No.26「進化する魔法」
その都市は夜が深まろうとも眠ることはない。その体内に響くのは、人々の賑やかな喧騒と交差する自動車の排気音。ネオンサインが煌めく東京の中心を駆けるのは、傷だらけになり煙を上げる異国の車たち。
「おいっ、もっと撃ちまくれ!」
一方はギャングたちの黒塗りの車。彼らが乗り込む三台の車は、その全ての窓ガラスを破壊して、銃を乱射し続け、都市の中を蠢く小型戦車と化している。
「あいつらっ、遠慮ってもんがないな!」
「ちっ、この車高いのよ!?」
「やばっ、じゃあこっちもお返しだっ!」
もう一方はマジシャンたちのオープンカー。彼らは降り注ぐ銃弾を排除しながらも、セイコの凄腕の運転により障害物の多い街中を駆け抜け、隙を見て反撃を行っていた。
「───ヒルとマックスは!?」
「あいつらはダメだ! 泥酔してて使い物にならん!」
「そんなー、うわっ!?」
「くそっ、また被弾した、セイコ、高速に乗れ!」
「ちっ、分かってるわよ!」
マジシャンたちは車を加速させて走らせながら応戦するも、ギャングたちの圧倒的な物量を前に押し切られながら、その乗り物を今にも破壊されようとしていた。
「ちっ、面倒な奴らも来た!」
「構うな、セイコ!」
「あ〜。これ絶対に後始末が面倒だぁ。」
「喚くなテルル。それは無事に生き残れたらの話だ!」
「うぅ〜。」
マジシャンとギャング、彼らの暴走する車の後ろには煩わしいほどのサイレンが鳴り響く。それは3人のマジシャンたちにとっては、更なる追手の登場である。
そして彼らの車は煙を上げながらも、何とか首都高に入り、ギャングたちもその後を追うように接近してくる。それから両者の車は激しく衝突を繰り返しながらも、都市の中を駆け抜け、激しく大迷惑な争いが続いた。ギャングたちは容赦なく発砲を繰り返し、マジシャンたちは魔法を使って応戦する。人類の近代兵器と未知の奇跡との衝突は激しさを増すばかり。
「テルルっ、タイヤを狙え!」
「もちろん!」
少年は高速移動する車体の中で焦りつつも、正確に相手の銃弾を魔法の炎によって防ぎ続け、少女は補充した宝石を贅沢に使用して、弾丸のように射出する。
「よしっ!」
「いいぞっ!」
その時、テルルの宝石によってタイヤを破壊された一台の車が脱落した。残り二台、未だ白スーツの乗り込んだ車も健在である。
「───これなら。」
しかし襲いくる銃弾の数が減り、僅かに余裕が生まれた少年は、右手の炎で鉄の弾を防ぎながら、左手に純度の高い炎を集中させて、それを一気に解き放つ。
「なっ!」
「うぉ!」
「くそっ!」
その瞬間、鮮やかに発火したギャングの車は大きな炎と煙を上げながら、颯爽と二台目も脱落した。残りは一台、白スーツの男が乗る黒塗りの車のみ。
「くそ、後続がやられた!」
「おい、それ貸せ。」
「───ボス?」
しかし仲間の車が次々とやられ、残ったギャングの者たちが動揺する中、白スーツの男だけは冷静に照準を合わせていた。
「・・・はぁ!? 嘘だろっ!」
「───っ!?」
その男の武器に少年は気が付いた時にはもう遅く、その弾頭は男の手から発射されていた。
「死ねや。」
それは旧式の対戦車兵器ながらも、安価、簡便であり、未だ多くの武装勢力や裏組織に愛される歴戦の武器。ギャング御用達の対戦車擲弾発射器、RPG-7だ。
「二人とも伏せろっっっ!」
「「───!?」」
少年は2人の同乗者に対して咄嗟に叫んだ。そして反射的に意識を集中させて、目の前に炎と風の防壁を張るも、その威力を殺し切ることは叶わずに、爆発の衝撃を受けて座席にめり込んだ。
「ジェード!」
「───っ。」
少年は意識はあるものの、その頭から血を流して朦朧としている。その様子を前に、無傷であったテルルは僅かに動揺したが、すぐに視線を敵の車に移す。
「───ちっ。」
その一方で、セイコも僅かに爆風を受けて火傷し、眼鏡が吹き飛んだが、それでも彼女はハンドルを握りしめ、その打撲した足でアクセルを踏み続けた。
「───ななっ、防がれたか。でもダメージは通ってるはずだ。おいっ、あと一発あっただろう!?」
「はいボス。」
「よしっ、コレをぶち込んで───ん?」
「ボス?」
「何だあれ。」
白スーツの男が怪訝な表情で前方を見上げると、そこには人工の光に照らされた都会の中心地にも関わらず、世にも美しい満点の星空が映し出されていた。
それはまるで人類の生み出した人工の明かりを否定して、その全てを塗り潰すように、その夜空を鮮やかに彩る、魔法のように。
「───っ。」
「・・・」
その景色をセイコは横目で眺めていた。意識を回復させつつある少年も黙って見つめていた。そしてただ一人、車の後部座席で立ち尽くす少女だけは、その夜空に手を伸ばし、希少な宝石を触媒にして、その星空をより一層輝かせた。
(焦らず、動じず、丁寧に。)
少女は宝石の中に微細な炎を巡らせて、それを増幅して反射させながら、それを現実に創り出す。この幻想的な夜空こそが、少女の魔法の真骨頂。
それを驚異的な集中力を持って、今度は不意に失敗しないように、その膨大な力を静かに流し込む。
「───今!!」
そして感覚を掴んだ少女は一気に力を解き放ち、目の前の上空に描いた星空から、数多の光り輝く星々を地上に、ギャングの男たちが乗る車に降らせた。
「おいっ、何だこれは!?」
「───くらえっ! 流星群!!」
「いやっ、そうじゃなくてだなぁぁぁぁ!?」
白スーツの男は困惑して喚き散らすが、彼に待ち受ける結末は変わらない。少女が満点の星空から降り注いだ流星たちは、正確に男たちの乗る車だけを貫通して破壊し、その車体を容赦なく撃沈させた。そしてその爆発跡に残ったのは、バラバラに破損した車だったものと、無様に焼け焦げた白スーツ、またしても全てを失って呆然とする男たちだった。
こうしてギャングたちの最後の一台もようやく脱落、よって今夜のカーチェイスは見事に国境なき奇術団の勝利で幕を閉じるのだった。
それからマジシャンたちは今にも止まりそうなほど破損した車で道路を走り続ける。それは面倒な事この上ないが、今回の争いの後始末のために、彼らは最寄りの警察署に向かっているのだ。
「───なぁテルル。」
「───ん、なに?」
そして少年は珍しく負傷した為、走行中の後部座席で少女による手当を受けている時、静かにその口を開いた。
「・・・よくやった。」
その時、少年は優しく微笑んだ。それは不器用ながらも、彼なりの労いと感謝の言葉でもあり、その中には上達した彼女の魔法への称賛も含まれていることは、その少女にだけは伝わった。
「・・・ふふ。」
故に少女はその相変わらずの性格への呆れと、そんな彼に素直に褒められた事に対する嬉しさを込めて、心からの純粋な微笑みを彼に贈るのだった。




