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転生したら悪役継母でした  作者: 入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆


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6 王太子の提案

「ウィリアム王太子殿下、ご挨拶が遅れました。お招きいただき、光栄に存じます」


「ははは、そんなにかしこまらないでください。むしろ私の方こそ、予定が立て込んでいてご挨拶が遅れてしまいました」


「お忙しいご様子ですね」


「ええ。今夜も大司教猊下との会談が控えています」


 大司教――ロフェシオン帝国の三大派閥の、中心人物のひとりだ。


 この国では帝務の女帝派、魔術の公爵派、信仰の大司教派が、微妙な均衡を保っている。


「忙しい合間でも、アルージュ様の絵画に癒されていましたよ」


「拙いものですが……そうおっしゃっていただけるなら嬉しいです」


「謙虚ですね。あの斬新さは、今までに見たことがありません。来訪者の中には、ぜひ『アルージュ画伯』のパトロンになりたいと申し出る方もいるほどですよ」


 ……が、画伯?


 変な汗が出るけど、パトロンの申し出はありがたい。

 お金はあっても困るものじゃないし。


 ただ、気になるのは大司教だ。

 小説では、彼はすでに大聖女の啓示――紫髪の幼子が凶獣を呼ぶ――を知っていた。


 大司教がエトワールの紫髪に目をつけたら、普通の貴族では太刀打ちできない。


「ご興味があれば、私が仲介しましょう。ただ……もしアルージュ様が望むのであれば、我が王国へお招きしたいと考えています。ルシールもきっと喜びます」


(まさか隣国の王太子殿下から、パトロンの申し込み!?)


 彼の庇護があれば、大司教に対抗できる。

 でも……凶獣を呼ぶほどの魔力を持つ子が、隣国に渡ったと知られたら?


 大司教だけじゃない。

 帝国のために人生を捧げる女帝が、国宝級の才能を黙って見過ごすとは思えない。


 ルシールと王太子を、そんな争いに巻き込みたくなかった。


「お心遣い、ありがとうございます。エトワールのこともありますので、少し考えさせてください」


 今のところ、『エトワールが魔力暴走を起こして凶獣を呼び、私が真っ先に死ぬ』……そんな原作展開は、起こる気配もない。

 でも、その力の存在が啓示で示されている以上、警戒されるのは時間の問題だ。


 しかも私の絵は注目を浴びている。

 ルシールには「おもちゃの出現現象については、誰にも言わないで」とお願いしてるけど、このまま隠し通すのは無理だろう。


(……お腹すいたな)


 前世の記憶を取り戻してから、あの世界の食事が恋しくなる。


 肉じゃがとか、カレーとか。

 塩以外の味付けで食べたの、いつだっけ……


 そんなことを考えながら、遊び疲れたエトワールを寝かしつけた部屋に、ルシールが息を切らせてやってきた。


「アルージュ! あの三大派閥の……ロブロフォン公爵が、あなたに会いたいって!」


(……なんですと!?)


 ――リュノール・ロブロフォン。


 この国の三大派閥のひとつを率いる、最強の魔術師。

 小説では危険な実の駆除任務に奔走し、人前に姿を見せることは滅多にない。


 そんな珍獣……いや、公爵が、なぜ私に?


 やっぱり、『紫髪の子が凶獣を呼ぶ』啓示の件?

 それとも、悪喰の私を処分するため?

 ……できれば、「絵のパトロンになります」の線であってほしい。


 でも、これってチャンスでもある。


 せっかく三大派閥の一角、それもレアキャラから直々に声がかかったのだ。

 最強魔術師の庇護を受けられたら、これ以上の条件はない。


(よし、腹をくくった! 見せてやるわ、前世の妄想で磨いた原作改変力!)

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