見慣れないメイド
「ふー、疲れるなー」
ケインは、そう言いながらソファーに座り込んだ。
大広間で朝から執り行われていた「15歳誕生の儀」が終わり、やっとの思いで自室に引き上げてきたところだった。
様々な出来事が起きた旅の疲れがまだ抜けぬまま、予定通りに行われた儀式に強制的に参加しさせられ、若いケインでもさすがに疲れの色は隠せない。
深々とソファーに沈み込んでいるとドアをノックし入ってくる者がいた。
ヤーコンだった。
「いかがですかな。ケイン様」
「ああ、ヤーコン導師。丁度良いところへ。ちょっと疲れが取れる覇道を教えてくれませんか」
「ふふ・・大変でございますな」
そう言うとヤーコンは手に持った杖の先端をケインの方に向け、クルリと回すとぶつぶつ小声で呪文を唱えた。
「どうでしょう」
「ああ、なんか身体が軽くなったような気がします。ありがとうございます。やっぱり覇道はすごいなぁ。これって何番くらいなんですか」
「これは、ケイン殿でもご存知のはず。基本中の基本、覇道3番、相手に気を送るというやつですよ。肉体も魂も元気になります。世の中には様々な力があるのです。ですが、全ての力の根源は、大自然の森羅万象の力、宇宙の力が全ての基になっているのです」
「ふーん、するとあの戦鉄牛もそうなのかな」
「確かに、あの超古代の化物は違うような気もしますが、この世に存在しているということは、やはり基は同じだと思いますね」
「あれ、ところでシャインさんはどこに行ったの」
「我々の命の恩人ですから粗末には扱ってないはずです。とりあえず客間にいるはずですが」
「これからどうするのかな」
「あれだけの戦士ですから、ぜひ身近にいてほしいところですが、記憶が戻った時どうなるか不安なところはあります」
その時、ドアがノックされ外から女性の声が聞こえてきた。
「お飲み物をお持ちしました」
「どうぞ」
ケインは気軽に返事をしメイドを招き入れたが、ヤーコンの脳裏に一瞬不安がよぎった。
(いつもの小姓じゃないのか)
入ってきたのはメイドの格好をした少女が一人で、トレーにガラスのデキャンターとグラスを載せて持っていた。
「失礼します。ケイン様」
「ああ、あれ、君見かけない子だね」
近づくメイドを見てケインが尋ねた。
不安が大きくなったヤーコンは、メイドとケインの間に入り、さりげなくメイドの接近を防ごうとした。
「後は、私がやるから下がってよい」
ヤーコンが、メイドからトレーを受け取ろうと手を伸ばすと、メイドは大きな眼をヤーコンに向けて言った。
「いえ・私が・・」
言い終わる前に、メイドの周りに小さな稲妻が光ると、瞬く間にメイドの姿が消え失せた。
次の瞬間ケインの目の前の空中に「パリパリ」と小さな稲光が起きると、その場所に銀色の人型の物体が突然現れた。
人の形はしているものの、全身銀色でのっぺりしており、顔の辺りには丸い穴が二つ開いているだけ、腕も手がなく代わりに刀のようなものが光っている。
その顔の眼と思われる二つの穴が赤く光り、ケインの方を見つめると、刀の腕を大きく振り下ろした。
「!!!」
一瞬の出来事で、ヤーコンもケインも身じろぎもできず、防ぐこともできなかった。
銀色の人型が振り下ろした刀は、確実にケインを切り裂くと思われた寸前、軌道が大きくはずれケインが座っているソファーに深々と突き刺さった。




