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東方物音録

作者: 514
掲載日:2026/01/22

※これは東方projectの二次創作です。

キャラ崩壊等があるかもしれません、大丈夫で無い方はブラウザバックを推奨します。


プロローグ

「あれ……ここ、何処……?」

湖畔に立った少女は、ギターを胸に抱きしめたまま、きょろきょろと辺りを見回した。


1章 巫女服の少女


「とりあえず……歩いてみよう」

いつもと違う森の空気に怯えながら、少女はゆっくりと歩を進める。

少し行った先に、小さな神社が見えた。

「人が……いる?」

少女は小さく呟いて、足を止めた。

──引き返さなきゃ。

忘れたはずの記憶が、頭の奥でチラつく。

「そこで何してるの?」

突然、後ろから声がした。

「っ……!」

振り返ると、そこには紅白の巫女服を着た少女が立っていた。

「いや……!」

少女は反射的に逃げようとしたが、腕をがしりと掴まれた。

「あー? 急に逃げるって怪しいんだけど」

巫女服の少女──博麗霊夢は、面倒くさそうに眉を寄せた。

「離して……! こっち見ないで……!」

嘉音は必死に腕を振りほどこうとするが、霊夢の力は予想外に強かった。

「はいはい、落ち着きなさいって。……で、アンタ名前は?」

「……翡翠嘉音」

「ふーん。嘉音か。私は博麗霊夢。この神社の巫女」

霊夢は腕を離し、ぽん、と自分の肩を叩いた。

「博麗の……巫女?」

「まぁそんなとこ。で、さっきからビクビクしてるけど──何で逃げようとしたの?」

嘉音は唇を噛んだ。

「……言えない」

「はぁ? 言えないって、何それ」

霊夢はため息をつきながら、じーっと嘉音を見据える。

「……ねえ。もし、私があなたに勝ったら──理由、言わなくてもいい?」

一瞬の沈黙。

霊夢の口元が、にやりと緩んだ。

「……おもしろいこと言うわね」

霊夢はゆっくりと後ろに下がり、陰陽玉を軽く回しながら言った。

「いいわ。負けたらちゃんと話すこと。──場所はあっちの森でいい?」

嘉音は小さく頷いた。

「……早く済ませましょう」

霊夢はもう興味津々といった様子で、森の奥へ歩き出す。

境内に一人残された嘉音は、ギターを抱きしめながら小さく呟いた。

「……大丈夫。あの子は、みんなとは違う。だから、傷つけるつもりなんて……ないよね」

──風が、かすかに鈴の音を運んでいった。


2章 響く森の弾幕


森の中は静かだった。木々が密集し、陽光が葉の隙間から差し込む中、二人の少女が向かい合う。

霊夢は軽く浮かび上がり、陰陽玉を構えながら、いつものように面倒くさそうにため息をつく。

「じゃあ、さっさと始めよっか。ルールは簡単。弾幕で勝負。負けたら素直に話聞かせてね。……あ、弾幕って知ってる?」

嘉音はギターをぎゅっと抱きしめ、首を横に振る。

「……弾幕? それ、何……?」

霊夢は一瞬ぽかんとしてから、くすっと笑った。

「へえ、外の世界から来た系? まぁいいや。簡単に言うと、魔法の弾を撃ち合って遊ぶの。死なない程度に本気でね。……やる?」

嘉音は少し迷った後、ゆっくり頷いた。

「……うん。負けたくない」

彼女の指がギターの弦に触れる。

――ぴんっ。

小さな音が森に響き、すぐに淡い青い波紋が空気に広がる。音が光の粒子になって周囲の木々や葉の形を浮かび上がらせ、嘉音に「見える」ようにする。彼女の能力――音に形を与える力。

「へえ、ギターで何かやってるね。面白い」

霊夢は興味津々といった様子で、まずは軽く様子見の弾を放つ。赤と白の小さな光弾が扇状に広がって嘉音に向かう。

嘉音の目が細くなる。ギターを強くかき鳴らす。

――じゃーん!

低音が響き、彼女の周囲に青い鱗のような光の壁が現れる。音の振動が鱗を震わせ、霊夢の光弾を次々と弾き返す。壁はただの防御じゃなく、跳ね返った弾が微かなエコーを残して森中に広がり、嘉音の周囲をより鮮明に「見せる」。

「固いじゃん。でも、これじゃ終わらないよ」

霊夢の動きが速くなる。空中を滑るように移動しながら、次の弾を放つ。

巨大な光の玉が嘉音を追尾し、分裂しながら複雑な軌道を描く。

嘉音は怯まず、ギターのネックを握りしめ、速いリフを奏でる。

――ぎゃりぎゃりっ!

音が波状のエネルギーに変わり、青い爪のような光が放射状に広がる。爪は霊夢の光弾を切り裂くように交差し、ぶつかり合って火花を散らす。まるで深海の波が森を飲み込むような光景だ。

「やるじゃん! でも、まだまだ!」

霊夢は楽しげに笑い、弾の密度を上げる。

嘉音の息が少し乱れる。内気な性格が、戦いの音に刺激されて少しずつ変化していく。彼女はマジックアイテム「古代魚のさざめき」を密かに起動。身体能力が上昇し、動きが軽くなる。

