走鳥
翌朝まだ暗いうち、三人は既に出発の準備が整っていた。三人とも魔導師の服装をし、昨日とは違った模様のたすきをかけ、頭には金色の細い輪をはめている。
ケインはその金輪が気になるのか、頭に被る角度を気にしながらヤーコンに聞いた。
「この輪は何なんですか」
「これはサルサ導師に察知されないよう気配を消すものです。この魔導師の服装と呪文を書いたたすきにもそれなりの効果はありますが、この金輪がしていればより安全なのです」
ヤーコンが説明していると、ジニーが寄ってきた。
「昨日はよくお休みになられましたか」
三人がうなずくと「ではこちらへどうぞ」と案内した。
ジニーに促され旅籠の裏に回ると、そこには空の酒樽が三個置いてあった。
「いきなり旅籠から走鳥が3羽も走り出したらかなり不自然ですし、町の門にはまだ『地の国』の兵たちがいると思いますので、一旦貨物用の馬車に紛れ込んで町を出ていただき、その後走鳥に乗り換えていただきます。ですので窮屈でしょうがこの樽に入って運ばせていただきます。よろしいですね」
「なるほど、いたし方ありませんな。そうとなればとにかく急ぎましょう」
ヤーコンは率先して空き樽に入り込んだ。
「おぉ、これは芳醇なヴァイン酒の樽だな。飲まなくても良い気分になりそうだ」
ヤーコンに続き、ケインとシャインも樽にすっぽりと収まると、蓋をされ旅籠の前に待っていた幌のついた馬車に積み込まれ出発した。幌の横には、大きくイノシシのマークと(早便)という文字が書いてある。急ぎの荷物を運ぶ貨物用の馬車の表示だ。
心配したとおり、開いたばかりの町の門には兵士が検問をかけていたが、酒樽の中身まではチェックされず、難なく町の外へ出ることができた。
朝日の中、街道をしばらく進むと馬車は止まった。御者が樽の中の三人に合図を送り蓋を開けた。
「大変失礼いたしました。ずいぶん揺れがひどかったでしょう。無事シアークの町を出ました。そこの岩陰に走鳥を用意してあります。それにお乗換えくださいませ」
3人は、馬車を降りると、御者に礼を言い岩陰に回った。馬車は何事もなかったかのように再び朝日の中を走り去っていった。
岩陰には、4羽の大きな鳥と一人の男がいた。男は、三人に向かって
「ご無事で何よりだで。オラは走鳥使いのビーンと申しますだ。国境の町ジアスまでお供するようジニー様に仰せつかっております。まずは、このマスクをお付けくだせぇ」
ビーンはそう言うと、三人に帽子のような物を渡した。被ってみると顔をお面のようなマスクで覆うことができるような造りになっており、眼の部分はガラス製で視認性が確保されている。
「走鳥はスピードが速いだで、これを着けんと眼も開けらんねぇだ」
ビーンはそう言うと、一番近くの走鳥の羽を愛おしそうになでた。
間近で見ると、走鳥は大きい。体高は2メートルを軽く超え、黒光りする胴体はまるで黒馬のようだ。だが、よく見ればその輝きは毛皮ではなく羽だと判る。その胴体を支えている2本の足はまるで丸太のようだが、足先は確かに鳥の足の形状をしていた。
「走鳥には乗ったことはなかでしょうが、馬はありやすか?」
ビーンがたずねると、ヤーコンが言った。
「私とケイン様は乗馬の経験はあるが、シャイン殿はどうかな」
シャインはちょっと首を傾げたが、そのまま横に振った。それを見たビーンは特に困る風でもなく言った。
「基本的に馬と同じような操り方だけんど、判らなくても別にかまわんよ。走鳥は馬と違って群れで行動するだで、群れのボスに付いて来るだよ。オラがボスに乗ってジアスまで案内するだで、あんたらは他の3羽に乗っていりゃあ何もせんと自然に運ばれるだぁ。まずはそっちのお子様から乗るだよ。手伝ってあげっから」
ビーンはそう言うと、ケインに近づき手近の走鳥に乗る手助けをはじめた。走鳥の背には羽の動きに邪魔にならないような場所に小型の鞍が乗せてあり、慣れないとかなり乗りづらい。それでも何とか三人を鞍上に押し上げたビーンは、最後に一番大きなボス鳥にヒョイとまたがり「では、いきますぞぃ、マスクをしっかりと被ってくだされ」と言うと、鐙に乗せた両足でボス鳥の胴を蹴った。
ボス鳥はビーンの足の合図に合わせ、いきなり走り出した。ビーンの言葉通り残りの三羽はケイン達が何もしないのにボス鳥の後を一直線に追い始めた。蹄鉄のない2本足で走る走鳥は上下左右の揺れが激しいため、ケイン達は振り落とされないよう必死で手綱にしがみついた。
しかし、ある程度走りスピードに乗ってくると、揺れが少なくなってきた。走鳥は黒光りする羽を横に水平に広げ始めた。体の大きさからすると自由に空を飛べるような大きさの翼ではないが、地表を滑空するという感じで飛躍的にスピードが増していく。あの丸太のような足が地面を蹴る回数は、走り始めよりかなり減ったが、逆に一蹴りごとにドンとスピードが増していく。その速度は馬の比ではない。
「うああぁ」
あまりの加速にケインとヤーコンはマスクを抑えて呻きながら手綱にかじりついていたが、シャインは何事もないように平然と乗っていた。




