40 奇跡の空
◇
その後。
自らの落雷で倒れたコルヴォンは、無事に拘束された。
私はようやく胸を撫で下ろし、広間へと急いだ。
公爵はまだラウルドの護送中だろうけれど、啓示の儀は終盤を迎えているはずだ。
(なにかしら。魔力の気配がじわじわ増しているような……)
広間の扉を開いた瞬間、どっと歓声が押し寄せてくる。
儀の終わりを告げる、大司教の聖典朗誦に盛り上がっているのではなく――
それどころか大司教まで、参列者たちと同じように、そろって窓の外を見上げている。
「おかぁしゃま、しゅごいのっ! みて!」
駆け寄ってきたエトワールに手を引かれ、窓辺まで連れて行かれる。
見上げる青空を、大きな白い雲がゆっくりと滑っていく。
サンタがトナカイの引くソリに乗っているかのような形だ。
(さっき羽ペンで描いた空模様、完璧に再現できてるわ!)
エトワールはそのサンタ雲に向かって、ぺこりと頭を下げた。
「サンタしゃん。レオしゃまのたからもの、とどけてくれて、ありがとでしゅ!」
まるでその声が届いたかのように、サンタ雲がふわりと手を振る。
エトワールが笑っている。
それだけで、全部報われた気がする。
繋いでいた小さな手が、私の手をぎゅっと握る。
「おかぁしゃま……あのね。エト、おなかいっぱいって、なってきたの」
エトワールは両手でお腹を押さえる。
私はその上に、そっと掌を重ねる。
「おなかいっぱいなの?」
「あい。ぽかぽかって」
悪喰の感覚で探ると、違和感の正体はすぐに分かった。
エトワールの魔力、それに周囲にいる人の魔力までもが、じわじわと高まっている。
(広間の魔力の気配が増していく感じは、これだったのね)
私も食後に魔力が貯められる体質が変化していた。
他の人たちの魔力にも、なんらかの影響があったのかもしれない。
でも、エトワールだけは特別だった。
小さな身体に秘めた膨大な魔力が、内側から急激に膨れ上がっていく。
(今は「おなかいっぱい」で済んでいる。でも、このままだと……)
公爵の後継に選ばれるだけの資質を持っている証拠。
けれど、子供の身体には大きすぎる。
「エトのおなか、ぽんぽんよ。サンタしゃんクッキー、あしたになっちゃう」
考えるより先に体が動いていた。
私はエトワールをぎゅっと抱きしめる。
(私が、この子を守るのよ!)
悪喰でそっとエトワールの魔力に触れる。
奪うわけでも、抑え込むわけでもなく。
奔流のように溢れるそれを、ただ受け止めていく。
大聖堂に満ちた静寂の中、私の足元が輝く。
そこに強い光が集まると、一気に弾ける。
床いっぱいに広がったのは、巨大な魔術陣だ。
高い天井に、大聖女の明るい声が響く。
「これが『しょうかん』ですのね!」
魔術陣から飛び出したのは、巨大なクリスマスツリー。続いてプレゼント箱。
さらに、ぴょこんと飛び出すリース、キャンドル、キラキラ輝く飾り――
人々が歓声を上げる中、大聖堂の床はみるみるうちに埋め尽くされていく。
まるで盛大なクリスマスパーティーのようだった。
けれど、それだけ召喚で魔力を使っても、エトワールの魔力は尽きない。
魔術陣からは次々と品が現れ続け――
そのとき、ひときわ強い虹色の光が弾けた。
(なにこれ……あっ!)
光は天井へと昇り、人々の視線が一斉に釘付けになる。




