記憶
あっという間に、群集が何千人と集まり「ケイン大帝」「ばんざい」コールが響きはじめた。
「あれは、地上投影用超遠距離ホログラム・・。ということは、ケインは「イオノスⅢ」の操作権を獲得したということか・・・ん・・[イオノスⅢ]・・・」
シャインは、群集の叫びに応えているケインのホログラムを見ながら頭を抱えていた。
「・・[イオノスⅢ]・・なんだ・・俺はいったい・・・」
何かを思い出しそうな気がした時、シャインの頭の中にケインの声が響いた。
『シャインさん、聞こえますか。聞こえるのであれば、まだ超時空通信機能は損なわれていないようですね。では、今からメディカルプログラムを送信します。これが走れば記憶を含めた全ての機能が回復するはずです。エネルギー不足の部分は、王宮の『操りの間』に来てくれれば、チャージできますよ。じゃあ、プログラムを送りますね』
そう聞こえたとたん、まるで雷に打たれたような衝撃がシャインの身体を突き抜けた。
シャインの頭の中には、失われた部分の記憶がまるでピントを合わせた写真のように次々と鮮明に蘇っていく。
「そうか・・そうだったんだ」
(俺は、長い長い間、戦略軌道衛星[イオノスⅢ]のサイボーグ格納室で待機状態を維持していた。だが、あの日突然地上に発出され、気がついたらあの丘の上に立っていたのだ。通常は、発出される前にミッションプログラムがインストールされ、そのために行動するのだが今回は何もなく、通常装備を身につけたまま地上に移送された・・)明確になる記憶の波に呆然としているシャインの頭の中に、再びケインの声が響いてきた。
『そう、あなたは[イオノスⅢ]に残された「半有機サイボーグ」の最後の一人。他の仲間達は、もう何百年も前に発出されて地上で任務を果たし死んでいった。最後に残ったあなたも、本当は何らかの任務を背負って地上に降りてくるはずだったんだけど・・・あの彗星の大接近で衛星が誤作動を起こして何もないままあなたを発出してしまった・・・ではシャインさん、ミッションを送ります。それであなたは目的を持って動ける・・あなたの任務は・・僕の護衛をお願いします・・・そう、元々あなたはSP、要人警護用として作られている、適任のはずです・・・・いいですね。・・では・・ミッションプログラム転送・・』
シャインは天を仰ぎ見たまま、固まって動かなくなったが、頭の中には、新たな情報が滝のように流れ込んでいた。
しばらく経つとシャインは全ての疑問が解けたかのような晴れやかな表情で、群集の前で手を上げて応えているケインのホログラムを見つめていた。
が、突然、ケインの姿が幻のように掻き消えてしまった。
「おぉ。大帝はどうした。どこに行かれた」
群集の間にどよめきが起こった。
それを見たシャインは、険しい表情になり王宮に向かって駆け出した。
「なにっ。先発部隊の戦鉄牛が全部倒された?」
ジーザ王子が眼をむいた。
そこはつい先程確認作業が終わり、出撃できる体制が整った『砦』の司令室の中だった。
「はっ、先発部隊として出撃した10体の戦鉄牛のうち、1体は『天の国』の国境警備軍の総攻撃で倒されたようですが、残り9体は、王都に入ってすぐに、何やら光る槍のようなものが突き刺さりあっという間にやられてしまったとのことです」
若い兵士から報告を受けたジーザは部屋の中央にある大きな椅子に座り込んだ。
「うーむ。なんだそれは・・先発隊の戦鉄牛は、我が軍でも屈指の最強部隊。あの10体だけでも王宮を落とせると思っていたが・・」
腕を組んだジーザ王子の後ろから声が聞こえた。
「それは、例の黒い戦士の仕業か?」
声のする方を見て、ジーザは椅子から立ち上がった。
「父上、ようこそ『砦』へ、この『機械』はお嫌いではなかったのですか」
「ああ、このような地下深くで眠っていた超古代の悪魔などわしは好かん。じゃが、驚異的な戦力であることは違いない。。で、戦鉄牛を倒したのはあの黒尽くめの男なのか」
「いえ、そうではないようですが、なんらかの原因で一瞬のうちに、9体がやられてしまったとのこと・・」
「なんらかの原因?」
「はい、なにやら光る槍が突き刺さりあっという間に倒されたとか・・」
「光る槍とな、、ふむ、、」
「よもや、あの王族の小僧、ケインと天神の力が何か関係があるのでは・・」
「・・そうかも知れぬな。だが、今となっては引くことはできぬ。ジゼル大導師とサルサ導師に伝えよ。全ての飛竜と魔導師で戦鉄牛部隊の護衛に付くようにと。この機を逃してはならぬ。この『砦』はもう動けるのか?」
「はい、なんとか動くだけは・・」
「よし。それでかまわぬ。『砦』も含め全軍全速力で進撃するのじゃ」
「はい!解りました」
ジーザ王子は、振り返ると副官に向かって叫んだ。
「全軍に伝えよ。『地の国』全てを挙げて進撃せよ。目指すは『天の国』の王宮ぞ!」
王子は再び父王ガーゼルの方を向き、顔を高揚させながら言った。
「さあ、父上。この『砦』も動き出しますぞ。父上はお嫌いなようですが、古代の超兵器が再び地上に現れるのです」
ジーザ王子の合図と供に、アルテ洞窟の奥で眠っていた『砦』が轟音とともに動き出した。
小さな山ぐらいあろうかというその物体は、大きく広げられた洞窟の出口を目指してゆっくりと前進していった。