「これで……!」

ギターを激しくストローク。

柔らかなメロディーが流れ、青い光の粒子が癒しの波紋となって広がる。霊夢の弾を吸収し、勢いを削ぐ。攻撃じゃなく、相手を静かに抑えるような感覚。

「ん? なんか眠くなる……って、油断させる気?」

霊夢は首を振り、気合いを入れ直す。

二重の結界が展開され、嘉音の周囲を囲む。内側から無数の光弾が噴き出す。

嘉音はギターを抱え、声を震わせながら呼びかける。

「……来て……エコー……!」

ギターの音が巨大な幻影を生む。深海の古代魚を模した、鱗が光る巨大な竜が現れ、低く咆哮を上げる。――ぐおおおん……。

響竜は音のエコーを操り、結界の弾を反射。鱗が光の粒子となって結界を内側から崩していく。

ここから戦いは本格化。霊夢の弾幕が森を照らし、嘉音の音は水のような波を起こす。

嘉音は小さな音で薄い鱗の鎧をまとい(微音の鱗衣)、囁きのような波紋を広げて(囁きの波紋)霊夢の動きを乱す。

霊夢は感心しつつ攻勢を強めるが、嘉音の響竜がしぶとく耐える。

ついに嘉音がギターを全力でかき鳴らす。

弦が震え、森全体が振動する。

巨大な響竜がさらに膨張し、星屑のような光の粒子をまき散らしながら咆哮を放つ。音の波が渦を巻き、霊夢の弾幕を一掃する。粒子が霊夢を包み込む。

「わっ、こりゃすごい……!」

霊夢はギリギリで回避するが、密度に押され、ついに膝をつく。

「……負け、だね」

霊夢は息を切らしながら、苦笑い。「まさかギター一本でここまでやれるとは。やるよ、アンタ」

嘉音はギターを下ろし、ほっと息をつく。響竜の幻影がゆっくり消え、森に静けさが戻る。

「……ありがとう、霊夢さん。勝っちゃったから……理由、言わなくていいよね?」

霊夢は立ち上がり、肩を叩いて埃を払う。

「まぁ、約束は約束だよ。けど、次に何か変なことあったら容赦しないからね」

嘉音は小さく頷き、ギターを抱えて森の奥へ歩き出す。彼女の背中には、まだ語られていない深海の秘密が隠されていた。


3章 博麗神社での自己紹介、そして乱入者たち


弾幕勝負の後、二人は森を抜けて博麗神社へと戻ってきた。

境内は夕暮れの柔らかな光に包まれ、鳥居の向こうに桜の木々が静かに佇んでいる。

霊夢はいつものように縁側に腰を下ろし、お茶を淹れながら嘉音を促した。

「さて、約束は守ったんだから、あなたの正体くらいは、そろそろ話してくれてもいいよね? ……まぁ、急がなくてもいいけど」

霊夢は面倒くさそうに言いつつ、湯呑みを差し出す。

嘉音はギターを膝に置き、座ったまま小さく息をついた。

「……ありがとう、霊夢さん。えっと、私……翡翠嘉音っていうの。種族は……シーラカンスの擬人化、かな。すごく昔の魚が、人間の姿になったみたいな……」

彼女の声はまだ震えていたが、少しずつ言葉が出てくる。

「能力は、音に形や力を与えること。ギターの音とか、声とか……それを光の粒子や波に変えて、攻撃したり、守ったり、見えなくしたものを『見る』こともできるの。……それと、このギターはただの楽器じゃなくて、マジックアイテムで……」

霊夢は興味深そうに頷きながら、お茶を啜る。

「ふーん、深海の生き残り系か。幻想郷にも珍しいヤツはいるけど、アンタは結構レアだね。で、なんでここに来たの? さっき逃げようとした理由は?」

嘉音は目を伏せ、ギターの弦をそっと撫でる。

「……それは、まだ……」

と、その時。

ドカーン!

突然、境内の空に黒い箒が飛んできて、勢いよく着地。土埃を巻き上げながら、金髪の魔法使いが降り立つ。

「よっ、霊夢! なんか変な気配がしたから飛んできたぜ! って、おいおい、誰だこのギター娘は!?」

黒い帽子に黒いエプロンドレス、箒を肩に担いだ霧雨魔理沙が、ニヤニヤしながら嘉音を指差す。

霊夢はため息をつき、湯呑みを置いた。

「……魔理沙。勝手に来るなって何回言えばわかるのよ」

「気にすんなよ! 面白い匂いがプンプンしてたんだぜ。弾幕の残り香がまだ残ってるし、絶対何かあっただろ?」

魔理沙は嘉音にぐいっと近づき、目を輝かせる。

「お前、魔法使い? いや、違うな……魚の匂いがするぜ。深海のヤツか? すげぇな!」

嘉音はびっくりして後ずさり、ギターを胸に抱きしめた。

「え、えっと……はじめまして……?」

魔理沙はさらにニヤリ。

「霧雨魔理沙だぜ。魔法の研究が趣味の普通の魔法使いさ。よろしくな、ギター魚娘!」

霊夢が呆れ顔で魔理沙を睨む。

「魚娘って呼ぶな。嘉音って名前だよ」

その瞬間、境内の空気がわずかに歪む。

隙間が開き、優雅な紫色のドレスをまとった女性が、扇子を口元に当てて現れる。

八雲紫だ。

「ふふっ、賑やかねぇ。どうやら面白い子が迷い込んできたようで」

紫はゆっくりと隙間から全身を出し、優雅に扇子を振る。

「博麗の巫女に、霧雨の魔法使い……そして、深海の残響を抱えた子。なかなかいい組み合わせじゃないかしら?」

嘉音は完全に固まってしまった。

「……え、えええ……?」

霊夢は頭を抱える。

「紫まで……。もう、今日はもう帰ってよ。面倒くさい……」

魔理沙は逆に大喜び。

「おお、紫まで来たか! こりゃ事件の匂いがプンプンだぜ。嘉音ちゃん、もっと詳しく聞かせてくれよ! どんな弾幕撃てるんだ? ギターでスペルカードとか、超面白そうじゃん!」

