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彗星の時  作者: 燕兄さん
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飛竜

 人間を乗せた4羽の走鳥は、千切れ雲がいくつか浮かんでいる気持ちのいい晴天の下、ボス鳥を先頭にスピードを落とすことなく滑るように街道を進んでいた。一行が走っている街道の周りは、岩と砂の荒涼とした大地が広がり所々に岩山がこんもりと盛り上がっている。

 ケインとヤーコンがどうにか走鳥のスピードに慣れた頃、一行は国境の町ジアスまであと半日という位置までたどり着いていた。

 その時、一瞬4人の上を大きな影が横切った。

 雲の陰とも思われるようなものだったが、ヤーコンはなぜか不吉な感覚に捕われ手綱を握り締めながら上を向いた。と、その瞬間さらに濃い影が4人を覆い、その影から黒い手が伸びたかと思うとビーンが乗ったボス鳥をビーンごと丸ごと掴み、地上から奪い去った。

 ボスを見失った走鳥たちは、突然羽をばたつかせ、スピードを急激に緩めると、ボス鳥を探して辺りをきょろきょろとし、一箇所に固まって止まってしまった。

 ヤーコンは、止まった走鳥に跨ったまま黒い影を見上げ、口を半開きにしてつぶやいた。

「・・・な・なんだあれは・・・ま・さか、飛竜か・・」

 黒い影は、大きく羽ばたきながら近くの岩山に舞い降りた。

 その姿は、頭部には金色に輝く眼と鋭い牙が並んだ口、胴体には巨大な翼と長い尾、強靭な腕と足を備え、不気味な黒と赤のまだら模様をしている。ビーンとボス走鳥は長い爪が生えた両手に鷲づかみにされぐったりしていた。

「ヤーコン導師よ。走鳥使いがいなければもう進めまい。ここで引き返していただこうか」

 飛竜の頭の上には、杖を持ったサルサ導師が立っていた。飛竜と同じ模様の服装をしているため、ヤーコンはすぐには気が付かなかった。

「ビーンを殺したのか」

「いやいや、私は殺生は嫌いでの。それに走鳥も走鳥使いも貴重じゃからのぅ。もっともそなたらの出方次第では、なんとも言えん。この飛竜はデビル種という一番凶暴な種でな。抑えるのも一苦労じゃ」

 飛竜の眼は、両手に掴んだビーンと走鳥を獲物として見つめている。今にも食いつきそうな感じだ。ヤーコンは覇道を使ってなんとか切り抜けようと考えたが、魔人サルサと幻の魔獣である飛竜の取り合わせに対抗できる覇道を思いつくことができなかった。しかも覇道を完璧に発動させるための杖を、走鳥に乗るために背中に括りつけてあり、手に持っていない。魔人サルサ相手に中途半端な覇道では何の役にも立つまい。

 ヤーコンは半ばあきらめてケインたちを振り返った。しかし、ケインはヤーコンを見ずに「シャインさん・・」とつぶやきながら飛竜の方を見つめている。ヤーコンは「えっ」と思い、飛竜に再び視線を戻した。

 巨大な飛竜の足元の影にシャインがいた。いつの間に移動したのだろうか。しかも、サルサも飛竜もシャインの存在に気づいていないようだ。

 シャインは、飛竜の足元から飛び出し、大きくジャンプするとビーンと走鳥を握っている手に体当たりした。かなり強い衝撃なのか、不意をつかれたせいなのか、獲物が飛竜の手からこぼれ落ちた。シャインはビーンとボス鳥が落ちてくるタイミングが予め判っているかのように、一人と1羽を空中で肩に担ぎ、着地すると同時に走り出した。

「な、なんと・・」サルサ導師が目をむいた。

シャインのこの行動は、魔人サルサの想定を超えていたらしい。少しの間あっけにとられてシャイン達を見ていたが、すぐに「逃すな!」と飛竜に命令を下した。

飛竜は大きさに似合わない素早さで再び獲物を捕まえようとしたが、シャインは後ろに目が付いているかのように、捕まる寸前によけ続け、岩山の隙間に飛び込んだ。

 隙間は意外と深く、奥まで続いているので入り込んでしまえば、飛竜の爪は届かない。

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