イオノスⅣ
「こちらへどうぞ」
案内人は、部屋の中央にある椅子を指し示した。
ケインは、恐る恐る部屋に進み入り、示された椅子へ向かった。数歩進んで、目が薄明かりに慣れてきた頃、部屋の隅に小さなベッドがあり誰かが横たわっているのが見えた。
「あ、あれは!」
ケインはその横たわっている者の詳細が見えてくるにつれ、青ざめていった。
横たわっている者、それは死体だった。死んでからかなりの時間が経っているのか、生々しい死体ではなく、すっかりとミイラ化していた。
「あの方は、前のマスター、カール大帝です。この部屋でお亡くなりになりました」
「えっ、カール大帝・・あの800年前の・・」
確かに、よく見ると服装が金をあしらった豪奢なもので、頭には王が日常嵌めている細い金の王冠が光っており、死んでもなお、大帝の威厳が感じられる。
「はい、カール大帝は、798年前、このコントロールルームで心臓発作で倒れられ、メディカルマシンが対処しましたが、残念ながら亡くなられました。この部屋には、許された者しか入ることができません。それ以来、ここでお眠りになっておられます。できましたら、ケイン様がお戻りになる際、お連れください」
ホログラムとは思えないような真摯な表情で案内人はケインに依頼した。
「あ、はい。・・わが「天の国」を救ったといわれる偉大な王、私の先祖でもある大帝をこのままにしておくわけにはいきません。判りました。僕がお連れしましょう」
白い顔をしたケインは、小さいながらも王族としての勇気を振り絞って答えた。
「よろしくお願いします」
実体のないはずの案内人は、ケインに深々と頭を下げた。
「いかがですか、ケイン様。ご気分は大丈夫ですか」
頭の中に案内人の声が響いている。
「・・ああ、特に痛みもないし、大丈夫だと思うよ」
今、ケインは案内人に導かれた部屋の中央にある椅子に座って、メインAI[イオノスⅣ]との高レイヤ接続をしようとしていた。
ケインの頭には首から上がすっぽりと包み込まれる兜のような物が被せられ、その兜からは無数の線が延び、天井へと繋がっていた。
眼も耳も鼻もふさがれ、真っ暗闇で何も聞こえないはずのケインには、案内人の声だけが頼りだった。
「・・・では、今から[イオノスⅣ]との接続を開始します。接続が成功しますと、[イオノスⅣ]が所持しているデータが全て知識としてケイン様に流れます。さらに衛生軌道上にある戦略軌道衛星[イオノスⅢ]の操作アカウントが取得できます。それによりこの星の統治者としての資格を得ることとなります」
「え、何?、衛星?・・」
「[イオノスⅣ]と接続すれば全てが判ります。では、接続を開始します。初めてですので、気分が悪くなることがありますが、耐えられなくなった場合には、手元のボタンを押してください。緊急停止いたします」
次の瞬間、真っ暗だったケインの視界は、真っ青に輝きだした。
『ようこそ[イオノスⅣ]へ』
頭の中に案内人とは違う声が響いた。声、いや声ではなく思考そのものだった。
ケインは、空を飛んでいた。眼下には海や山が見えた。白い雲も見える。
『これが我々の星、「天の国」はここ、「地の国」はここ。今君はここにいる』
[イオノスⅣ]の思考が交差する度、景色が変わる。
『私は、この星「イオ362」を統治する機関、『イオノスセンター』のメインAIです。今からこの星の成り立ちと、統治する各機関、および現状の説明を行います』
ケインの頭の中に「データ」という思考が直接流れ込んできた。
『この星は、銀河連邦の端に位置し362番目に発見された『イオ』型惑星。銀河連邦とは・・・』
まるで聞いたことのない大量の思考が、直接脳に流れ込んできたケインは、意識が飛びそうになりながらも、なんとか持ちこたえ知識として蓄積していった。その知識とは、遠大な歴史から既に失われた科学技術など、普通に学習していたら一生かかっても習得できないような膨大な量だったが、直接脳に書き込まれるような不思議な感じで、まるで乾いた砂が水を吸い込むように記憶していった。
やがて、嵐のような思考の流入は落ち着いていった。時間にすればほんの数十分位だったのかもしれないが、『イオノスⅣ』との繋がりはケインを大きく変えたようだった。
今ケインに見えているのは、『天の国』の王都に迫る9頭の戦鉄牛だった。戦鉄牛は、剣や槍で立ち向かう天の国の兵士達をまるで虫でもつぶすかのように蹴散らしながら進んでいく。




