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漆黒の闇

気付いたときはボロボロだった。



誰も愛してなどくれなかった。




漆黒の瞳は絶望の象徴。





だがわずかな光で





愛を求めていた。

ルキ。それは彼が18歳の時につけられた一種のコードネーム。

本名は誰も、本人すら知らない。

 ただ幼少期は誰も自分の周りにいなかったので、名前など必要なかった。

 だが16の時、剣の練習をしているとたまたま近くを通った王家に従える剣士に腕を褒められ、そのまま王家に従う事となった。

その時の名はアル。2年間。王に捨てられるまで…国に必要とされなくなるまで必死に戦った。

 たとえ、王女と禁忌の恋に落ちても…

 王女はルキ…その時はアル…にカナ。と名乗った。きっとそれも本名ではないだろう。それでも良かった。彼女を愛していたから。






 「カナ。この人は今日からお前の護衛をするアルだ」

「ア…ル?」

目の前にいるのは腕に包帯を巻いた細くって、白い少女。

アルが初めて見た王女は青い綺麗なコバルトブルーの瞳でアルをジッと見つめていた。

「アルです」

「綺麗な瞳…」

綺麗。その言葉にアルは眉を顰めた。

「アルです。えっと…」

「カナ。」

「カナ様」

アルがカナの名を呼ぶと鈴のようなかわいらしい声でクスッと笑うのが聞こえた。

「アルよ」

「はい。リュウ様」

「お前はカナの傍を片時も離れてはならん」

アルにはまだその言葉の意味が解らなかった。だが王に従える身。逆らうことは出来なかった。

いや…逆らう、ということすらアルは知らない無知な少年だった。

「お父様。」

カナがリュウに何かを縋るようにして見つめた。だがリュウは何も聞かずに

「ダメだ」

そうバッサリと言いつけた。カナが悲しそうな顔をしてアルを見る。だがリュウは「ダメだ」と言って部屋から出て行った。


「アル?」

突然名を呼ばれてアルは慌てて振り返る。

「貴方…何を苦しんでいるの?お父様に従うこと?私の護衛をすること?それとも…」

アルは何かに縛り付けられたようにその場から動けなかった。

(逃げろ…この場から…今すぐに。この後の言葉を聞いてはいけない)

焦るアルを見てカナは嬉しそうに微笑んだ。

「生きること?」

「い…きる?」

「怖いの?」

「こわい?」

アルの顔は青ざめていた。そしてその場にしゃがみ込んでしまう。

「分からない…」

そう呟いた声は今にも消えそうだった。

「アル」

名を呼ばれて前を向くと、アルはカナに抱きしめられる。

「いいのよ。分からなくっても、私がいるじゃない?」

「あ…あ…あぁ……」

 初めて知ったはずの人の温もりなのに、何故かどこか懐かしかった。アルは涙を流してカナを抱きしめる。壊れないように、守るように。

 一度身体を離した二人は何も言わぬまま静かに唇を重ねた。優しく、激しく。

 カナは自分のすべてをアルに託した。アルは何があってもカナを守ると決めた。




 「「国外…追放?」」

不安そうな二人の声が重なった。

「ちょっと待って。お父様。アルは何もしていないわ。何で…何でアルが?」

「アルよ。お前は軍を裏切ってまで何をしたのだ。」

「リュウ様。私はなにもしておりません。カナ様をお守りしました」

「片時もカナのそばを離れてないなら何故、国民の皆がお前を見たのじゃ?」

リュウが言ったことにアルは心当たりがなかった。もちろん身に覚えもない。

「死か、国外追放か。」

アルはこの時気付いた。軍の皆だと。

「カナ様。申し訳ありませんでした」

アルはそういって王宮を出てゆく。何も持たずに、自分の身に任せて。

「アル。待って。アルっ」

カナには聞こえた。アルの声が


『さようなら』





そうして少年は再び名もないただの少年となった。





「ルキ。早くしろ」

「すみません」

砂漠のど真ん中。何も無いところで砂埃が立っていた。数頭のラクダが走っているのだった。ラクダに乗る人の中にはあの少年がいた。

 名はルキ。今は砂漠の商人となっている。そんな彼らの後ろにはどこにいたんだ。というぐらいの巨大な怪物がルキらを襲おうとしていた。

「うあぁっ」

「ルキ!!」

 ルキは襲われた。あたりには砂埃が舞う。

「ちっ」

 ルキの仲間は立ち止まることなく逃げ続けた。誰も仲間の死を悲しむことなく。




(あぁ…俺死ぬんだ…)

そう感じたのは怪物に襲われたルキだった。

(何も見えねェ…)

最後に呟いたのは愛しき人の名。



「カナ…」






彼は視力と名を失った。


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