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転生したら悪役継母でした  作者: 入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆


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4 迎賓城での歓迎

「アルージュ、会いたかったわ!」


 上質な珊瑚色のドレスをまとった女性が、迎賓城の階段を駆け下りてくる。

 王太子妃である彼女に淑女の礼を取ろうとした瞬間、彼女は周囲の視線も気にせず私を抱きしめた。

 赤髪になった私を、昔と変わらない笑顔で迎えてくれる。


「お久しぶりです、ルシール王太子妃殿下」


「そんな話し方、しなくていいわよ。今日は親友として招いたのよ」


「……ありがとう」


 隣国の王太子妃の招待。

 ここなら、エトワールと穏やかに過ごせる。


「あら……かわいらしい子ね」


 ルシールは私と手を繋いだ幼子に目を細める。

 彼女が王太子妃教育のために隣国へ渡り、会ったのはそれ以来だった。


「私の子、エトワールよ。エト、ご挨拶できる?」


「あいっ! エトは、エトワールでしゅ」


 エトワールはルシールに向き合って丁寧にお辞儀をすると、すぐに私を見上げてにっこり笑った。


「おねぇしゃんは、エトのおかぁしゃまでしゅ!」


 私が母になってから、エトワールは嬉しくて仕方がないらしく、会った人にこうして紹介してくれる。


「まぁ! 大好きなお母様を紹介してくれたのね、ありがとう」


 ルシールに案内され、私とエトワールは温かな夕食を囲む。

 王太子は帝国滞在中の政務に追われており、今は女帝と会談中らしい。


「アルージュが返事をくれて、本当に嬉しかったわ。あなたさえよければ、ここでゆっくりしてね」


「ありがとう。それに……これまで何も連絡していなくて、ごめんなさい。結婚式にも行けなくて」


「気にしないで。事情があったのでしょう?」


 私が悪喰と蔑まれるようになっても、ルシールは変わらず、私のことを信じてくれる。

 その優しさが嬉しい。


 夕食を終えるころ、エトワールはうとうとし始めた。

 客間に案内してもらい寝かせると、小さな指が私の袖をぎゅっと掴んだまま離さない。

 その様子にルシールが微笑み、私たちはそばの椅子に腰を下ろした。


「アルージュとゆっくり話すのは、学院以来ね」


「びっくりしたでしょう? 私が赤髪に……悪喰になっていたから」


「全然怖くないわ。手紙で説明してくれた通り、魔力が奪われる感じもないし。怖いのは、そのことを知ろうともせず、意地悪をする人たちよ」


 ルシールは学院時代、隣国の王太子に見初められて、王太子妃候補となった。

 その幸運を妬んだ令嬢たちが、彼女を蹴落とそうと嫌がらせをはじめたのだ。


「私、今でも覚えてるわ。アルージュが『未来の王太子妃を虐めるなんて、人生詰みたいの?』って凄んでくれたこと」


「そんなこともあったわね」


 私は破り捨てられた教科書など、いじめの証拠を王太子に送った。

 すでにルシールに惚れ込んでいた彼は激怒し、嫌がらせをした令嬢たちを婚約者候補から外し、交流を断絶した。


「アルージュの手紙に『詳しくは会って話したい』って書いてあったけど……子供を授かっていたなんてね。紫の髪なんて、ラウルド様にそっくり」


「……実はね」


 エトワールは孤児院から迎えたこと。

 ラウルドと離縁したこと。


 私はこれまでについて、ルシールに話した。


 きっと驚いたはずだ。

 それでも彼女は私の話をすべて聞いて、はっきりと言った。


「つまり、ラウルドは最低で、あなたは最高のママってことね!」


 ルシールの言葉に、張り詰めていた心がふっと緩む。


「……ありがとう」


「アルージュ、本当によく耐えてきたわね。これからは私を頼ってちょうだい。色々あって疲れたでしょう? 今夜はゆっくり休んで」


 ルシールの言葉に甘えて、私はエトワールと同じ寝台に身を滑り込ませた。


(明日、何をしようかな)


 移動続きだったから、エトワールと一緒に遊んだら喜ぶかもしれない。


「おかぁしゃま……」


 寝言とともに、小さな手が私を抱きしめてくる。

 その温もりに身体の力が抜けて、ほっと息をつく。

 今夜はよく眠れそうだ。


 そんな予感の中――


 ふと、寝台のまわりが淡く光を放ち始めた。

 すやすや眠るエトワールの胸から、虹色に輝く幾何学紋様が広がっていく。


 この現象、どこかで読んだことがある気がする……


   ◇


 翌朝。

 カーテンの隙間から、やわらかな朝日がこぼれている。

 寝台の中でエトワールがもぞもぞ動き、明るい声をあげる。


「わぁ! おかあしゃま、みてっ! これ、なぁに?」


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