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Chrono Canaan ─ クロノカナン ─  作者: 小熊猫はにわ
EP3 ─ Oasis, The Middle East
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No.17「オアシスの街」

 それから数時間後、奇術師たちを乗せたキャラバンは砂漠を進み続け、ついに本来の目的地である砂の大地の補給地点、中東、オアシスの街に到着した。


「すごーい! 砂漠の中なのに緑も水も、人もたくさんいる!」


「想像していたより活気があるな。」


 テルルは声を高らかにして、子どものように興奮しながら街並みを眺める。その少女の手に無理やり服を引っ張られる少年も物珍しそうに目を丸くしていた。


「ここはオアシス、ヒトとモノが自然と集まる場所です。交易の拠点という事もありますが、ここは何千年も前には世界で最も栄えた国があったんですよ。」


「そうなの?」


「はい。実は───」


 この街まで先導してくれたキャラバンの男が丁寧に話を始める。それは何千年も前のこと、一夜にして滅びたとされる伝説の国の話で、しかしその痕跡が少ないことから、長らく街の人間たちの間でも御伽噺であったそうだが、ここ最近になって本物の遺跡が発見されたらしい。つまり太古の昔に滅びた国は、人々の空想ではなかったのだ。


「───あの山の麓に古代都市の遺跡が見つかったんです。あ、ちょうど今の時間なら発掘隊に同行できますし、ここから割とすぐに移動できますよ。」


「だってさ! ちょっと一緒に行こうよジェード!」


「めんどくせえ。なんで俺が。」


 その伝説の御伽噺の都市を前に、どうやら少女の好奇心は惹きつけられてしまったみたいだ。それをアホらしいと冷笑する少年の袖を、己の欲求に忠実なテルルはさらに強く引っ張る。そして静かに微笑みながら、その口を開く。しかしその目は笑っていない。


「・・・あの時の爆発、初めに問題ないって言ったジェードも悪いんだからね。それなのに私だけ怒られたし。」


「・・・」


「何ら今から2人に怒られ───」


「あー分かった! 付き合えばいいんだろ!?」


「ふふ、よろしい。」


 その少年の雑に声を荒げる姿を見て、テルルは勝ち誇ったように微笑む。こういう時は少年も無駄に抵抗はしない。彼女の決定を前に、全ては無意味だと経験則から分かっているのだ。それに自分でも無視していた僅かな負い目を見透かされ、彼は諦めて従う事にした。それと同時に、少年は改めて少女のことを魔性の女だと思うようになった。


「はぁ、まったく。おいマックス、お前らも一緒にどう───」


「俺はパスだ、興味ねえ。」

「はやく宿探そうぜ~」

「私はこの辺を見て回るわ。」


 少年が笑顔で手を振って近付くと、我先に散っていく面々。彼に似つかわしくない不気味な表情と微妙な空気感を察して、大人たちは即座撤退を判断したのだ。これこそが戦闘経験豊富な者たちの危機管理能力である。


「・・・はぁ。」


 そして最後に残ったのは、ため息を吐く少年と、何も分かっていなさそうな少女、愉快そうに笑うキャラバン隊の方々。


「はは、皆さん、仲がよろしいのですね。では、お二人とも、発掘隊の待機場まで行きましょうか。」


「ははは。」


「? やったー!」


 今日であったばかりの男に皮肉を言われ、少し自虐気味に苦笑いするジェード。頭の上に疑問符を浮かべながらも、純粋に嬉しそうに喜ぶテルル。


 そして少年と少女は出発寸前だった発掘隊の一同と合流してから、キャラバンの男たちとは感謝と別れを告げ、再びラクダに乗って移動を始める。それから数十分、お互いに他愛もない雑談をしながら、ジェードとテルルは大きな山の麓までやって来た。


「ここからは自由にしてくださーい。帰る時は連絡しまーす。それでは、さいなら〜」


「・・・なんか、キャラバンの人たちと違って、変な人だったね。」


「・・・だな。」


「とりあえず、自由にしていいって言われたけど、どうしようか。」


「まