22 石のお世話
ラボラは試作機の蓋をぱかりと開け、透明な小石を取り出した。
「魔石。これを入れなければ、価格は下がります」
「それじゃ、魔道具が動かないわね」
「はい」
(……ですよね)
でも、コストの大半は魔石が原因ということ。
魔石を安く調達できれば、高性能低価格の魔道具が作れる。
(ケーキ一個が金貨一枚とかだったら、私だって震えながら食べることになるし)
やっぱり、気軽に楽しめるスイーツ店にしたい。
「どこかに、魔石が転がっている場所ってないのかしら?」
「男爵領で探すなら、ノウジョアン様にご相談するといいかもしれません」
「ありがとう、ラボラ。そうするわ」
私は別荘に戻ると、ノウジョアンに手軽に魔石を手に入れたいことを相談した。
「それでしたら……男爵領の外れに、塩湖で枯れてしまった“はぐれ聖樹”があります。あそこなら、かつて聖樹に実った魔石が落ちているかもしれません」
聖樹は通常、教会の管理下にある。
でもかなり昔に塩害で枯れてしまい、今は男爵家がその一帯を所有しているそうだ。
「菓子の価格をそこまで下げようとする……そんな方はアルージュ様が初めてです」
「お菓子って、誰でも気軽に楽しめたら素敵だと思うんです」
(この世界、甘味が貴重すぎるもの!)
「おっしゃる通りです! 貴族だけではなく、民の生活にゆとりがなければ、領は豊かとはいえません。あなたはまさに、公爵夫人にふさわしい方です。僕も見習いたい!」
ノウジョアンは快く立ち入り許可を出してくれた。
◇
翌日。
私はエトワールと公爵を連れて、男爵領の外れ――はぐれ聖樹のある地へと向かった。
目的は魔道具の動力を確保すること。
ただ、三人で馬車に揺られているのは、どう見ても家族でピクニックの雰囲気だった。
「おかぁしゃま、いし、さがしゅの?」
「ええ。今日はりんご狩りじゃなくて、魔石狩りよ!」
「魔石狩り……遠征任務か」
真顔の公爵に、思わず苦笑する。
この人にとって外出は仕事なんだろう。
自邸でもずっと執務してるし。
(きっと、休むって発想がないのね)
「今日はエトも一緒ですし、任務じゃなくておでかけです。ピクニックだと思ってください」
「ピクニック?」
「おでかけして、おさんぽたのちいのよ!」
「……なるほど。では俺も同行しよう」
「あいっ!」
エトワールに説明されて、公爵は律儀に頷く。
スパイ犬の一件から、二人は自然と言葉をかわすようになってきた。
◇
たどり着いたのは、草一本生えない荒涼とした岩の大地だった。
乾いた風が砂を巻き上げ、遠くに黒ずんだ巨木がぽつんと立っている。
「いし、いーっぱい!」
エトワールはぱっと駆け出し、見つけた石を両手で積み上げ始めた。
公爵が興味深そうに、隣にしゃがみ込む。
「なにをしている?」
「こうちて、たかくしゅるの!」
「不揃いの石を積み上げる……なるほど。空間認知能力が鍛えられそうだ」
公爵、真面目に分析してる。
(石積みとか初体験なんだろうな)
小さな手と大きな手が並んで石を積む光景は、なんだか微笑ましい。
「おとうしゃま、そろそろいしの、おせわしゅるね」
「石に世話が必要なのか?」
「あいっ。エト、おせわするいし、さがしゅ」
エトワールが立ち上がり、小石を探しながらとことこ歩き出す。
公爵はどう接していいかわからないのか、無言でその後をついていく。
ふたりの後ろ姿を見つめていると、自然と笑みがこぼれた。
(魔石探しが目的だったけど、公爵とエトが一緒に過ごせるのは良かったかも)
私は荒野の中心へと向かった。
「これが……はぐれ聖樹ね」
枝は空を裂くように伸び、葉はすでに失われている。
かつての塩湖の名残で、幹は黒く乾ききっていた。
だけど、魔石は風化しない。
もしかしたら近くに落ちているかも。
足元をよく見ながら歩き、見慣れない四角い灰色の小石に目を留める。
「これは……」
手にすると、冷たくない。ぷにぷにとした弾力がある。
「もしかして、廃石?」
魔石と一緒に聖樹に実る石だ。
ただこちらは魔力を蓄えられないから、役立たずのゴミ扱い。
見ると、はぐれ聖樹の周辺にごろごろ転がっている。
「おかぁしゃまー!」
振り返ると、エトワールが公爵と一緒に駆けてくる。
私の目の前でぴたりと止まると、小さな拳を左右に振りながら明るい声を響かせる。
「ぼく、いしまる! エトのおともだち!」
「……石に名をつけるのか?」
公爵が背後で、戸惑いの声を漏らす。
なるほど、そういうことね。
ただ、日本の絵本をもとに読み聞かせしているせいか、ネーミングセンスがかなり和風だ。
私はさっそく、エトワールの拳を見つめ、“いしまる”に挨拶する。
「いしまる、はじめまして」
「あいっ、はじめまちて! いしまるは、キラキラあかいいし!」
エトワールが差し出した小さな手には、小石がちょこんと乗っていた。
ただ……赤ではなく、薄青に輝いている。
「あれっ? あおいいろ、なっちゃった?」
エトワールが不思議そうに首をかしげる。
魔石は透明。廃石は灰色。
赤から青に変わる石なんて、聞いたことがない。
「いしまる、どうして? エト、おせわちたのに」
小さな指先が青い石を撫でる。
すると石は、淡く光を増しはじめた。
エトワールが撫でるたびに、石は輝く星のように瞬いていく。
(この石、まさかエトの魔力と共鳴して……あっ!)
風が止んだ。




