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転生したら悪役継母でした  作者: 入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆


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42 告白

   ◇


 身体の奥で荒れていた魔力が鎮まり、代わりに温かさが広がっていく。

 この心地よさを、私は知っている。

 そう気づいた瞬間、意識がふわりと浮かび上がった。


(ここ……どこ?)


 私の身体を包み込む、ふかふかのベッド。


(そうだ。啓示の儀の後、魔力暴走を起こしかけたまま気を失って……)


 ふと、安らかな寝息が私の耳をくすぐる。

 すぐそばに人の気配を感じて、視線をそっと隣に向ける。


 至近距離に、麗しく整った公爵の寝顔があった。


(美貌が近すぎるわっ!)


 反射的に身を引こうとした。

 けれど逃れるどころか、彼の引き締まった腕にさらに強く抱き寄せられた。


(ちがう、ちがう、ちがう!)


 声を出すことも忘れてもがいていると、公爵はまぶたをそっと開けた。


「……起きたか。無理をするな。お前は俺の腕の中で寝ていればいい」


 しかし、それどころではない。


「なんで上半身裸なんですか!」


「俺の体に魔術を刻んでいる。お前に触れるのに服は邪魔だ」


(言い方ってものがあるでしょうが!!)


「治癒を早めるには、これからすべて――」


「脱がなくていいです」


(どこまで過保護を極める気……!)


 こちらの動揺など意に介さず、公爵はくつろいだ様子で私を見つめる。


「それなら、お前の魔力が安定するまでは、こうしていないといけない」


 公爵は許可をもらったかのように、私を抱きしめ直してきた。

 視線を落とすと、彼の上半身には緻密な魔術紋が描かれている。


「体は楽になったか?」


「……はい」


 確かに、倒れたときに感じた魔力の圧迫感は、嘘のように消えていた。


「まさか旦那様、私の魔力を引き受けるために、一晩中こうして……?」


「皆を救えても、アルージュが壊れるなら意味はない。それだけは、最初から変わらない」


 胸の奥が、ちくりと痛んだ。

 私が倒れたときの彼の思いに、気づいていなかった。


「ごめんなさい。心配、かけました……」


「そんな風に、ひとりで抱えこまなくていい。次は俺が助ける番だ」


 温かい手が伸びてきて、私の掌をすっぽりと包み込む。


「男爵領の時だけではない。悪喰になる前……獣化するほど苦しんでいた俺を、ずっと介抱してくれただろう」


「あれは、私自身のためでもありました」


 癒したのは、死にかけていた黒獣だけではなかった。

 養父を失って空っぽになっていた、私の心だったのだ。


 大きな手のひらが、私の頭をそっと撫でる。


「あの日からずっと、お前を忘れられなかった。これからは俺がお前を癒す」


「もう平気です。これ以上私の魔力を取り込んだら、旦那様の方が……」


「妻を抱くのは、夫の特権だろう?」


「で、でももともと、監視のための結婚だったはずで……!」


「ああ。お前を他の男に近づけないための監視だ」


「な……」


「これで遠慮なく、かわいい妻を独り占めできる」


 その瞳に迷いはない。ただ真っ直ぐに、私だけを見ていた。


「アルージュ、愛している」


 一片の曇りもない告白。

 それに対する返事のように、私の頬があっという間に熱を帯びる。


 隠しようもないその反応に、公爵はどこか愉しそうに微笑んだ。


「そういえば。まだ一度しか、俺の名前を呼んでもらっていないな」


「……え?」


「今、呼んでほしい」


 囁きとともに、彼の微笑みがゆっくりと近づいてくる。


 こうして私は一日中、彼の腕の中でとろけるほど甘やかされることになった。


   ◇


 三日後。

 私は大聖堂の聖務室を訪ねていた。


 大聖女の今後について新たな提案を伝えると、大司教は穏やかな笑みを浮かべてうなずく。


「すぐに早馬を出そう」


 大司教はあっという間に書状の手配を終える。

 それから私と向かい合い、ソファに腰を下ろした。


「アルージュ、改めて礼を言おう。大聖堂の甘味が好評でな。一流の魔術師たちまで列を作るようになった」


 先日の啓示の儀で、来場者の人々の魔力が一時的に増えた。

 あれは、召喚された異界の食材に、聖具の羽ペンの祝福が宿るためだった。


 ただ、エトワールのように潜在魔力が多すぎる場合は、身体に負担がかかってしまう。

 そのため大聖堂支店の軽食は、魔力鑑定を終えた者だけが購入できる仕組みになっている。


(魔力が反応する、食物アレルギーみたいなものよね!)


 扱い方さえ間違えなければ、祝福を宿した食材は危険ではなく、美味しい恵みになる。


 そんなこともわかったばかりだし、この世界のスイーツ事情は、まだまだ伸び代だらけだ。


(ガラケーからスマホに進化したけど、アプリや機能は全然足りない、って感じだもの!)


 さらなるスイーツ革命のために、まずは不満と要望の把握を始めている。


「そういえば、支店の脇に設置した目安箱とやらに、何か反応はあったか?」


「はい。魔術師の方々からは『魔力の制御より、胃袋の制御の方が難しい』と……」


「やはり……アルージュの甘味は、魔術よりも信仰よりも強い力を持つようだな」


 抹茶パフェをすくい、真顔で頬張る大司教。

 本気なのか冗談なのかわからないその表情に、思わず吹き出しそうになった。


   ◇


 その後。

 罪を犯した二人には、それぞれ相応の裁きが下された。


 ラウルドは悪質な無断侵入、危険な改造魔充具に関与した罪を問われ、帝国本土から永久追放となった。

 現在は過酷な鉱山で、罪を償っているという。


 コルヴォンは逃亡中に積み重ねてきた罪と、今回の大聖堂内での蛮行により、極刑に処された。

 ヴィオレッタの記憶から自分の存在が消えた彼は、静かに裁きを受け入れたそうだ。


(ようやく、彼らは私の中で、「過去」になったのかもしれない)


 明け方。

 いつもより早く目が覚め、私は寝室の窓を開けた。

 夜の名残が薄れ、空は少しずつ朝焼けの色へ変わっていく。


(これからの私に――彼らとの物語は、もう要らない)


 それでいいと思えた。


   ◇


 雲ひとつない、穏やかなその日。

 大聖堂の前庭には、大司教をはじめとする聖職者たちが集い、皇族の馬車を待っていた。

 エトワールと大聖女は、澄んだ朝の空気を胸いっぱいに吸い込み、声を弾ませた。


「おひさまが、ここちよいですわ!」


「ぽかぽかちてるの!」


 やがて、皇族の紋章を刻んだ馬車が滑り込むようにやってきて、静かに止まった。



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