NO,14 「てんぷれ」
テンプレという言葉がある。
もともとはテンプレートというがそれを略したのがこのテンプレという物だ。
意味はいたって簡単。型板、つまり王道ということだろう。
すべての物事に王道と言われる物が存在しているということは誰しもが見聞きして知っていると思う。
よくあるストーリー然り、耳に心地良いコード進行然り。会話の中にでも、料理のレシピにも。どこにだって王道、テンプレは存在している。
……つまり。
「……。馬車、通りがからないんですが。テンプレさんはお仕事していやがらないんでしょうか?」
異世界転移と言われる物にもテンプレは存在している。が、彼の前には存在していなかった。
* * *
一面に広がる草、草、そして草。草原であるのだから当然なのだが、そろそろ飽きてくるのもこれまた当然だろう。
見上げれば青い空に白い雲。そこから目線を下へとおろせば草の緑。そしてその他には何もない。街道すらないのだから今自分がどこを目指せばいいのかもわからない。
とはいえ何もしないわけにもいかないため、森の時と同じく1日中歩けるだけ歩き転移魔法で小屋へ帰って眠り、次の日起きれば転移魔法で前日まで進んだ場所へと転移しまた歩き出すということを繰り返している。
ゲーム時代には森の外には小さな村があったはずなのだが。森の成長も含めて考えると、どうやら村はなくなってしまったとしか思えない。
「今はどんな時代なんだろうな」
森が成長するということは少なくない時間がたっていることになる。はたしてこの時代に彼のゲームでの経験をもとにした知識は通用するのだろうか。
* * *
そんな日々が7日ほど続いた後、彼は石材で組まれた壁のようなものを遠目に発見していた。
街か。街なのか。あらすじで森の中でどうのこうのと言っておきながら、街に入っていいのか。
錯綜する冷鷲と作者の思いはさておき、とりあえず近づいてみることにした。
遠目に見えていた石壁の作りがはっきりしてきた頃、冷鷲は微かな違和感を感じていた。
何かがおかしい。だが、その何かが分からない。
門が見えた。開け放たれている。馬車が通るのかは知らないが、意外と幅が広いように思える。
そう、何気なく思いながら歩を進めていた冷鷲がはたとその足を止める。
そしてもう一度門を凝視し、違和感の原因に気がついた。
……人が、門番がいない……。
馬車が複数台通ることの出来そうな幅を持つ門に、番がいないということがあり得るだろうか。
まずないだろうと冷鷲は考えた。それにこの門に続く街道らしきものが整備されていないということも可笑しい。
「もしかしなくても、廃墟なのか?」
ポツリとつぶやく彼に答えるものなど、当然誰もいなかった。
* * *
結果からお話しよう。廃墟でした。
その街らしきものは石造りの建物が数多く存在する村というよりはやはり街というべき場所だった。
だが、長い間人が住まなかったようで、建物も道に敷かれた石畳のようなものも、雨風にさらされ、古ぼけておりどことなく寂しさのようなものを冷鷲は感じていた。
主人を失った建築物たちが、悲しそうだと、そう感じずにはいられなかった。
ひとまず街の探索を行うこととした冷鷲はゆっくりと、周囲に注意しながら無人の街へと歩を進めて行く。