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彗星の時  作者: 燕兄さん
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覇道と鬼道

 雨は、シャインたちを含め土くれ人形すべてに降り注ぎ始めた。よく見ると、その大粒の雨は、動きの止まった土くれ人形たちに甚大な被害を与えている。先程、シャインの手や短剣が素通りし何の効果もなかったガイコツ兵士は、雨粒がぶつかるとその分身体が削り取られ、まるで虫に食われた木の葉のようにぼろぼろになっていく。

 雨脚はどんどん強まっていき、どしゃぶり状態になった。土くれの兵士たちは、既に人型を維持できなくなり、小ぶりの土山となってしまった。やがてその山型さえも激しい雨に流され跡形もなく消えていった。

 その変化に見とれていたケインが言った。

「さすがヤーコン導師、雨を操る覇道は確か75番あたりのはず」

「覇道?75番?」

 ずぶ濡れになったシャインは、ケインに尋ねた。

「覇道とは、我が祖国、『天の国』が長年に渡って編み出してきた魔道で、全部で108番まであるとされています。でも普通の魔導師が使えるのは大体50番位までです。もっとも実際に108番すべて使える魔導師はいないそうです。魔導師の最高位である白大魔導師ジュンサイでさえ100番までしか使えないそうですから。ヤーコン導師は白大魔導師ジュンサイの一番弟子ですからナンバー2の実力の持ち主なんですよ。ちなみに私の覇道の講師でもあるんです」

「覇道・・」

 ヤーコンは、振りかざしていた杖を静かに下ろした。その動きに呼応するように、雨脚はたちまち止まり静かになった。

 しかし、ヤーコンは呪文を唱えることをやめず、再び杖を頭上に掲げ大きな気合とともに振り下ろした。

「カーッ」

 杖の動きに合わせ、まだ上空を覆っている黒い雨雲の中に白い稲光がピカッと光った次の瞬間、ものすごい爆音とともに、50mほど離れた場所にある岩が白い光とともに砕け散った。雷が落ちたのだ。落雷がまともに当たった岩は、もうもうと地煙りを上げている。

 その生けるものなどないはずの土煙の中に、人影が浮かんできた。フードを目深に被り杖を持ったその風貌は、ヤーコンの格好に似ているが、全体的なデザインが根本的に違うように見える。土煙の中から一歩踏み出したその男は、ヤーコンに向かって話しかけてきた。

「また腕を上げたのう、ヤーコン導師」

 ヤーコンは杖を降ろし、近づいてくる魔導師を見つめ返した。

「何を言われるサルサ導師。土くれの冥府兵士操術を使い、覇道82番の落雷の術をまともに受けて無傷でいられるなど、導師こそ人間を超えられましたかな」

「ふっ。何をとぼけたことを、冥府兵士操術など我が『地の国』の鬼道68番程度のもの、貴殿の雷術には足元にも及びませぬ。肝を冷やしましたぞ、危うく命を落とすところであった」

 サルサ導師と呼ばれた男は、深いフードの奥から響くような低音で受け答えた。

 ヤーコンは、そのフードの奥を見透かすかのように言った。

「お互い、手の内を知りつくしているのですから、無駄な争いはやめて我々を無事『天の国』へ帰れるようにはしていただけぬものですか」

 サルサは、フードごと頭を左右に振り、地の底から響くような低い声で反論する。

「できればわしもそうしたいところじゃが、そうも行かぬ。そこな王族のご子息には今しばらく我が『地の国』に滞在していただかなくてはならぬ。そのことは貴殿も重々承知しておろう」

 ヤーコンは、サルサの言葉を聴きながら、ケインたちのそばに近づいた。

「人間を超えているといえば、その男。いったい何者じゃ」

サルサは、ヤーコンが近づいていった二人、特にシャインの方を見ながら言った。

「とても人間には思えぬ・・・・が、さりとて魔道の波力も感じられぬ。そのような者見たこともない」

ヤーコンは、一瞬困った様な感じに少しだけ唇を歪めたが、すぐにニヤリと笑みに変えて言った。

「このお方は、われらの用心棒、未知の力を使いこなす超戦士なり。サルサ殿とて重々ご用心めされよ」

 サルサはしばらくシャインを見つめていたが、見ているだけでは埒が明かないと思ったようで、

「多勢に無勢じゃな。ここはひとまず退散するとしよう」

と言うと、手に持った杖を地面に刺すように突いた。杖の上先端には、ヤーコンのそれと同じように金属の輪が付いて、地面を突いた拍子に「シャリーン」という音が響いた。土くれの兵士が出てきた時と同じ響きだった。

 だが今度は、土くれ兵士が出てくる代わりに、サルサの姿が徐々に薄くなっていき、やがてすっかり消えてしまった。


「映身の術・・か」

ヤーコンはそう言いながら、サルサが消えた場所に行き、杖の先で地面を穿ってみると、黒光りする平らな石が出てきた。

「それは、、黒魔石ですね」

ケインが聞いた。

「そうです。『地の国』の鬼道でよく使われる石です。魔力を蓄える性質があるので、さまざまな術に使われます。サルサ導師はここにはいなかったようです。映身の術で、遠い場所からこの黒魔石を通して姿を表していただけですね」

ヤーコンはそう言うと、杖の先で黒魔石を突き割り、シャインたちを振り返った。

「サルサ導師が追っ手ということはかなりやっかいですね。先を急ぎましょう」

割れた黒魔石を見ながらケインが質問した。

「サルサとは何者なのですか」

「『地の国』の鬼道の達人ですが、表の世界にはあまりでてきませんのでケイン様もご存じないでしょう。しかし魔道の世界では闇の実力者、魔人とも言われるほどかなり有名です。その力は鬼道の第一人者ジゼル大導師に勝るとも劣らないとも言われています」

「そんなすごい魔導師が・・」

「ケイン様を襲い、シャイン殿が追い払ってくださった巨大ゾンデも、ヤツが仕掛けたとなれば納得がいきます。とにかく急ぎましょう」

ヤーコンは言い終わらないうちに、かなたに輝く町の灯り目指して歩き始めていた。


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