ガイコツ兵士
しばらく進むと、森の中を通っていた街道は、木々の中を抜け、見通しのよい荒涼とした平地に出た。
「ケイン様、どうやら、ザザーンの森を抜けアストラル平原に出たようです。あと少しで、オアシスの町シアークです。あの岩山を越せば、町の明かりが見えるはずです。」
「そうか。シアークにはあとどれくらいで着くのかな」
「そうですね。この調子ですと2時間ぐらいといったところでしょうか。」
先が見えてきた安心感からか、さっきまで無言だったヤーコンがシャインに話しかけてきた。
「ところでシャイン殿、あの黒い短剣はすばらしい切れ味ですな。光の剣はいかがなされた」
シャインは歩きながら答えた。
「ああ、あれは、超高振動型メダリューム鋼ナイフ。刃の振動力で物体の分子間結合力を解いて切っていくタイプの武器だ。光の剣、、ビームサーベルはエネルギーが切れてしまった」
「エ・エネルギー?・・つまりもう使えなくなったということですか」
「エネルギーパックを交換しないとだめだ」
「ほう、、戦鉄牛のこともご存知だったようですが、もしかして記憶が戻ったのではないですか」
シャインは、はっとして歩を止めヤーコンの顔を見返した。
「・・・確かに、戦鉄牛・・RX23タイプ万能型機甲歩兵のことを知っている・・・・だが・・自分のことが・・・判らない・・」
シャインの目は、ヤーコンを通り越し、遠くのほうを泳ぐように見つめている。
それを見たケインは、気を遣うように二人に声を掛けた。
「人間の記憶する仕組みって、そう単純じゃないって医術師の先生も言っていたよ。ものすごく複雑で不思議なことが多いそうだよ。だからそんなに気にしないで直るのをじっくり待ったほうがいいんじゃない?」
ケインの心遣いにヤーコンも頷いた。
「そうですな。気の病にはあせりは禁物と言いますからな。失礼つかまつった。ただ、何か思い出したら隠さずに言ってくだされ。少しでもお役に立てるかも知れませんからな」
ヤーコンは、ニッと笑いながらシャインの肩をポンとたたいた。
ヤーコンの言葉の裏には、記憶が戻った時のシャインがこのまま味方でいてくれるかどうか、この超戦士が敵に回ったら恐ろしいことになるという気持ちが隠されていたが、シャインはそんなことは全く気にせず再び歩き出した。
月明かりに照らされた街道は、思いのほか歩きやすかった。見通しの良い平原は、もし襲来者があってもかなり遠くから判別できるだろうし、戦いもしやすいだろう。それでも一行は、早く人気の多い町場にたどり着きたくて、踏み固められた街道の真ん中を足早に進んでいった。
あと少しで、町の明かりが見えるはずの低い岩山のふもとまでたどり着いた頃だった。
遠くの方から「シャリーン」という金属が触れ合うような音が聞こえ、一陣の風が吹いてきた。なんとなくかび臭いような感じがする。
三人は、何かいやな感覚に襲われ、急いでいた足を止め、周囲に気を配った。風は一度吹いたきりで、辺りは静けさを取り戻していたが、なにか違和感があった。
ヤーコンが何かの気配を感じ後ろを振り返った時、かなり近くで再び「シャリーン」という音が微かに響いた。
その時、硬く踏みしめられた街道のそばの荒地に変化があった。ボコッという土の音が聞こえたかと思うと、見る見るうちに荒土が盛り上がり、人のような形になった。
それは、全身が土くれで出来ており、ところどころ石や土の固まりが含まれていて、まるで年端の行かない子供が作った土人形のような型をしていた。
さらに、単なる土人形にもかかわらず、三人に向かってゆっくりと歩きはじめた。しかもその人型をした物は、あっという間に数十体出来上がり、両腕らしい物を前に上げ、まるでゾンビのように迫ってきた。
