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NO,13 「踏み出す一歩」

冷鷲が小屋を出発してからしばらくがたった。

しかし、ここは大森林。まだまだ森の外にはほど遠いようだ。

こちらの世界へとやってきた初日以来、冷鷲は結構サバイバルな生活を繰り広げてきていた。それはもうエンカウント率が殺しに来ているのだと悟ってしまうほどに酷いものだった。

だが今はモンスターにもあってはいないし、道に迷っているわけでもない。

ただ淡々とほぼ獣未知な細い道をいつになったら大きくなるのかと思いながらとぼとぼと歩いている。すなわち大変暇なのだ。

不謹慎だとは思うだろうが、この4か月余りを自給自足で生活していた彼にとっては、周囲の警戒など常にしていて当たり前。その警戒に何も引っかからない今、彼は退屈という名の魔物と死闘を繰り広げていた。繰り広げるほかなかったともいえる。

 「ああ、どこかに新しい物づくりのレシピ転がってないかなあ」

しまいには独り言を漏らすばかり。その内容が内容なのはさすが職人気質とでも言おうか。

 「ひいっま、ひっまひっま、ひっまひまああ~」

どこかで聞いたことのあるような、ないような。そんな歌を口ずさみながら冷鷲はただ淡々と歩き続ける。

  * * *

この4か月の間で分かったことを今のうちにまとめておくことにしよう。

とはいえ、あの冷鷲のこと。当然と言えば当然ではあるが自分の興味のあることしか調べていない。

すなわち生産と戦闘スキルの扱い方と、……。いや、それだけだったか。

この4か月、彼はひたすら体を鍛え、スキルを試し、自給自足の生活の手段を編み出してきた。

……なんということだ。終わってしまった。

もう少し詳しくまとめてみよう。

スキル。それはゲームというコンテンツにはなくてはならないものだ。

特にMS内ではその多様性が注目されていた。

毎度のことではあるが、運営の変態的な執念とプレイヤーを燃やし尽くしかねない情熱の賜物で、称号と同様スキルの数も多く、其れに関係するアーツと呼ばれる技スキルも様々だった。

たとえば、【スラッシュ】という発動後1回の斬撃属性の攻撃に微量のボーナスがかかるスキルがある。

これを使った後には、キャラクターの基本動作である縦振りと横振りとができるのだが、縦振りを使い続ければ【ヴァーティカルスラッシュ】というアーツを習得し、横振りを使い続ければ【ワイドスラッシュ】というアーツを習得できる。

また、キャラクターの基本動作もゲーム内でいくつか手に入れることができるので、一つの攻撃系スキルにも可能性が無数に存在していた。

このシステムは、面倒だという意見もありはしたが、多くのプレイヤーから歓迎された。中にはスラッシュだけを極めたスラッシュマスターと呼ばれるプレイヤーすらいたほどにだ。

冷鷲もその例にもれず夢中になってスキルの収集を行っていた。今思い返せば、ゲームを開始した時点で、コンプリートを目指すというプレイスタイルが確立していたのかもしれない。……さすがにそれは言い過ぎだっただろうか。

 「ああ、暇だなぁ。新しいスキルとかアーツとかアイテムとか転がってないかなぁ……」

どうやら、言い過ぎではなかったようだ。

話を戻そう。冷鷲によるのりのりのスキルに関する実験だが、生産と同様戦闘用の物も自分で体を動かすことと自動的に体が動くことの両方が可能だった。

当然、自分で体を制御するにはそれ相応の身体能力が必要であるため、より一層筋トレに気合が入り、筋肉痛とずっと一緒の冷鷲であった。

スキルやアーツの発動方法については、その名称を宣言するか、発動後のイメージを持ちながら心の中で宣言するかの二通りがあった。

スラッシュや、スラストといった攻撃系のスキルはまだしも、ジャンプやステップなど動作系のスキルを口に出すのは、冷鷲的にはダサいということで、アーツに関してだけ宣言を口に出すことにした。

