意したのはいいものの、次の瞬間大きな問題に直面する。

 「……どうやれば取り出せるんだ?」

それは切実な問題だった。

 「……(じい)

まずは取り出したいアイテム名を思いっきり睨んでみる。それはもう熱烈に。

……しかし、何も起こらない。

 「……(むむむむむ)」

次に、手の上に目的のアイテムが現れるイメージをしてみた。何というか鬼気迫るといった様相で。

……しかし、何も起こらない。

 「……(ドキドキ)」

最後に、これは無いだろうと思いながら指先でチョンと、お目当ての物の名前に触れてみる。まるで恋人の頬を突っつくように。

……すると、

名前 聖銀のペンダント

効果 敵モンスターノンアクティブ化、各種状態異常耐性LV4

という表示へと切り替わった。

……もしかして、これは……。

 「まさかのタッチパネル式かっ!?」

思わず突っ込んでしまった彼を攻められる人など、ここには誰一人として存在しないだろう。まぁ、実際に誰一人としてこの場に居合わせていないが、それは言わぬが花という物だろうか。

 「この世界は、中世ヨーロッパ的な剣と魔法の世界だろうが! それなのに、道行く人たちがこんな現代社会を彷彿とさせるパネルを、ちまちまと操作してるなんて…」

がっくりと膝を折り、地面に手を着いて、自分の思いを全身で精一杯表現する冷鷲。……諄いようだが誰もいない。

と、次の瞬間。ガバリ!と勢い良く顔を上げ、叫ぶ冷鷲。すがすがしいほどに全力だ。

 「俺の幻想をぶち壊すんじゃねえよっ!!」

心の叫びのような慟哭は、空しく森へと吸い込まれ、消えていくのであった。

……その日。

彼の幻想が一つ打ち砕かれた……。

余談だが、彼が動き回るたびに黒い板ーー以下パネルというーーは、律儀にも彼の目の前をそれないように、その目線に合わせて動き回っていたことと、彼の叫びによって少なくないモンスターが周囲から遠ざかっていったことをここに述べておこう。

  * * *

一通り嘆き、悲しんだ後。早速冷鷲はアイテムを取り出してみることにした。

…やり方は簡単で、パネルの下部にある【取り出す】をタッチすればよいのだ…と思う。

まあ、物は試しと恐る恐る【取り出す】をタッチしてみる冷鷲。

 「……おお?」

すると、パネルと彼の間。というか手元に黒っぽい靄でできた円が現れた。

おそらく、この中に手を入れれば良いのだと思う。

 「……(ゴクリッ)

多少の逡巡はあったものの、好奇心には勝てず、結局その靄の中に冷鷲は手を入れてみることにした。

 「……うおっ!」

手を入れた瞬間、何か硬くひんやりとした物が掌の上に載る。

恐る恐る手を靄の中から抜いてみると、そこには美しい銀製の十字架に同じような銀製で細めの鎖を通したペンダントが鎮座していた。

これこそ、《聖銀のペンダント》である。

 「よっしゃあああああ!!」

手持ちのアイテムが取り出せることが分かり、はしゃぐ冷鷲。

その後は、城(笑い)を探すこともほおって、さまざまな物を取り出してはしまい、取り出してはしまいを繰り返した。

その中でたまたま取り出した鏡に写る自分の姿を見るや否や、それまでの興奮が嘘のように引いていき、彼はただただ絶句した。

……その鏡に写っていた自分の姿とは、散々見飽きた現実の物だったから。

 「……俺の。異世界での金髪青眼、、高身長生活が……。」

その日。彼の幻想がまた一つ打ち砕かれたのであった。


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