紫はくすくす笑いながら、嘉音に近づく。

「ふふ、逃げようとしても無駄よ。隙間はどこにでも繋がってるんだから。……ねえ、嘉音ちゃん。あなたの『音』、少し聞かせてくれないかしら?」

嘉音は三人に囲まれ、ますます縮こまる。

「……み、みんな、急に……!」

境内は一瞬にして大騒ぎ。

霊夢の「静かにしてくれ」、魔理沙の「もっと弾幕見せろぜ!」、紫の「面白いわねぇ」という声が重なり、

夕暮れの博麗神社は、いつもよりずっと賑やかになっていた。


4章 紅魔館への道、そして暴走


次の朝。

博麗神社の境内は、朝日が柔らかく差し込み、桜の花びらが風に舞っていた。

霊夢は縁側で伸びをしながら、嘉音に声をかける。

「ん……おはよ。昨日はあんな騒ぎになったけど、今日は紅魔館に行くって話だったよね。パチュリーにアンタの能力のこと、ちょっと相談してみようかと思って」

嘉音はギターを抱え、静かに頷く。

「……うん。ありがとう、霊夢さん。私の音……なんか、変な感じがするの。最近、コントロールが……」

彼女の言葉を遮るように、魔理沙が箒で飛んできて着地。

「よっ! おはようだぜ! 紅魔館行くなら私もついてくぜ。パチェの図書館に新しい魔法の本があるって聞いたし、ついでに嘉音のギター弾幕も見たいしな!」

霊夢はため息をついた。

「……勝手に決めるなよ。まぁ、いいけど」

こうして、三人は紅魔館へと向かった。湖を渡り、霧に包まれた巨大な洋館が姿を現す。

紅魔館の門は荘厳で、赤い屋根と尖塔が朝の光を浴びて輝いていた。門番の紅美鈴が眠そうに立っている。

「ん? 霊夢に魔理沙……それに知らない子? 今日は用事?」

霊夢は軽く手を振る。

「パチュリーに用があるの。通して」

美鈴は眠たげに頷き、門を開ける。

館内に入ると、広大な廊下と豪華な装飾。メイド長の十六夜咲夜が静かに出迎える。

「お客様方、いらっしゃいませ。パチュリー様は図書館におります」

図書館へ向かう途中、嘉音の足取りが少し重くなる。

「……なんか、胸が……ざわつく」

魔理沙が気づいて振り返る。

「おいおい、大丈夫か? 顔色悪いぜ」

嘉音はギターを強く握り、首を振る。

「大丈夫……だと思う」

図書館に到着。

無限に広がるような本棚の迷宮。紫のローブをまとったパチュリー・ノーレッジが、本を浮かべて読んでいる。

「ふむ……霊夢、魔理沙。そして……あなたが件の深海の娘ね」

パチュリーは本から目を上げ、嘉音をじっと見つめる。

「音を形にする能力……興味深い。少し、実験させてくれないかしら?」

嘉音は緊張しながら頷く。

「……少しだけなら」

彼女はギターを構え、軽く弦を弾く。

――ぴんっ。

小さな音が図書館に響き、淡い青い波紋が広がる。本棚の埃が浮かび上がり、音の粒子が本のタイトルを浮かび上がらせる。

パチュリーの目が輝く。

「素晴らしい……これは、振動と魔力の融合ね。もっと強く弾いてみて」

嘉音は従う。少し強くストロークする。

――じゃーん!

しかし、その瞬間。

嘉音の瞳が一瞬、深海のような暗い青に染まる。

「……あ……っ」

彼女の体が震え、ギターの弦が勝手に鳴り始める。音が暴走し、図書館全体に響き渡る。

ぐおおおん……!

召喚獣「絶滅残響竜」が、無許可で巨大化して現れる。鱗が星屑のように輝き、咆哮が本棚を震わせる。音の波が渦を巻き、制御不能の弾幕が飛び散り始める。

本が飛び、ページが千切れ、魔法の障壁が次々と破られる。

「わっ、ヤバい! 暴走してるぜ!」

魔理沙が箒を構える。

霊夢は陰陽玉を浮かべ、嘉音に向かって叫ぶ。

「嘉音! 落ち着いて! ギターを止めなさい!」

だが嘉音は頭を抱え、苦しげに呟く。

「……止まらない……音が……勝手に……!」

パチュリーは冷静に呪文を唱え、障壁を張るが、響竜の咆哮がそれを押し返す。

「これは……深海の残響が、幻想郷の魔力と共鳴してるわね。抑えきれない……!」

図書館は音の嵐に包まれ、嘉音の暴走が頂点に達しようとしていた。

紅魔館に、異変の予感が広がる――


5章心の音


図書館は音の嵐に飲み込まれていた。

本棚が揺れ、無数の本が空中を舞い、ページが千切れて渦を巻く。

響竜の咆哮が低く響き渡り、星屑のような光の粒子が暴れ回る。嘉音は頭を抱え、膝をついて苦しげに呻く。

「……止まって……お願い……!」

パチュリーは冷静さを失わず、素早く呪文を紡ぐ。

彼女の周囲に紫色の魔法陣が浮かび上がり、図書館全体を覆う巨大な結界を展開。

「小悪魔! 補助を!」

図書館の奥から小さな悪魔小悪魔が飛んできて、パチュリーの横に並ぶ。

二人は息を合わせ、魔力を注ぎ込む。結界が音の波を少しずつ押し戻し始めるが、まだ完全に抑えきれない。

「くそっ、このままじゃ図書館が吹っ飛ぶぜ!」

魔理沙は箒を構え、ミニ八卦炉を掲げる。

「いくぜ……マスタースパーク!!」

巨大な虹色の光線が放たれ、響竜の咆哮と正面衝突!

