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NO,16 「契約」

テンプレという言葉がある。

もともとはテンプレートというがそれを略したのがこのテンプレという物だ。

意味はいたって簡単。型板、つまり王道ということだろう。

すべての物事に王道と言われる物が存在しているということは誰しもが見聞きして知っていると思う。

よくある物語の設定然り、耳に心地良い歌詞に共通する言葉然り。スピーチの中にでも、何かの設計図にも。どこにだって王道、テンプレは存在している。

……つまり。

 「……」

現在、冷鷲は見知らぬ人影とあっついキッスを交わしている最中である。それは唐突な出来事だったために、さすがの彼であっても回避はできなかった。

驚きすぎて身動きが取れない彼はそれでも情報を手に入れようと目線をせわしなく動かして一つの結論に達した。

 (温度がある。感触も、匂いもある。つまり、これは実態がある生き物だ)

あまり大した情報収集能力は無かったようだったが、それでも少し落ち着くことができた。

改めて目の前の人影を観察してみる。この間、コンマ数秒のことである。

流れるような金髪、細く長い睫、なめらかでいて透き通るような肌、そして台の上に投げ出された純白の翼……。

瞼は驚きからか大きく開かれており、美しい、まるで宝石のような碧眼が零れ落ちそうになっている。

ただただ作り物めいた、それでいて、命を感じさせる、とてつもなく綺麗な姿をしていた。

 (事故とはいえ、これはファーストキスの相手でもいいのかも? テンプレ通りで行くと一発殴られたりするんだろうか。それはちょっといやかもしれないな……)

他愛もないことを考えているうちに相手が動き出す。

 (やってしまったことだから仕方ない。とりあえず、目指すところは和解だな)

瞼が揺れる。それに合わせてまつ毛も揺れ、密着している冷鷲の顔をくすぐった。

 「……。むふっ」

次の瞬間。相手の両手が伸びてきてがっちりと首の後ろに手を回された。

そして、抗う間もなく……。

 「……!!」

 「……むふっ」

何の躊躇もなく舌を入れてきた。

 (おいいいい!! テンプレさんっ! テンプレさあああんっ! 仕事、仕事してください!!)

動きを止める冷鷲と動きを増す相手の舌。それはある種のコントラストのようでもあり、やけに違和感を感じさせない見事なものであった。

独立した生き物のように動き、固まったままの冷鷲の舌に絡み付く相手の舌。

柔らかい。暖かい。くすぐったい。

何も打開策を見いだせないまま、彼はされるがままに口内を攻めたてられた。

 「……!?」

 「……ふううん」

絡まった舌から何か吸い出されていく感覚がし、冷鷲はとっさに相手を払いのけようとする。が、体に力が入らない。

依然として何かが吸い出されていっている。だが、体には何の異変もない。ただ少しけだるく感じるだけだ。

だがしかし、本能と言ったところだろうか、冷鷲の心が言いようのない警鐘を鳴らし続けている。このままではよくない。何か良くないと。

それでも体は動かない。まるで、金縛りにあったような感覚に焦りは増すばかりだ。

不意に、相手が目を閉じた。そして一層首の後ろに回した腕へと力を籠め、情熱的に舌を絡ませてくる。

 「……!!」

 「……ふううううん」

エスカレートするキス。速度を増して吸い出されていく何か。焦燥感はギアを上げ、考えはまとまらず空回るばかり。

そして……。

 「……っぷぁ! ごちそうさま。あと、これで契約完了ね?」

その声と同時に何かが。確かに何かが終わりを告げた。


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