NO, 11「決意」
季節が移りゆくのは本当に早い物だ。
冷鷲がこの世界へとやってきてから、早4か月余りが過ぎ去ろうとしている。
※連載は絶対にやめませんので、どうか見捨てないでください!!By作者
「……ふっ。ついに、幻聴まで聞こえてきやがったぜ……」
鬱蒼と茂る森の中、そこだけぽつんと開けている漆黒の台座が据えられた広場で遠い目をしながら空の彼方、雲すら超えたその先を見つめるがごとく、両の目を細め頭上を見上げる青年が一人。
広場の中にあって、誰もの目を引くであろう漆黒の台座に、彼は寄りかかり、直接地面へと腰を下ろしていた。
そろそろ初夏を過ぎ、本格的な夏へと飛び込まんとするある日の昼下がりのことだった。……冷鷲である。
あの日。彼が尊き筋肉の犠牲のもと証明した衝撃の事実。いや、厳しき現実とでも言おうか。
……スペックはチーとじみてるにもかかわらず、身体はゲーム内の物ではない、正真正銘自分の物であるため、この世界で本気を出そうとするのであれば、何をするにしてもまずは、自らの体を鍛えなければならない……と、言う何とも生々しい、この世界が現実であるという証をまざまざと見せつけられているとしか思えない。そんな出来事があってから、彼はこれまで毎日欠かさず身体を鍛えてきた。
……そして現在も欠かさず鍛えている……のだが……。
この日で体を鍛えはじめてから優に4か月がたとうとしている。
これほどの長時間を一人で過ごして、最近冷鷲はなんとなく人恋しくなってきていた。
『いやっ!!遅いだろう!!』
そう、画面の向こうで思われた方もいるかもしれないが、これが冷鷲という生物なのである。
「……俺、ずっと自分は人が嫌いなんだと。そう、思ってた……。」
ついには独り言が癖になってしまっていた。……重症である。
「だけど……。ちょっとそれは違ったみたいだ……」
青年の独白は続く。
「……けっ。弱えじゃねえか。俺なんてさ。……所詮は俺も人の子。誰かがそばにいないとダメなんじゃねえかよ……」
やけに芝居がかった口調で、少しかっこつけていう冷鷲。
もし、この姿を誰かが見たとすれば、10人中100人がうざいと思うに違いないし、冷鷲がそのようなふるまいをする人間を見れば絶対にうざいと思うに違いない。それほどのうざさだった。それにちょっとむかつく。
「決めたぜ」
かっと、双眼を見開く冷鷲。その表情には、何かを決心した色が浮かび上がっていた。
「俺。旅に出る……!!」
酷く落ち着き払った声色が大気を震わせた。
舞台はクライマックスなのだろう。すっくと立ち上がった冷鷲はそのまま流れるような動作で、背後へ振り向き、台座につきたてられた漆黒の剣を勢いよく引き抜いた。
シャンという、金属特有の摩擦音を従えて、剣が抜き放たれ、天球から降り注ぐ日光が鈍く刀身を輝かせた。
「さぁ、行こう。新天地を求めて!!」
剣を天へと掲げそう声を上げる冷鷲。
この日。冷鷲は4か月にわたって生活を営んだ森を出て、旅をすることを決意したのであった。
「……なぁんてな。……んまでも……」
くるりと剣を翻し再び台座へと戻しながら冷鷲は悩ましげに眉を歪める。
「……マジで、旅とか行っちゃってみちゃおうかな……」
その表情は演技している物ではなく、実際に悩んでいると分かるようなものであった。
「……よし、行こう」
多少の逡巡の後、彼は大きくうなずきながら決定を下したようだ。
「そうと決まれば、旅の用意だな」
気持ち足取りが軽くなりながら、根城としている小屋へと足早に入っていく冷鷲であった。
本文中にある10人中100人というのは誤字ではありません。そのくらいうざいということです。