操りの間
「おお、お待ちしておりました」
大きな扉の前でジュンサイが共の者も連れず一人で立っていた。ケインが来るのを心待ちにしていたらしい。
そこは王宮の真ん中にそびえ立つ中央塔の最上階に位置する部屋、『操りの間』の前だった。カール大帝以来、誰も入っていないその部屋は、開かずの間として扱われ、近づく者さえほとんどいなかった。
廊下に面した『操りの間』の扉は、王宮の他の部屋と同じような豪奢な装飾が施されきらびやかなつくりになっていたが、他と違う点があった。扉の中央あたり、丁度人の頭の高さの部分がガラスでできており、中が見えるようになっている。
王族であるケインは、昔からこの扉の構造を知っていたが、何のためそのようになっているかは知らなかった。
ジュンサイは、懐から金色の鍵を取り出すと、目の前の巨大な扉の鍵穴に差し込んだ。扉はギギギッと腹に響く音とともに人が一人通れるぐらいまで開いた。
「さぁ、こちらです、ケイン様。お入りください。中に入りますと、もうひとつ扉がございます。『聖なる扉』と呼ばれております。その扉の前までは誰でも行くことができます。ですが、その『聖なる扉』をくぐることができるのが『選ばれし者』だけ、すなわちカール大帝以来誰もおりません」
不安げにケインが聞いた。
「本当に僕が入れるのかなぁ」
「『選ばれし者』の条件は、王族の男子で碧玉色の瞳を持つ者ということになっております。まさにケイン様は、この条件を満たしていらっしゃいます。自信を持ってお進みください」
ケインは、ジュンサイに促され扉の中に入ろうとして、もう一度聞いた。
「その先はどうしたらいいの?」
ジュンサイは、悲しいような、興味を掻き立てられるような複雑な目つきで言った。
「ここから先は、何が起こるか私にも判りません。何しろ800年前のカール大帝以来誰も入っていませんので・・伝説では、カール大帝は『神座』に座り力を得たとなっております。まずは『神座』をお探しください」
「・・わかりました」
大きくひとつ息を吐くと、意を決したように唇をきっと結んで、ケインは部屋の中に入っていった。
ケインが部屋の中を進んでいくと、最初の扉はひとりでに閉まっていき、誰も入れなくなった。ジュンサイとヤーコンは、固唾を呑んでガラス越しにケインを見つめていた。
「そうじゃ、その扉じゃ。そこまではわしも行けたのじゃが、その扉を開けることはできなんだ」
ちょっとびっくりしたようにヤーコンはジュンサイを見た。
「ジュンサイ様、入られたことがおありなのですか」
「うむ、代々白魔導師がこの『操りの間』の鍵を守ってきた。当然部屋の中で何が起きるのか知らねばならん。この部屋の隅々まで調べたが、あの『聖なる扉』を開けることはできなんだ。歴代の白魔導師も試したようだがの」
「そうなんですか・・」
天の国随一の能力を備えた白魔導師でさえ何ともできなかった『聖なる扉』を、いかに伝説どおりとはいえ、まだ子供のケインがどうするのか、ヤーコンには興味がふつふつと沸いてきた。
ケインは、言われたとおりに部屋を進んだ。王宮の豪奢さとは裏腹に、何の飾りもない白色の小さな四角い部屋だった。数メートル進むと、ジュンサイが言った『聖なる扉』があった。 その扉は、取っ手も模様もなく、銀色の無機質な光沢を放っていた。
ケインは、部屋の中を見回し、どうしたものかと思いながら扉の前に立った。
すると、銀色だった扉が段々と白く光りはじめ、眼を細めないと眩しくて直視できないくらいに輝いたかと思うと、いきなり元の銀色に戻っていた。その間ほんの数秒だったのだが、いつの間にかケインの目の前に一人の女が立っていた。




