表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら悪役継母でした  作者: 入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/44

33 月色の贈り物

   ◇


 私室でお茶を味わっていると、公爵が姿を現した。

 涼やかな美貌を曇らせ、内心の不安がだだ漏れになっている。


「陛下から“私的なお茶の席”に招かれたというのは本当か」


「はい。もうお返事しました」


 形のよい眉が懸念を宿して、わずかに寄せられる。


 皇族からの私的な誘い――それは「友人として認められた証」でもある。


 ただ、公爵は女帝の目的が友好ではないことを察しているようだ。


「陛下の私的な招待は建前だ。『公爵夫人が大聖女に急接近している』という噂が広まっている。彼女は大聖女の啓示が悪用されることを警戒し、アルージュを呼び出したのだろう」


「はい。そうなるようにと、私が猊下にお願いして噂を広めてもらいました」


「……なに?」


「“別派閥の者が大聖女に近づいている”と聞けば、陛下は見過ごせないでしょう?」


「危険すぎる。俺が護衛する」


 言うと思った。

 でも、女帝もそこは織り込み済みなのだろう。


「陛下の温室に入れるのは、女性だけです」


「……」


 短く息をついた公爵の視線が、私の手元へ落ちた。

 エトワールのブレスレットと、大司教からいただいたハンカチに気づき、目を細める。


「なら、せめて明日は俺と過ごせ」


   ◇


 翌日。

 私は公爵にエスコートされ、公爵領の中心街にある宝飾店を訪れた。


 扉が開かれると、数多の宝石があちこちで煌めいている。


「陛下のもとへ同行できない以上、せめてアルージュにふさわしい装飾品は俺が整えよう」


 帝国では、私的なお茶会で“家族の絆を示す品”を身につけるのが習わしだ。


(私は形式上、三大派閥の公爵の妻だしね)


 別派閥の頂点、女帝に会うとなれば、公爵も警戒するのだろう。


 私たちは店の奥へと進む。

 希少な宝石が散りばめられた髪飾り、さらに金糸の編まれたドレスと、公爵は迷いなく選んでいく。


 店員は目を輝かせ、侍女は増え続ける品に右往左往している。


「今日は、黄系の色が多いですね」


「ああ。俺の色で飾られたお前が見たい」


 公爵は完璧な美貌でさらりと言う。

 店員と侍女がそろって固まり、頬を赤らめた。


(女帝とのお茶も社交のひとつとはいえ、仕事人間の公爵がここまで熱心だなんて……驚かれるのも無理ないわ)


 その後も煌めく品々が次々と積まれていく。


(こういう状況、いまだに慣れないわ)


 前の結婚では贈り物とは無縁で、むしろラウルドには、父の遺産を勝手に使い込まれる始末だった。


(でも、今の結婚なら……お父様、どう思うのかしら?)


 そっと顔を上げると、鏡の中の自分が目に入り、ハッとした。


(こんなに飾られて、女帝の前に出るの!?)


「あ、あの旦那様。もう十分では?」


「俺は足りない。お前に贈る理由を毎日探している」


(毎日!?)


 どんなモチベーションで動いているのか、さっぱりわからないんだけど。


「でも、以前からも、たくさんいただいていますし」


「エトワールからはブレスレットを。猊下からはハンカチを贈られていただろう」


「はい」


「俺以外の者の贈り物を大事にしている」


「そうですけど」


「……妬かせるな」


 拗ねたような言い方に、思わず口をあんぐりと開ける。


(なんでそうなるの!? 息子と祖父の贈り物よ。普通に嬉しいでしょ!)


   ◇


 帰り道、馬車の中で公爵と並んで座る。

 彼は贈り物だけでなく、私が女帝とのお茶会へ向かうための護衛や馬車の手配まで、すべて整えてくれていた。


 正直、かなり負担が軽くなった。


「旦那様、ありがとうございました。本当に助かりました」


「ああ。お前のためだから」


 当然のように言いながら、公爵は首にかけていた銀の鎖を取り出した。


 公爵家の家紋が刻まれた、月色のペンダントだ。

 服の下に隠れていて気づかなかったけれど、ずっと身に着けていたのだろう。


「必ず着けて行け」


 公爵は私の首元へ手を伸ばし、留め金を掛ける。

 ひやりとした石が胸元に触れた。


「でも、旦那様がずっと着けていた品では?」


「だから渡す。エトワールの瞳もいいが、この色も好きになれ」


 ペンダントと同じ色の眼差しに見つめられ、私は頷いた。


「はい。私、嫌いな色はありませんから。好きですよ」


 何気なく答えた瞬間、公爵が不意を突かれたように目を見開いた。


(え?)


「……大丈夫ですか? 顔が赤――」


 言い終わる前に、ぐいっと強く抱き寄せられる。


(ちょ、息っ! 息ができない!!)


 横を向いて必死に息を吸う。

 耳に当たる彼の胸から、早鐘のような鼓動が伝わってくる。


(これって、もしかして……)


 その意味を考えてしまうと、私まで胸の奥がドキドキしてきて、思わず聞いた。


「犬化しそう?」


「違う」


 それ以上は言わず、公爵は馬車が邸に着くまで、私を離そうとしなかった。



   ◇


 女帝から私的なお茶の席に招かれた、当日。

 跳ね橋が上がる低い音が、皇城の壁に重く響き渡った。


 私の乗る馬車は皇城奥の離れ、女帝の待つ温室へと向かう。


(深呼吸よアルージュ。昨夜イメトレを三十回したんだから。準備は万全!)


 温室の扉が閉まると、鳥のさえずりも途切れた。

 湿った温気が肌を包み、土と花の甘やかな香りが一気に押し寄せる。


「よく来た、アルージュ夫人」


 女帝は深い緑のドレスをまとい、金の髪をきっちりと結い上げていた。


(彼女が、大聖女様の母……)


 黒い瞳は凛としたつり目で、大聖女と同じ色素と気品が漂っている。

 しかしそこに宿る威厳は、まさに国を背負う者の眼差しだった。


「ソレーヌ女帝陛下、本日は――」


「堅苦しい挨拶は抜きだ。私はあなたに興味がある。だから友として招いたが……」


 言葉が、ふっと途切れた。

 女帝の視線が私の胸元に落ち、かすかに目を見開く。

 そこには公爵から贈られた品――月色に輝くペンダントがある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