光と音が激しくぶつかり合い、爆風が図書館を震わせる。マスタースパークは暴走のエネルギーを一部吸収・相殺し、響竜の動きを一瞬止める。

霊夢は嘉音の前に立ち、陰陽玉を複数浮かべて防御陣を張る。

「嘉音! 聞こえる? 深呼吸して! ギターを……握りしめて、音を自分でコントロールするのよ!」

嘉音の瞳が涙で潤む。

「……怖い……みんなを傷つけたくない……」

その時、図書館の天井が裂けるような音がした。

バキンッ!

空間が割れ、鮮やかな結晶のような弾幕と共に、金髪の少女が降り立つ。

フランドール・スカーレットだ。

彼女は目を輝かせ、楽しげに手を叩く。

「わーい! すごい音! 壊れちゃいそうで楽しい〜!」

霊夢が慌てて叫ぶ。

「フラン! 待って! 壊すんじゃない、抑えるのよ!」

フランはくすくす笑いながら、両手を広げる。

「わかったよ、お姉ちゃんみたいに優しくするね……レーヴァテイン!!」

彼女の剣が輝き、空間そのものを「壊す」力で響竜の暴走エネルギーを「固定」する。

音の波が一瞬で静止し、粒子が凍りついたように止まる。フランは暴走を「壊さない」よう、巧みに制御して封じ込めていく。

パチュリーの結界とマスタースパークの相殺、霊夢の防御、そしてフランの破壊制御が重なり――

……静寂。

響竜の幻影がゆっくりと縮小し、消えていく。

図書館に散らばった本がポトリポトリと落ち、ようやく静けさが戻った。

嘉音は力尽きたように倒れ込み、ギターを胸に抱いて涙をこぼす。

「……ごめん……なさい……みんな……」

霊夢はそっと嘉音の肩に手を置き、優しく言う。

「大丈夫。誰も怪我してないよ。……よく耐えたね」

魔理沙は汗を拭いながらニヤリ。

「いやぁ、すげぇ暴走だったぜ。けど、これで嘉音の力のヤバさがわかったな。パチェ、どうすんだ?」

パチュリーは息を整え、本を浮かべて片付けをしながら呟く。

「……深海の残響が、幻想郷の魔力と過剰に共鳴したようね。制御の鍵は……嘉音自身の『心の音』にあるわ。訓練が必要よ」

フランは嘉音の頭をぽんぽんと撫でる。

「次は2人で遊ぼうね! 壊さない範囲で♪」

嘉音は小さく頷き、みんなの温かさに包まれながら、ようやく安堵の息をついた。

紅魔館の図書館は、再び静かな本の海に戻ったが、どこか新しい絆が生まれた空気が漂っていた。


6章紅魔館の主


暴走がフランドールの力でようやく収束した直後。

図書館の空気が重く静まり返る中、天井の高い扉がゆっくりと開いた。

カツン……カツン……

小さな靴音が響き、赤いドレスをまとった少女が現れる。

青みがかった銀髪に、背中から生えたコウモリのような翼。

紅い瞳が、すべてを見透かすように輝いている。

レミリア・スカーレット紅魔館の主、運命を操る程度の能力を持つ吸血鬼のお嬢様。

彼女はゆっくりと歩み寄り、散らかった本の山を一瞥して小さく鼻を鳴らす。

「……ふん。私の図書館で、随分と派手な音を立ててくれたようね」

声は幼いのに、威厳に満ちていて、誰もが自然と背筋を伸ばしてしまう。

霊夢はため息をつきながら立ち上がる。

「レミリア……いつから見てたのよ」

レミリアは優雅に扇子を開き、口元を隠してくすくす笑う。

「最初から、よ。妹が珍しく外に出てきたから、気になってね。……それに、この子」

視線が嘉音に向けられる。

嘉音はまだ膝をついたまま、ギターを抱えて震えていた。レミリアの視線を感じて、びくりと肩を震わせる。

レミリアは嘉音の前にしゃがみ込み、顔を覗き込むように近づく。

「あなた……深海の残響を抱えた子ね。私の館の魔力と共鳴して、暴走したのでしょう? 面白いわ。こんなに古い『音』を、幻想郷で聞くなんて」

彼女の指が、嘉音のギターの弦にそっと触れる。

――ぴん……

わずかな音が響き、レミリアの瞳が細くなる。

「ふふっ。この音色……運命の糸を少しだけ揺らすわね。あなた、なかなかいい玩具……いえ、客人になりそう」

嘉音は恐る恐る顔を上げ、レミリアの瞳を見る。

「……ご、ごめんなさい……迷惑を……」

レミリアは立ち上がり、優雅にドレスを払う。

「謝る必要はないわ。むしろ、感謝すべきね。私の退屈な午後を、久しぶりに刺激してくれたんだから」

彼女は扇子を閉じ、軽く手を振る。

「咲夜。お茶の準備を。客人を歓迎するわよ。……それと、この子の暴走を抑えるための部屋を用意して。パチュリーの図書館は、もう少し静かにしておきたいもの」

咲夜がどこからともなく現れ、深く頭を下げる。

「かしこまりました、お嬢様」

魔理沙はニヤニヤしながら肘で霊夢をつつく。

「ほら見ろよ、紅魔館のお嬢様も興味津々じゃん。こりゃ嘉音ちゃん、しばらくここに居候決定だぜ!」

霊夢は頭を抱える。

「……最悪。面倒なのが増えた……」

レミリアは嘉音に優しく、しかしどこか威圧的に手を差し伸べる。

「さあ、立って。私の紅魔館で、ゆっくりお話ししましょう。……あなたの『音』が、どんな運命を奏でるのか、楽しみだわ」