青白い月明かりの下で動く土くれ人形は、悪夢のように見える。シャインとヤーコンは、ケインを間に挟んで、ぐるりと取り囲んだ土くれ人形に対峙した。
一番近くまで迫った土くれ人形は、突然速度を上げケインに挑みかかった。シャインは、音もなくすっと土くれとケインの間に移動し、そのまま土くれ人形の頭と思われる部分に強烈なパンチを放った。ボッという鈍い音とともに土くれ人形の頭部は粉々に吹き飛んだが、土くれの動きは止まらない。両腕と思われる土の棒がシャインの肩を抑え、強引に押してくる。シャインはちょっと屈んでふくらはぎから黒い短剣を取り出し、襲ってきた土くれの胸の辺りに突き刺した。
石や砂利でできた胸に刺さった短剣は、キーンという高周波の音を響かせた。それとともに不気味な動きをしていた土くれ人形は、ピタッと動きを止め、胸に刺さった短剣を覗き込んだような姿勢をとった刹那、短剣を中心に見る見るうちに細かい砂になって霧散し跡形もなくいなくなってしまった。
シャインは、予想外の効果に黒い刃先を見つめている。だが、次の瞬間、土くれ人形が姿を消した同じ場所に、空中や地面から先程拡散したと思われる細かい砂が集まってきて、人型を形成し始めた。しかも、今度はデコボコした土砂の人形ではなく、きめの細かい砂でできた人間の形をしている。いや、人間ではない。鎧を着たガイコツだった。その砂のガイコツは、両手を挙げ再びシャインに迫ってきた。
勿論シャインは、黒い短剣を持ち直し、迫りくるガイコツ兵士に突き刺した。
ところが、今度はまったく手ごたえがない。高周波振動の黒い刃は砂の体をすり抜けていく。砂のガイコツはシャインの攻撃など全く意に関せず両腕を伸ばし、シャインの首に手をかけた。シャインはその手を払おうと空いている手でガイコツ兵士の腕をつかもうとしたが、短剣の時と同じように蜃気楼のごとく手ごたえがない。にもかかわらず、ガイコツ兵士が首を絞める握力は万力のようだ。
「こ、これは、、一体、、」
なす術がなくなったシャインは、なんとかガイコツの手から逃れようと場所を移動しようとしたが、首を押さえる力があまりにも強すぎてそれさえままならない。そんなシャインを見たガイコツ兵士は、目玉のない漆黒の穴があいた髑髏をうれしそうに歪めて、さらに手に力をこめていった。
その時、シャインの耳に「シャリーン」という金属が擦りあうような音が聞こえた。土くれの兵士が現れる前に聞こえた音とはちょっと違うようだが、同じ種類の音だった。
ガイコツ兵士は、その音が聞こえるとピタッと動きを止めた。シャインの首を締め付けているガイコツの指も固まっている。シャインは、その隙をついてなんとかガイコツ兵士の手を逃れて、後ろに飛び退いた。ガイコツ兵士は、まだ人形のように動かないまま突っ立ている。
シャインは、ケインとヤーコンが気になり周囲を見回した。ケインも土くれ人形に襲われていたらしいが、シャイン同様相手が動かなくなった隙に逃れられたようで、首を押さえてシャインのほうを見ている。
ヤーコンは、いつの間にかシャインたちからちょっと離れた荒地に立ち、杖を高く上げなにやら呪文を唱えていた。杖の先には金属製の輪が三本取り付けてあり、ヤーコンが呪文を唱えながら杖をゆすると、土人形の動きを止めた「シャリーン」という金属音が鳴り響いてくる。
ヤーコンは、呪文の語気を強め、杖を大きく2度振った。すると、先程まで明るい半月が浮かんでいた天空に、夜目でも判るほど真っ黒な雲が見る見るうちに広がってきた。
ヤーコンがさらに大きく杖を振りかざすと、ボツリ・ボツリと雨が降り始めた。雨粒が地面に当たる音が聞こえてくる程の大粒の雨だ。




