No.20「真夜中のサーカス」
一方その頃、日が沈んだオアシスの街で合流したジェード、テルル、マックス、ヒルデガルトの4人は連絡が取れずに失踪したセイコの動向を探っていた。
彼らは各々状況を判断して迅速に行動し、手分けしてオアシスを駆け回る。
そして恐ろしく速い情報収集の末に、とあるサーカス団のテント付近にあるホテルの前に辿り着く着くのだった。
「マックス、本当にここか?」
「あぁ、人攫いならこの中にいる連中に聞けばいいと、大変親切な街の連中に聞いた。」
「あはは、何人も泡吹いてたけどね。」
「おっしゃ!!!! じゃあ切り込んでいいか!?」
「待てよ、こういう時は俺が先に入る。その方が安全で無難だろ。」
「うん、そうだね!」
「異論なし。」
少年の提案を奇術師たちは何も疑わずに了承する。なぜなら彼の魔法はまさに万能型。こういう不特定多数が蔓延る場合の索敵ならば、彼の右に出るものはいない。ジェードは基本的には優秀なのだ。
「それじゃあ───」
「あっ!? 何言ってんだジェード、誰が一番の楽しみを譲るか!!!!」
しかし同時に、その最適な判断を断固として拒絶する阿呆も存在する。それはもちろん戦闘狂のドイツ人、ヒルデガルトさんである。
「ぐぇ! 待て待て、俺を殺す気か!?」
「死ねぇジェード!!!!」
「ぐおおおぉ!!」
「ちょっとヒル!? ジェードさん死んじゃうよ!?」
「こら待て待て待て!!」
敵前にして仲間に首を絞められて青ざめるジェード。今ひとつ知能が足りない戦闘狂の暴走を、2人の奇術師は必死に阻止する。そんな事をしている余裕はないだろうに、彼らはいつだって平常運転だ。
それからヒルデガルトはマックスに羽交締めで抑えられ、しばらくして彼女が気を鎮めてから、彼らの作戦会議は再度進行した。
「───じゃあはい、コイントスで。」
しかし一向の意見は衝突し合い、どれだけ時間が経っても突入班は一向に決められず、痺れを切らし、呆れを通り越したマックスが真顔でコインを投げた。
「・・・表、よし、俺とヒルデガルトが突入、ジェードとテルルは外で待機だ。」
「おっしゃぁぁ!!!!」
ヒルデガルトは声を大にして喜びながら、即座に腰からアーミーナイフを取り出した。
「なんだ、結局こうなるのかー。つまんないなー。」
「まぁ仕方がない。マックス、見張りは任せておけ。」
その反面、少年と少女は不満そうに落胆するも、お互いに黙々と装備を整えて、与えられた仕事を遂行する。
「あぁ、頼んだぞ。俺たちはあと五分したら突入───」
「いくぜぇ!!!!」
「・・・すまん、行ってくる。」
「・・・気をつけていけ。」
「ヒルに切られないようにね〜」
マックスの合図を待たずして走り出したヒルデガルト。彼女には協力という概念はないらしい。その無鉄砲で阿呆な姿勢に、マックスは呆れながらも、もう慣れたようにその後を追う。その直後、少年と少女の目の前のホテルから響いてくるのは恐怖の悲鳴と断末魔、そして元傭兵の戦闘狂の笑い声。
こうして国境なき奇術団と砂漠の人攫いたちとの戦いは始まった。
「おらっ! おらっ! アイツのこと話さないと切るぞ!?!? てか逃げねぇと殺すぞ!?!?」
「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「化物だ!」
「ヤベェ女が突っ込んできた!」
「もっと銃よこせ!」
「くそっ、速すぎ───ぐぇ!」
「助け───ぐぉ!」
その女は決して止まらない。その両手に大きなアーミーナイフを握りしめて、1人、また1人と立ち塞がる障害を捌いていく。ホテルの廊下の白い壁を染め上げるほどの血飛沫の中、悪魔のような笑みを浮かべ、本来の目的である情報収集も忘れて切り捨てていく。
「マジで汚ねぇな。これじゃあ情報の一つも集まりやしねぇ。」
マックスは悪態を吐きながらも、ヒルデガルトの背中を守るように戦いながら、ホテルの四方八方から湧き出てくる有象無象の銃持ちを蹴散らす。
その剛腕の腕で相手もよりも早く銃を撃ちながら、それと同時に的確に急所を外す。全てはセイコの情報を聞き出すために、ただ冷静に、変動する状況を判断しながら戦う。
「おっ、今動いたな!!」
「あっ、こらっ、くそ。そいつは生け取りになぁ。」
「あっ!? 知るか。」
しかし彼の相方は、紛うことなき戦闘狂。その血と本能には意図的に逆らわない。その最悪の純粋さに、もう長い付き合いのマックスは毎度のごとく苦労させられてはいるが、その行いを説得することは諦めていた。なぜならば、どれだけ必死に理屈を並べようとも、言葉を介さない獣には何も通じないのだ。
「やれやれ。」
だから彼はヒルデガルトを適当に放置する。それが獰猛な元傭兵の扱い方の最適解であり、マックスという男は極力無駄なことはしない主義なのだから。
「───おい下がれっ、機関銃だ!」
「ん?」
その時、廊下の奥のエレベーターから出現したのは、機関銃を携えた数人の男たち。彼らの目は既に血走っており、自分たちのテリトリーに侵入してきた部外者2人を容赦なく蜂の巣にする気のようだ。
「上等だぁぁぁぁ!!!!」
しかし刃物を構える猛獣は止まらない。彼女はエレベーターまでの数メートルの距離を一瞬で駆け抜ける。その動きを予測されないように、壁に天井に飛び跳ねながら、思い切り蹴り上げ、直線的にならないように。その全てを僅かな合間に即座に判断して。
「───!?」
「死ねぇや!!!!」
その変則的な動きに動揺した男たちは、そこから迫り来る刃を前に恐怖しながらも、慌ただしく銃の引き金に指をかけるが、もう全てが遅い。ヒルデガルトはエレベーター内にいた男たちを機関銃ごと切り刻んだ。その瞬間、エレベーターからは大量の血が吹き出し、破壊された機関銃の部品が散らばった。
「・・・はぁ、えげつねぇな。」
その血生臭い惨状を前に、マックスは本心から顔を歪めた。彼は元軍人ではあるが、そこの倫理観が外れた女とは違って、その心は至って常識的かつ模範的な男だ。その在り方こそが、軍隊という戦いを避けられない立場を辞めた原因な訳だが、それと同時に、その過程の中で戦闘狂の女と出会ったことは、彼がマジシャンとなれたプロセスでもあったのだ。
「おいマックス、次、行くぞ!」
「・・・おう。」
ゆえに彼は軍人を辞めても尚、戦いを止めることはない。その心の内では理解して、嫌悪していても。それでも彼は、頭から返り血を浴びた女と共に、今夜も戦場に立ち続けるのだ。