嘉音は震える手でレミリアの手を取り、ゆっくり立ち上がる。

図書館の散らかった本の山を背に、紅魔館の主と深海の少女の出会いが、静かに始まった。


5章竹林の永遠亭へ


2日後。

紅魔館の客室で目を覚ました嘉音は、窓から差し込む柔らかな朝日を感じながら、ギターをそっと撫でた。

昨日の暴走の余韻がまだ体に残っている。胸のざわつきは少し収まったが、音が「呼びかけてくる」感覚は消えていなかった。

ドアがノックされ、霊夢が入ってくる。

「おはよ。今日は永遠亭に行くよ。永琳なら、アンタの能力の暴走について何か分かるかもしれないし……薬も出してくれるかもね」

魔理沙も後ろから顔を出し、ニヤニヤ。

「私も行くぜ! 永遠亭の薬、たまにすげぇマジックアイテムになるんだよな。ついでにてゐのいたずらも期待大だぜ!」

嘉音は少し不安げに頷く。

「……うん。行ってみる……」

こうして、三人は紅魔館を後にし、幻想郷の深い竹林へと足を踏み入れた。

竹が風に揺れ、迷いやすい道を進む。霊夢が先頭で道を覚えているようだ。

竹林の朝は静かで、霧が薄く立ち込め、神秘的な雰囲気に包まれている。

嘉音はギターを抱えながら、周囲の音に耳を澄ます。竹の擦れ合う音、遠くの鳥の声……すべてが穏やかで、昨日のような暴走の気配はない。

やがて、竹の隙間から古風な建物が見えてくる。

永遠亭――永遠に続く薬師の住処。

門をくぐると、すぐに兎耳の少女が飛び出してきた。

鈴仙・優曇華院・イナバ。赤い瞳が嘉音たちを捉え、少し緊張した表情になる。

「霊夢さん、魔理沙さん……それに、知らない子? 永琳様に用事ですか?」

霊夢は軽く手を上げる。

「うん。ちょっと相談。通して」

レイセンは頷き、奥へ案内する。途中、いたずら好きの因幡てゐが竹の陰からひょっこり顔を出す。

「へぇ〜、珍しいお客さんだねぇ。ギター持ってる子? なんか面白そうな匂いがするよ~」

てゐは嘉音の周りをくるくる回り、ニヤニヤ。

嘉音はびっくりして後ずさり。

「……え、えっと……」

てゐは笑いながら手を振る。

「冗談冗談! でも、本当に面白そうだから、後で弾いてよね~」

永遠亭の座敷に通されると、そこに八意永琳が静かに座っていた。

銀髪の薬師は、穏やかな微笑みを浮かべて三人を迎える。

「ようこそ、博麗の巫女と白黒の魔法使い……そして、深海の残響を抱えた子ね」

永琳の目は、嘉音を一瞬で分析するように鋭い。

「あなたの体内の『音』が、幻想郷の魔力と共鳴して暴走したそうね。少し、診てみましょうか」

嘉音は緊張しながらギターを置いて座る。

「……お願いします……」

永琳は優しく嘉音の手を取り、脈を測る。

「ふむ……古い生命の残響。シーラカンスの血は、時間すら超えた『記憶の音』を宿しているのね。幻想郷の魔力がそれを刺激して、制御を失わせた……」

永琳は薬棚から小さな瓶を取り出し、嘉音に差し出す。

「これを飲みなさい。暴走を抑える抑制剤よ。完全に治すわけではないけど、少なくとも次に暴走しても、すぐに鎮められるはず」

嘉音は瓶を受け取り、ゆっくり飲む。

体に温かなものが広がり、胸のざわつきが少し和らいだ。

霊夢はほっと息をつく。

「助かるわ。ありがとう、永琳」

永琳は微笑みながら、嘉音に視線を戻す。

「でも、本当の原因は『音』の源にあるわね。あなたの中の『過去』が、幻想郷で目覚めようとしている……。これから、少しずつ話してくれる?」

嘉音は目を伏せ、ギターの弦をそっと触る。

「……少し……ずつ、話せるようになると思います」

てゐが横から割り込んでくる。

「へぇ〜、じゃあ今日はここでゆっくりしていきなよ! 竹林の兎たちと遊ぼうぜ~!」

鈴仙は慌てて止める。

「てゐ、迷惑かけないでください……!」

永遠亭の座敷は、賑やかさと静けさが混ざり合っていた。


6章 嘉音の失踪、そして始まる異変


永遠亭からの帰り道は、いつもより静かだった。

竹林の風が竹を擦る音だけが響き、三人はほとんど言葉を交わさずに博麗神社へ戻った。

境内に入ると、嘉音は縁側に腰を下ろし、ギターを膝に置いたまま、ぼんやりと空を見上げた。

「……ありがとう、霊夢さん、魔理沙さん。今日は、もう少し一人で……考えたい」

霊夢は少し心配そうに頷く。

「無理しないでね。夕飯の時間になったら呼ぶから」

魔理沙は肩をすくめ、箒にまたがる。

「じゃあ私は一旦帰るぜ。嘉音ちゃん、何かあったら飛んでくからな!」

二人が去った後、嘉音は一人残された。

彼女はゆっくりと立ち上がり、ギターを抱えて神社の裏手へ歩き出す。

――誰も、見なくていい……。

その呟きが、風に乗って消えた。

夕暮れ時。

霊夢が客間に声をかけに行くと、嘉音の姿はどこにもなかった。

布団はきちんと畳まれ、ギターのケースだけがぽつんと置かれている。

窓は開け放たれ、夕陽の赤い光が部屋に差し込んでいた。

「……嘉音?」

霊夢は眉を寄せ、すぐに境内を捜す。

いない。

裏の森へも、湖畔へも、どこにも気配がない。

