NO,17 「現実」
ストックが切れました……orz
次回から少しシリアスな内容になります。……なると、いいなあ……
契約。契約と言ったか。
……今、この翼をはやした、この謎の人物は、契約と……。
(テ、テンプレさん。生きて、生きていたんですね)
体の自由は戻り、少し気怠いものの状態を起こし、相手から離れる。
そうしてから、もう一度相手を観察してみる。
相手も起き上がり、台から降りて目の前に立った。
背は……。どのくらいだろう。自分の胸のあたりに顔が来るくらいだが、ピンとこない。
相変わらず作り物めいた、そのくせ命を感じさせる姿をしている。翼もあることだし、天使という物なのだろうか?
「……」
「……」
しばし見つめ合う。会話のきっかけを作るのは冷鷲にとって至難の業なのである。
「……契約って何だ?」
背負ったままの大剣の柄に手をかけながら問う。
「マスター、つれないじゃないか。僕ら、熱いキスを交わした仲なのにさ。……分かった説明するからその物騒な物から手を離して……ね?」
少し剣を抜いたところで素直に話す気になったようだった。結局は力押し。彼はどこまで行っても口下手なのだ。
「契約っていうのは簡単な話だよ。僕がマスターの下僕となった。ただそれだけの話」
無邪気に話すこの子供? からは悪意の様なものは感じられない。ただ、時折皮肉気にこちらを見やる姿から、この子供が見た目通りの中身ではないということは間違いないようだった。
「俺の体から吸い出してったものは?」
「魔力だよ。とてもおいしかった。こう、力がみなぎる感じ?」
魔力。そういえばこれまで魔法などを使ってきたが点で感じられなかったなと少しへこみつつ、話を続ける。
「それで……。いきなり下僕と言われたって困るんだけど。お前は何者なんだ? 何かできることは? この先モンスターと戦うこともあるかもしれない」
「心配してくれるんだ? 優しいんだね、マスターは。っと、それでなんだったっけ?」
「お前は何者かって話。正直に言えよ? そのほうが絶対いいから」
「もし。もしだけど、正直に言わなかったら?」
「丁度羽毛布団が欲しかったところなんだ……」
「ちょっ! ダ、ダメだよ? この翼は僕の自慢なんだから」
「じゃあ正直に話してくれ。結構羽毛布団を作るのは面倒なんだぜ」
「話すよ。言われなくても正直に話すってば! 言ったでしょ? 僕はマスターの下僕なんだって。命じられたらそれは絶対だからね」
「そうか……。だけど俺は、あんまり命令するのは好きじゃないな」
「ふうん? そうなんだ?」
「……なんだよ」
「マスターってSに見えてMだったり? 命令されて喜ぶタイプ?」
「よし、まずは羽毛を入れる外側から準備だな」
「ごめんなさい! ごめんなさい! 冗談だよ、マスターっ!」
「……はあ。で、お前は誰なんだよ……」
「その前になんだけど。契約、事後承諾になっちゃったの、申し訳ないと思ってる。ごめんね、マスター」
それまでの明るい少し皮肉っぽい声色は鳴りを潜めかすかに。かすかにだが、違う感情が頭をのぞかせた。それでも、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
「だって、存在が薄くなってきたころに存在感の塊みたいな人が来たら……ね? つい」
存在が薄くなる?気になるが今は置いておこうと頭の片隅にそれを置き、さらに問いを重ねる。
「答えになってないし……。しかも存在感の塊って。……俺ってそんなに目立ってるのか?」
「うん。魔力的な意味でだけどね。とっても目立ってる。そりゃもう、魔力を糧とする種族だったら考える前に契約を迫ってるくらいに。ああ、僕が証拠ね」
先ほどまでの違和感はどこかへ行ってしまった。あれはいったい。どれが本心なのだろうかと答えのない問いが首をもたげようとするのを今はそれどころではないと押しとどめる冷鷲だった。
「なるほどなあ。ちなみにその存在感を隠す方法はあるのか?」
「あるよ? なんなら僕が手取り足取り腰取り、教えてあげようか?」
エロい! と思う前にこいつで本当に大丈夫なのかと不信感に追い立てられるように即座に言葉を返した。
「お前、教えられるのか?」
「し、失礼だよマスター。これでも僕はインキュバス。魔力の扱いには長けてるんだよ?」
インキュバス……その言葉が頭の中を駆け巡る。
(た、確かインキュバスって女を堕落させる悪魔的な存在だったような……? テ、テンプレのやろうはかりやがりやががががが!?)
