NO,12 「旅立ちの日」
霧下冷鷲の朝は早い。
「……ふわあ……。やっぱもう少し寝るか……」
朝は……早い。概ね。
「ううううう……。ねみっ」
上半身を起こし視線を周囲に彷徨わせたのち、ボフリともう一度ベッドへと倒れこむ。
冷鷲の朝は早い。しかし、寝起きがすこぶる悪いのもまた確かなのであった。
* * *
あれから10分ほどがたったのち、漸く冷鷲が動き出した。今日は旅立ちの用意をするのだと昨日から決めている。そのため、のろのろとはしていられない。拠点から運び出すアイテム類の選定が待っているのだ。
「よし。パパッと朝飯食って用意するかな」
そうつぶやきながら、彼は鼻歌交じりに料理の準備にかかるのであった。
* * *
食事が終わり、現在冷鷲は愕然と例のパネルを凝視していた。
「アイテムの選定が必要ない……だと……」
そこにはこう記されていた。
▲アイテム▲
◇インベントリ
◇アイテムボックス
すなわち
「別に選ばなくともアイテムボックスに入れておけばするっとまるっとお見とお……おっと、取り出せるということかぁぁぁ!」
彼の早起きなぞ特には必要なかった……ププ。
「ぐぬ(ギンッ)」
一通り叫び終わった後いきなり眼を飛ばし始めた冷鷲。
「……。今、誰かからめっさバカにされた気がする……」
※気のせいです。
「まぁいいか。それじゃあさっそく。旅立つとするかな」
初日にも身に着けていた黒を基調とした服にアイテムボックスから取り出した片手剣と大剣を装備し、小屋のセキュリティをしっかり確認してから彼は外へと向かう。
時刻は地球でいえば午前10時を過ぎたころだろうか。柔らかな日差しが広場へと降り、のんびりとした雰囲気を演出している。
空は晴天。この上ない旅日和だ。
「……」
もう一度振り返り小屋を見る冷鷲。
「……よし」
少しの間目をつぶり一つ頷き目を開いた。
「いく……か」
小屋に背を向けた冷鷲はそのまま振り返ることなくまっすぐと歩みだすのであった。
「……ふっ。少しの間だったが、楽しい物だったな」
そう、顔を少しほころばせながらこれからのことに思いをはせる冷鷲の背中はこの世界にやってきたころよりも多少大人びて見えた。
「……あっ……」
余談ではあるが、この後小屋のカギをかけ忘れたことに気づき全力疾走で舞い戻ってきたことを追記しておこう。セキュリティは確認していたにもかかわらず。
……まったく。しまらない男である。