「まさか……」

霊夢は陰陽玉を浮かべ、急いで魔理沙に連絡を取る。

幻想郷に、嘉音の失踪が知れ渡るのは、それから間もなくのことだった。


7章不思議な音のささやき


翌朝、幻想郷のあちこちで奇妙な噂が広がり始めた。

人間の里の住人が、朝の作業中に耳を澄ませて立ち止まる。

「なんか……音が重いんだよな。風の音が、鱗が落ちるみたいな……シャラシャラって」

森の妖精たちは、遊んでいると突然耳元で「カサ……カサ……」という音が響き、びっくりして飛び散る。

「ひゃー! なんか変な音がするよぉ! 鱗が落ちてるみたい!」

天狗の新聞記者や河童の技術者たちが、博麗神社に次々と集まってくる。

「霊夢! 最近、耳元で変な音がするんだが……知ってるか?」

「私の器械の音まで重たく感じるぜ。何か異変か?」

霊夢は縁側に座り、ため息をつく。

「……嘉音がいなくなったのと、タイミングが合いすぎるわね」

魔理沙が飛んできて着地。

「嘉音ちゃんがいなくなったって聞いたぜ。で、この音……絶対関係あるだろ?」

霊夢は立ち上がり、決意を固める。

「探すわ。嘉音を……そして、この異変の元を」


8章物質化する音の脅威


昼過ぎには、異変は本格化した。

森の奥で、木々の葉たれの音が突然青い光の粒子に変わり、巨大な鱗の壁となって道を塞ぐ。

妖精や動物たちがパニックで逃げ惑い、壁に触れた者は「シャラ……」という音とともに弾き飛ばされる。

湖畔では、波の音が龍のような形を成し、水面から巨大な影が浮かび上がって暴れ回る。

湖の水が渦を巻き、近くの村の家々が音の結晶――星屑のように輝く青い塊で埋まり始める。

住人たちは家から逃げ出し、悲鳴を上げる。

「家が……鱗で埋まってる!?」

「逃げろー!」

異変解決班が動き出す。

霊夢、魔理沙、パチュリーの使い魔、河城にとりまでが集まり、調査を開始。

森を抜けようとすると、遠くから微かなギターの音が聞こえてくる。

――じゃーん……ぎゃり……。

そして、反響する小さな呟き。

「……誰も、見なくていい……誰も……」

魔理沙が耳を澄ます。

「この演奏……嘉音のギターだ。間違いないぜ。でも、なんか……悲しそう」

霊夢は拳を握りしめる。

「嘉音……何を抱えてるのよ」

異変はさらに広がり、幻想郷の空が少しずつ青黒く染まり始める。星屑のような粒子が、ぽつぽつと降り注ぎ始めた。


9章深海の絶唱 ~ 幻想郷、最後のフィナーレ


幻想郷は、もはや「幻想郷」ではなかった。

空は深海の底のように青黒く染まり、無数の星屑のような光の粒子が、雪のようにゆっくりと降り注ぐ。

地面は鱗の模様で覆われ、木々は音の結晶となって凍りつき、湖は静止した波の彫刻のように固まっている。

すべての音が、一点に吸い寄せられるように消えていく――嘉音の元へ。

博麗神社の境内、中央に立つ嘉音。

彼女の瞳は完全に深海の闇に沈みんでいた、

ギターを構えた両手は震えなく、ただ静かに、しかし確実に弦を弾く。

――じゃぁぁぁん……。

一音ごとに、世界が震える。

空から降る粒子が渦を巻き、彼女の周囲に巨大な影が次々と形を成す。

絶滅残響竜 ~ Abyssal Echo Coelacanth ~

複数頭の響竜が、咆哮を上げて実体化する。

鱗は星屑のように輝き、口から吐き出される息は無音の波動となって周囲を飲み込む。

龍たちは嘉音を守るように円陣を組み、幻想郷全体を「永遠の無音」へ導こうとする。

嘉音の声が、風に乗って、いや、すべての残響として響き渡る。

「……誰も、見なくていい……。

誰も、聞かなくていい……。

この音は、私だけの……

最後の……フィナーレ……」

禁唱「星屑竜の咆哮・絶唱」

ギターの弦が限界を超えて悲鳴を上げ、

世界の音がすべて嘉音の楽器に集束する。

龍たちの咆哮が重なり、一つの巨大な音の渦となる。

それは「無音」ではなく、「すべてを飲み込む究極の静寂」――

幻想郷を、永遠に沈黙させるラストスペル。

その時――

「はぁ……本当に、面倒くさいわね」

空を裂くように、紅白の巫女が舞い降りる。

博麗霊夢。

陰陽玉が最大出力で輝き、彼女の周囲に無数の結界が展開する。

「嘉音! 目を覚ましなさい!

アンタの音は、確かに美しい。でも……

それを独り占めにする権利なんて、誰にもないわよ!」

続いて、金色の箒が閃光のように飛来。

霧雨魔理沙が、箒から飛び降りながら叫ぶ。

「そうだぜ、嘉音ちゃん!

お前のギター、すげぇ迫力だったけどよ……

まだ終わらせねぇ!

俺たちの音も、混ぜてくれよ!!」

魔理沙のミニ八卦炉が最大出力。

マスタースパークが、漆黒の空を切り裂く巨大な光の柱となって響竜の一つに直撃。

爆音と光が炸裂し、龍の鱗が砕け散る。

霊夢は空中を滑るように移動し、陰陽玉を連射。

夢想天生が発動し、無数の光弾が雨のように降り注ぐ。

龍たちの咆哮が一瞬途切れ、嘉音の周囲に隙間が生まれる。

「嘉音……!