「インキュバス……だと?」
思わず口に出しながらも冷鷲の頭の中では早急に会議が行われ、ある案が可決された。
「うん? そうだけど、どうしたの?」
「……脱げ」
つまり、直接確認してまえと言う至極簡単な案であった。
「え……?」
「いいからその服を全て脱げ」
「ちょちょちょ、マスターこんな場所で何て……。もう、エッチなんだから」
「……」
イラッと来たので無理やり脱がしにかかる冷鷲。傍から見ると立派な性犯罪者だった。男子高校生が男とも女ともいえるような子供の服を剥いでいるのだからこれはアウトかもしれない。
「え? なに? 待って? ちょっと待ってってば!!」
とまどう相手を気にすることも無くすべての服を脱がし終え隅々まで観察をした冷鷲は手の甲で額を拭いながらふうと一息ついた。
「男……。だったのか」
うろたえながらも現実に確認したことを口に出す彼の眼はどこか遠くを眺めていた。
「……酷い。無理やり脱がせといて第一声がそれだなんて。酷過ぎるよ……。ふううん」
「……まず、息を整えろ。話はそれからだ」
息を荒立てながら文句を言う彼を冷鷲はなだめながらも依然として目はどこか遠くを見据えていた。
「そうだね。怒る前に起きるところだったよ」
「……ああもう服を着ろ。確認は済んだからな」
変なやつを拾ってしまったと思いつつもどこか弟ができたような気もして、複雑な表情を浮かべながら冷鷲は思うのであった。
(俺のファーストキスは、男……だったのか)
その背には哀愁の様なものが漂っていた。
「マスター、服着たよ。もう、急に脱がせるからノクターンに引っ越すのかと思ったよ」
「俺はノーマルだ。男に何て興味ない」
「じゃあ、どういうのが好みなの?」
「胸の大きい年上とか? 別に同い年でも年下でもいいけど、落ち着いてる人がいいかな」
「……ふうん。胸がねえ……。僕にはないもんね」
「男に胸はないだろ普通。それに、俺とお前は主人と下僕なんだろ? 恋人でもないんだしそういうこと気にしなくてもいいだろ?」
「……ああ。うん。そうなんだけどね」
「なんだよ」
「そのお……。僕はインキュバスであって俗にいう淫魔なわけだからさ……。魔力の供給方法が……」
「おい待て、それって?」
「一番軽い行為でキス……かな?」
「一番軽いって……。キスって……」
「ちなみにキスは一番効率が悪いんだ。一番効率がいいのは……」
「言わなくていい。それは一生ないから。ってか、それ以外に魔力を供給する方法はないのか?」
「あることにはあるよ。体液に含まれる魔力を僕が取り込む方法」
「血か? 血でいいのか?」
「ああうん。血でも大丈夫だけど、あんまり効率が良くないよ? 一番なのは」
「言うなよ? 血だろ? 血でいいんだろ?」
「うん……。そうだね。じゃあとりあえずは血で」
「とりあえずって……。一生血で行きたいんだがなあ」
「ふふっ、それはどうかな?」
「なんてこった、パンナコッタ……。ってかお前、なんか楽しそうだな」
「今のってギャグ? つまんないね」
「……ほっとけよ」
「ああそれと、僕は今とっても機嫌がいいよ?」
「そうかよ」
「何でか知りたい? ねえねえ、知りたい?」
「別に」
「じゃあ教えてあげよう」
「おい、人の話はちゃんと聞けよ」
「僕が今上機嫌なのはね。……マスターが、契約を切るって言わずに魔力の供給方法を考えてくれたからだよ?」
パサリと翼をはためかせ宙へとその身を躍らせて、冷鷲と目を合わせ彼はそう言ってニコリと笑った。
心からの笑顔。作り物めいていると感じていたその姿は、紛れもなく生きていた。それどころか鮮やかに感情を発している彼のほうが自分よりも生きているなと感じずにはいられない冷鷲であった。
「……ああ、まあn」
「隙ありっ! その唇いただいたあっ!!」
「させるかっ!」
「つれないねえ。あんなに情熱的だったじゃない? マスターってばさ」
「誰が情熱的かっ! 捏造すんな!」
孤独だった彼は、こうして、仲間を手に入れた。