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彗星の時  作者: 燕兄さん
12/21

ヤミ

「さて・・」

改めて大帝はサルサに視線を戻し言った。

「サルサ師よ。そなたは天神の力をどう見るか。ジーザにはああ言ったものの800年昔のカール大公が使ったとされる天下を治める力とは、何なのだ」

サルサ導師の表情は目深にかぶったフードのため表情は読み取れないが、しばらく考えた後低い声で答えた。

「・・・本当のところは誰も判りませぬ。800年前の伝説が事実なのか、また真実だったとしてもその後800年間発動しなかった力がまた使えるのか。この世に判る者はいないでしょう」

「ふむ。確かに・・」

「ただ、この度、気になることがございます」

「何だ?」

「はい、ケインの供についていた一人の男のことでございます。その男、黒尽くめの服装の戦士のようですが、たった一人で戦鉄牛を倒し操縦者を引きずり出したのでございます」

「おぉ、その話か。戦鉄牛が1体倒された話じゃな。わしも聞いておる。だがそれは戦鉄牛が突然故障し動けなくなったところに、お主と同じ位の力を持った『天の国』の魔導師が究極秘儀を使ったため倒されたと報告を受けているが・・」

「はい、それは我らが『地の国』の強さの象徴でもある戦鉄牛の絶対的無敵力に傷をつけないために私が指示したものです。実際にはその男が見たこともない武器で一撃のもと戦鉄牛を倒したのでございます。戦鉄牛と魔道は相容れないもの、私と言えど戦鉄牛は倒せませんが、その男はいとも簡単に行ったのでございます」

「ふーむ。何者じゃ、そやつは」

「・・・・もしや、戦鉄牛と同じような古代の武器を操る者か・・・」

決定的な答えが出ないまましばらく沈黙の時が過ぎ、王は再び口を開いた。

「サルサよ。『ヤミ』はまだ使えるのか」

「『ヤミ』でございますか・・。先の『海の国』との戦の際にかなり使われましたゆえ、ほとんど力が残っておりませぬが、、はたしてできるかどうか」

「相手が戦鉄牛をも凌ぐ武器を使うとなれば他に手はあるまい。『ヤミ』が最後になってもかまわぬ。ケインとその男、確実に仕留めるのじゃ。よいな。即刻手配せよ。」

「・・御意」

サルサはそう言うと国王執務室を後にした。その表情は目深に被ったフードのため読み取ることはできないが、いつもよりさらに暗い雰囲気を醸し出していた。



 一時間後、サルサは『地の国』の王宮の地下深くにある部屋の前に立っていた。その部屋に辿り着くには幾つもの厳重な扉と魔道で封印された門を通らなければならないため、サルサ以外の者は入ることができない秘密の部屋だった。

「あの戦以来、10年ぶりかの。できればこのままそっとして置きたかったがのう。仕方あるまい」

 サルサはそう呟くと扉の前に立った。扉の上にある小さな丸い光源から細い光線が照射されサルサの全身に当たった。

「ようこそ。サルサ殿」

 どこからともなく声が聞こえてくると同時に扉がゆっくりと開いた。

 サルサは何も答えず、無言で部屋に入っていった。

 サルサが入っていくと、それまで真っ暗だった部屋の中が、壁自体がうっすらと光り、ぼやけた感じで全体が見渡せた。

「久しぶりじゃな。『ヤミ使い』よ」

 部屋の中心部には人が一人入れるくらいの透明な円柱状の容器が立っており、その中には、今までの部屋の暗さが凝縮されているかのようなガス状の暗闇が漂っていた。

 サルサは、その円柱の近くに立っている丸い玉の付いたポールの傍まで進んだ。

「はい、前回の訪問より9年10ヶ月15日23分経過しています」

容器の中の暗闇から声が聞こえてきた。

「『ヤミ』の具合はどうじゃ」

「エネルギー残量は0.002%ですので、このままの状態であれば、およそ96.25年間起動していることが可能です」

「そうか。今いちど仕事を頼みたいのじゃが、できるかのう」

「ミッションの内容によります」

「ふむ。そうじゃのう」

 サルサはそう言うと、傍らにあるポールの先端の丸い玉に手を置いて何かを念じ始めた。

 しばらく経つと透明なケースの中の暗闇がグルグルと回り始め、闇の中に小さな点が二つ光り、やがて二人の顔が浮かび上がった。

「今回のミッションは、この二人の人間の暗殺、期限は一週間以内、でよろしいですか」

かなり疲れたのか、玉から手をはずしたサルサは肩で息をしながら頷いた。

「ああ、今は『天の国』の王宮にいるはずじゃ。どうじゃできそうか」

「暗殺であれば、オプションシステムの起動が必要になります。ターゲットの所在地、累積データによる活動パターンから消費エネルギーを計算しますと、現在のエネルギー残高であれば98%の確率で可能と推測されますが、本ミッション終了後は全機能が停止し再起動不能となります」

「つまり、できるということか」

「・・はい、表現的には『ほぼ間違いなくできるが、これが最後の仕事』ということになります」

「そうか、、、ではすまないが早速取り掛かってくれ」

「了解いたしました。ではシステムを起動いたします。後ろの黄色い線までお下がりください」

 サルサが黄色線まで下がると同時に微かな低いうなり音が部屋中に響き渡り、透明なケースが真ん中から上下に割れ、天井と床に吸い込まれていった。


 残ったのは黒い霧状の塊で、ケースが無くなっても拡散したりせず、部屋の中央に固まっていた。

「では、ミッションを開始します」

そういう声が流れると、黒い霧の塊の周りに、小さな紫色の稲光が無数に走り始めた。

やがて稲光はパリパリという小さな立て始め、突然表れた白い大きな光玉が霧の塊を包み込み、次の瞬間、跡形もなく消えてしまった。

 それと同時に、今まで薄ぼんやりと光っていた壁の明かりも消え、全くの暗闇になった。

「ふむ、とうとうここも最後か・・・」

 サルサは、そう言いながら杖を振った。すると杖の先端が青白く光り、動くものが全く無くなった部屋を照らしだしていた。


 

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