アンタがどんな過去を抱えてても、

どんなに古い音を背負ってても……

幻想郷は、独りで抱え込ませない!」

霊夢の言葉が、嘉音の耳に届く。

彼女の瞳が、わずかに揺らぐ。

深海の闇に、ほんの少し、夕陽の赤が混じる。

「……霊夢……さん……

魔理沙……さん……」

ギターの弦が、一瞬だけ止まる。

だが、すぐに再び鳴り響く――今度は、絶唱ではなく、

「誰かに届ける」ための音。

龍たちが暴れ、霊夢と魔理沙を押し返す。

空がさらに暗くなり、粒子が嵐のように吹き荒れる。

「まだ……終わらない……!

みんなの音が……聞こえるまで……!!」

クライマックスの頂点。

幻想郷の運命は、嘉音の最後の選択にかかっていた。


9章 深海の記憶 ~ 嘉音の過去


クライマックスの渦中。

巨大な響竜たちが咆哮を上げ、霊夢と魔理沙の弾幕を押し返す中、嘉音の唇がわずかに動く。

彼女の声は、風でもなく、音でもなく――ただ「残響」として、すべての人に届く。

「……聞いて……ください……

私の……本当の音を……」

ギターの弦が、ゆっくりと、優しく鳴り始める。

それは攻撃の音ではなく、ただ「語る」ための旋律。

幻想郷の空に、淡い青い光の粒子が広がり、過去の断片を映し出す。

遥か昔――数億年の彼方。

地球の海はまだ、生命の揺籃だった。

暗黒の深淵で、一匹のシーラカンスが、静かに息づいていた。

絶滅の波が何度も訪れ、周囲の仲間たちが次々と消えていく中、

その一匹だけが、奇跡的に生き延びた。

しかし、生き延びることは、呪いでもあった。

仲間を失い、孤独に海底を彷徨ううち、

シーラカンスの体は少しずつ変化した。

音に敏感になり、振動を「記憶」として刻み込むようになった。

失われた仲間の泳ぎの音、餌を求める咆哮、別れの波紋……

すべてを、永遠に胸に抱え込むために。

やがて、長い時を経て――

ある時、神秘的な力がそのシーラカンスに触れた。

幻想郷の「境界」の隙間から漏れた、異世界の魔力。

体は人間の少女の姿へと変わり、ギターという形を与えられた。

「古代魚のさざめき」と呼ばれるマジックアイテムは、

もはやただの鱗ではなく、失われた命の「残響」を奏でる楽器となった。

翡翠嘉音――それが与えられた名。

「翡翠」は深海の青い宝石のように輝く瞳を、

「嘉音」は「美しい音」を意味する。

しかし、美しい音は、同時に重い。

彼女は幻想郷に流れ着いた瞬間から、わかっていた。

この世界の豊かな魔力は、自分の内に眠る「絶滅の記憶」を呼び覚ますだろう、と。

だから、逃げた。

誰にも近づかないように。

誰にも自分の音を聞かせないように。

なぜなら、聞かせてしまえば……

その音は、相手の心にまで「絶滅の悲しみ」を刻み込んでしまうから。

「……私は、ただ……

みんなに、聞かせたくなかったの……

この、終わりの音を……

誰も、悲しまないでほしかった……」

嘉音の瞳から、一筋の涙が落ちる。

涙は光の粒子となり、空に溶けていく。

響竜たちの咆哮が、少しずつ弱まる。

ラストスペル「星屑竜の咆哮・絶唱」の勢いが、わずかに鈍る。

霊夢は空中で静かに立ち、嘉音を見つめる。

「……バカね。

そんなに一人で抱え込んで……

幻想郷は、そんな場所じゃないわよ」

魔理沙も、箒を握りしめながら叫ぶ。

「そうだぜ! お前の音、すげぇ綺麗だったじゃん!

悲しいだけじゃねぇ……

私たちにだって、ちゃんと届いてたんだよ!」

嘉音の指が、ギターの弦から離れる。

巨大な響竜たちが、ゆっくりと実体を失い始める。

星屑の粒子が、優しく降り注ぐ。

幻想郷の空が、わずかに元の青に戻りかける――。

しかし、その瞬間。

嘉音の体が、ふっと力を失う。

彼女は膝をつき、ギターを胸に抱いたまま、静かに倒れ込む。

「……ごめんね……

もう……私の音は……」

体が、淡い青い光の粒子に変わり始める。

まるで、深海に還るように。

ゆっくりと、ゆっくりと……

彼女の存在そのものが、音の残響となって消えようとしていた。

霊夢が駆け寄る。

「嘉音! 待ちなさい!」

魔理沙が叫ぶ。

「まだ終わってねぇだろ! 嘉音ちゃん!!」

光の粒子が、風に舞い上がり、

幻想郷の空に、最後のメロディーを残しながら……

翡翠嘉音は、静かに、仲間達の元へと向かおうとしていた。


最終章 永遠の残響 ~ 翡翠の旋律


幻想郷の空が、ゆっくりと元の青さを取り戻す中、

嘉音の体は、淡い青い光の粒子となって散り始めていた。

ギターが彼女の胸から滑り落ち、地面に静かに転がる。

弦はもう、振動しない。

ただ、風がそっと撫でるだけ。

霊夢は駆け寄り、嘉音の肩を抱き起こそうとする。

しかし、手は粒子をすり抜け、ただの光を掴むだけ。

「……嘉音! 待って……行かないで!」

霊夢の声が、初めて震える。

いつも面倒くさそうにため息をつく彼女の瞳に、涙が光る。

魔理沙は箒を投げ捨て、地面に膝をつく。

「嘉音ちゃん……! まだ話してねぇこと、いっぱいあるだろ!

