31 赤い花に込めた願い
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大聖堂を丸ごと遊び場にしてしまった「大聖女の祈りの舞」から数日後。
遊び部屋では、エトワールと大聖女はアクセサリーキットに夢中になっている。
大聖女付きの侍女たちは見守るように控え、窓の外では白雲がゆったりと流れていく。
「できまちた!」
エトワールが得意げに掲げたのは、紫のビーズで作ったブレスレット。
とてとてっと駆け寄って、私の手首にはめてくれる。
窓から射す光を受け、ビーズがきらりと輝く。
「おかぁしゃまに、にあう」
その言い方は公爵が私に贈り物を渡すときとそっくりで、思わず笑ってしまう。
「エト、ありがとう。とっても嬉しいわ。これは宝物ね」
「たからもの!」
「……」
視線を感じて振り返ると、大聖女がこちらをじっと見つめていた。
小さな手には、赤いビーズで作ったブレスレットがある。
それをぎゅっと握りしめ、大聖女はキッズテントの中へ隠れてしまった。
私は迷わず後を追い、入口にしゃがんで声をかける。
「大聖女様のブレスレットも、完成したのですよね?」
「……うまく、いきませんの」
心細そうな声だ。
私はテントの布にそっと手を添え、穏やかに続ける。
「赤いビーズが華やかで、お花みたいですね」
「おかあさまは、あかいおはなをそだてていますの。『これは、たいせつなことをおもいだす、とくべつなはなです』って、おしえてくれました。だから……」
「お母様に、贈りたいのですね」
しばらく静まり返った。
やがて布越しに、小さく頷いた気配が伝わってきた。
ようやく、大聖女が胸の奥に仕舞い込んでいた孤独の一片に触れられた気がした。
「でも……どうわたせばいいのか、わかりませんわ」
そのとき、今まで静かだったエトワールが私の隣に来て、はっきりと言った。
「サンタしゃん、たのむの!」
布の向こうで、小さく息をのむ気配がする。
テントがそっと開き、大聖女の顔がひょこっと出てきた。
その瞳には、ほんの少し期待の色が宿っている。
「サンタさまって……あの、アルージュさまのえほんにでてくる、プレゼントをくばるおかた?」
「えんとつからきたら、エトおねがいしましゅ! たからもの! レオしゃまのおかあしゃまに、とどけてくだしゃい!」
次の瞬間、大聖女はぱっと飛び出し、拳をしっかりと握りしめた。
「ブレスレットはプレゼントようのふくろにしまって、サンタさまがみつけやすいように、もみのきにかざりますわ!」
「あいっ!」
二人は大はしゃぎで袋を探し回り、クリスマス風の小さな赤いブーツの形を見つける。
そこに赤い花のブレスレットを丁寧にしまい込み、楽しげに笑い合っている。
「サンタしゃん、まちがえてたべましぇんように」
「まあ! それはこまります……そうですわ! サンタさまに、おてがみをかきます。『これは、たべないでください。わたくしのおかあさまにわたしてください』って、おねがいします!」
「エトも、おねがいしゅる!」
「あっ、でも……」
大聖女の眉がふっと曇る。
「このへやには……サンタさまがいらっしゃるえんとつも、ふくろをかざるきも、ありませんわ」
「大丈夫ですよ」
私は大聖女と目線を合わせて、微笑んで頷いた。
「中庭の木に飾りたいと、猊下にお話してきます。その間にふたりは、準備を続けていてくださいね」
「「はぁい!」」
二人は同時に跳ね上がり、それからひそひそと作戦会議を始める姿が微笑ましい。
廊下に出た私は一瞬だけ立ち止まり、窓越しに小さな背中を見守った。
大聖女は手紙を書き、エトワールは飾り用の折り紙を広げている。
(届きますよ。ちゃんと)
階段を軽やかに駆け下りながら、その願いが叶う瞬間を思い浮かべて、自然と笑みがこぼれた。
(サンタクロースって、きっとこんな気持ちなのね)




