NO,9 「筋肉痛が痛い」
「り……理不尽だ……」
筋肉痛に顔を歪ませ、悶える男が一人。
己の運動不足を全力で棚の上に上げ、怨嗟の声を上げる。
……まあ、冷鷲なのだが。
* * *
初めての生産スキルを使用した物づくりから一夜が明けた。
当然のことながら筋肉痛となった冷鷲は今日は何もせずだらけると心に決めた。
せっかくゲームであった世界に来たのだから体のスペックもそれ相応に上げてくれても良いのではないかとどこにいるのかも分からない責任者(もしかして神?)へと恨みの篭った声を上げる冷鷲であった。
* * *
怠けると決めてから早1時間がたとうとしている。
「……暇だ」
そこにはやることが無く暇をもてあましている残念なイケメンが一人。
「やることが無いのなら、何かすればいいじゃない!!」
いかにも名案が浮かんだといわんばかりにオーバーリアクションをとる冷鷲。筋肉痛はどうやら痛まないようだ。
先ほどまでの怠ける宣言は忘却のあちらへと行ってしまった様であるし、……何と都合のいい男だろうか。
ともあれ、彼は徐に動き出した。
そもそも彼は根っからの職人肌であり、何かをしていないと落ち着かないようで、今回は、昨日作った鉄製の刀身をきちんとした物にしようと考え付いたようである。
とりあえず、今必要な物は柄と鞘であるが、実のところ鞘は最悪無くても言い。
というのも、MS内では鞘が無い武器でも装備ができる。
どこまでも、限りなくリアルに近づけたかったと思われるMSの精索人は鞘がある武器は装備したさいに任意で武器の出し入れが可能だが、鞘が無い武器に関しては武器をしまうことができず、いちいち装備画面から取り外すか、フィールド内限定ではあるが、その場に武器を置かなければならないというシステム(嫌がらせ)を用いた。
また、鞘が在るか無いかでは使える技も多少変わってくる。
分かりやすい例とすれば、日本刀を用いた抜刀術などがそれにあたる。
そして、これが最も重要であるかもしれないが、武器を手に持っている時とそうでない時にはキャラクターの移動速度が大きく異なるのだ。
それに、簡単に武器を出し入れできなければ、敵と遭遇した場合可也まずいことになる。そこで、この鞘の出番だ。
鞘に武器をしまっておけば移動速度は損なわれないのである。……それに見栄えも良い。
長々と説明してきたが、すごく簡単に言ってみれば装備をしないと分かっていれば作る分には鞘が無くても良いということだ。
「ようし。それではゆくぞう?」
どこかの山猫を髣髴とさせる声を上げながら作業を始める冷鷲。暇なのだろうか。それとも馬鹿なのだろうか。
……まあ、それはそれ。冷鷲はアイテムボックスから必要な材料を取り出した。
今回は時間をもてあましているため、鞘も作ることにした彼はふとあることに気付く。
「……俺って、裁縫とか木工とかできたっけ? 高度なやつ」
いまさらな気付きであった。そもそも鍛冶をできた団塊で分かりそうなことに今思い当たり動きを止める。
やはり彼はどこか抜けているようだ。そうは言っても暇な物はしょうがない。
「まあ、どうにかなるだろ」
と、どこまでも前向き(大いに馬鹿)な冷鷲は動きを再開させるのであった。