お前のギター、もっと聞きたかったぜ……!」

彼女の声は、いつもの明るさを失い、ただの叫びとなる。

嘉音の粒子が、ゆっくりと空に舞い上がる。

彼女の最後の言葉が、残響として幻想郷に響く。

「……ありがとう……霊夢さん、魔理沙さん……みんな。

私の音……やっと、届いた……。

もう、孤独じゃない……。

これで……休める……」

粒子は星屑のように輝き、幻想郷の空を優しく覆う。

巨大な響竜たちの影が、穏やかな光となって消えていく。

深海の闇が、ついに解放された瞬間。

嘉音は、他界した。

シーラカンスの最後の生き残りが、長い孤独の旅を終え、

幻想郷の風に溶け込んだ。

霊夢は地面に座り込み、嘉音のギターを拾い上げる。

弦に触れると、微かな音が――ただ一度だけ、響く。

それは、悲しいメロディーではなく、優しい、感謝の調べ。

「バカ……。もっと、いてくれればよかったのに……」

霊夢の涙が、ギターに落ちる。

魔理沙は空を見上げ、拳を握りしめる。

「嘉音ちゃん……お前の音、忘れねぇよ。

これからも、幻想郷で響き続けるぜ……」

やがて、幻想郷の住民たちが集まってくる。

紫、パチュリー、レミリア、永琳……みんなが、静かに見守る。

空から降り注いだ星屑の粒子が、湖や森に溶け込み、

新しい命の音を芽吹かせる。

湖の波は穏やかに響き、森の葉ずれは優しいメロディーとなる。

嘉音の「音」は、幻想郷の一部となり、永遠に生き続ける。

博麗神社で、霊夢はギターを境内に置く。

時折、風が弦を弾き、翡翠嘉音の旋律を奏でる。

それは、彼女の遺産。

孤独だった深海の少女が、ようやく見つけた「みんなの音」。

幻想郷は、再び賑やかさをとり戻す。

だが、その空には、いつもより少し、青い輝きが残っていた。


最終章の後日譚 ~ 翡翠の遺産


嘉音が光の粒子となって幻想郷に還ってから、数ヶ月が経った。

彼女の「遺産」は、決して派手なものではなかった。

巨大な異変の痕跡はすぐに消え、湖の水は穏やかに流れ、森の木々は元の緑を取り戻した。

しかし、幻想郷のあちこちに、静かで、しかし確実に残った「何か」があった。

1. 音の記憶が染み込んだ風景

博麗神社の境内には、あのギターが置かれたままになっている。

霊夢は時折、弦を軽く爪弾く。

すると、風のない日でも微かなメロディーが響き、桜の花びらがゆっくりと舞う。

それは、嘉音が最後に奏でた「感謝の調べ」そのものだった。

里の子供たちは、遊び疲れて神社に寄ると、

「なんか、優しい音が聞こえるよ」

と笑いながら耳を澄ます。

大人たちは最初、不思議がったが、やがてそれを「嘉音さんの音」だと呼ぶようになった。

誰もが知らず知らずのうちに、心のどこかで「孤独じゃない」という感覚を抱くようになった。

2. 深海の残響が与えた癒し

湖畔では、波の音が以前より少しだけ優しくなった。

かつて暴れた龍のような波は、今は穏やかなさざ波となり、

水面に触れると、かすかに青い光の粒子が浮かぶ。

妖精たちはその粒子を「嘉音ちゃんの涙」だと呼び、

触れると少しだけ寂しさが和らぐという噂が広まった。

河童のにとりは、湖の底から拾った小さな鱗の欠片を研究し、

「これ、振動を記憶する素材なんだぜ……」

と、音を記録する新しい道具を作り始めた。

それは、幻想郷の未来の音楽家たちに、

「失われた音を残す」手段を与えることになる。

3. 響竜の影が守るもの

空に時折、星屑のような粒子が舞う夜がある。

そんな夜、幻想郷の境界近くで迷子になった旅人や妖怪は、

巨大な青い龍の幻影に導かれるという。

龍は決して攻撃せず、ただ静かに道を示し、

「誰も、見なくていい」ではなく

「見てもいいよ」という優しい風を吹かせる。

紫はそれを「嘉音の最後の守護」だと微笑みながら語った。

「彼女は、結局、みんなを独りにはしなかったのね」

4. みんなの心に残った旋律

レミリアは紅魔館のバルコニーで、夜空を見上げながら時折呟く。

「…あの音色、運命の糸を少しだけ優しく揺らしたわね」

パチュリーの図書館には、嘉音の音を再現しようとした魔法書が一冊増えた。

永琳は薬に「音の記憶」を取り入れる研究を始め、

「孤独を癒す薬」の基盤を作り上げた。

そして、魔理沙は自分の家で、

嘉音のギターの音を思い出しながら、

新しい魔法の実験をする。

「嘉音ちゃんの音、すげぇ綺麗だったよな……

俺も、いつかあんな風に、誰かに届く魔法を作ってみるぜ」

霊夢は、いつものように縁側でお茶を飲みながら、

風に運ばれてくる微かなメロディーを聞く。

「……バカね。

こんなに残るなんて、思ってなかったわよ」

彼女の口元には、ほんの少し、優しい笑みが浮かぶ。


自分のシーラカンス少女はどうでしたか?

この話しはこれで完結ですが違う話しをまた投稿します

お楽しみに・:*+.\(( °ω° ))/.:+

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