もちろん口に出さずとも発動はするのだが、それはそれ。やはり、武器を持ち技まであるのであれば格好よく叫びたいというのが中2心という物であろう。

ちなみに彼のお気に入りは、某有名RPGテイ○ズシリーズのごとく感じで形成された技たちである。そのため、今後はそれらが主に登場するだろうと思われる。

  * * *

半年がたった。

……何が起こっているのかよく分からないであろうが、とりあえず説明を聞いてほしい。

  * * *

 「道が……。無いだとおおおおっ!!」

それは冷鷲が小屋を出発してからもうすぐ2か月がたとうとしているある日のことだ。

初日は平和な旅路をおくっていた彼だが、その夜のこと。大変なことに気付いてしまった。

 「野宿とか……。道具無いし、やったことも無いし……。あ、あれ?これ、ツンデれ?い、いやつんでね?」

極寒のギャグも冴えわたり、彼の背中を、冷たい汗がつたっていった。

 「と、とりあへず、何か使える者がないか調べてみやふ。」

独り言すら可笑しくなりながらも懸命に何かこのピンチを抜け出す糸口はないかと例のパネルを操作する冷鷲。

 「そろそろ、このパネルにも名前つけようかな……。そうだよな、そのほうがいいよな。」

その結果、彼は現実逃避という糸口を見出した。

 「……」

あれからほどなくして、彼は問題解決の糸口を新たに発見していた。

その名も、【転移魔法】。

これを使って移動を試みようというのだ。

だが、その魔法の説明欄にはこう書かれていた。

  

    【テレポーテーション】

種別  特殊魔法

説明  一度行ったことのある場所へと転移することができる。

  

これを見て彼は思った。「あれ?これって、小屋に帰るしかなくね?」と。

ということで、現在彼は小屋に戻ってきている。

 「俺の。覚悟は。どうしてくれやがるんだああああ!!」

叫ばずにはいられない男がそこにはいた。

  * * *

それから昼は外の世界をめざして歩き続け、夜は小屋へと転移して休むという生活を続けてしばらくがたち、場面は少し前へ戻る。

 「道が……。無いだとおおおおっ!!」

言葉の通り、細く続いていた道が不意に消えたのだ。

周囲にはうっそうと茂る木々。どう考えても森からは出ていない。

だというのに道は途切れている。……もしくは

 「ここが、道の終わり……なのか」

元から道はここまでしかなかったかだ。

その場合、この先はもはや冷鷲の知る大森林ではなくなってしまう。

その事実がどうにも彼に一歩を踏み出すことを躊躇させていた。

終わる道、続く森。

これはすなわち、彼がプレイをしていた時よりもこの大森林が遥かに広がっていることを示している。

それは、この世界自体が、彼の知りえないものへと変質している可能性が高いということだ。

恐怖感。

それが、冷鷲の胸中にちくりと戸惑いの波紋を広げる。

ーー もし、あの時代よりもモンスターが強くなっていたとしたら。

今森の中に立っていることすら薄ら寒いものを感じるような気がしてくる。

ーー もし、ゲームの知識が通用しないとしたら。

十中八九通用しないだろう。知識を得るまでは不用意な行動は避けるべきだ。そうしなければ、この世界でも異端とされてしまう。

そうして、その日はそのまま小屋へと帰った。

小屋へと入り、要約一息つくことができた冷鷲はじっとこれからについて考えをめぐらせてみる。

 (どうするか……)

答えは分かっている。どうすべきかも心得ている。……だが、

どうするかと、彼は悩み続けている。考え続けている。

理由を。探し続けている。

 『お前は、何でもかんでも理由をつけてやりすぎだ。そりゃ、考えなしってよりはいいかもしれないが……。そんなん、つまんねえだろうが。やりたいと思うから全力でやる、やりたくねえから全力でやらねえ。たまには、そういうのも悪くねえと思うがな。ほれ、この俺、ワイルドで頼りになるお前の兄貴、炎人えと様が言ってんだぜ。……ってのを今回は理由にしてやってみろって』

無意識のうちに思い出していた、兄の豪快な声。

彼は、いつもそう言っていた。

ーー 人間、やりたいようにやってみれば、案外うまくいくものだ。

 (……そうかもな。

あの暑苦しい炎人エンジンに頼るのはしゃくだが、今回は理由にさせてもらおうか。

そして、彼は一歩を踏み出した。

  * * *

ということがあり、早4か月。

要約、冷鷲は大森林の外へとたどり着いた。

小屋を出発してから半年。

この世界へきて10か月ほどが経ち、少し成長をした少年は、自分の意志で、外の世界へとその身を進めたのである。

 「森の次は、草原とか。作者うんえいいいかげんにしろよおおおおおおっ!!」

ひとまず、町なりなんなりを探すことが次の目標だろうか。

……彼の旅路は、これからだっ!!

※終わりません。何が何でも続けます。続けさせてください。 By 作者


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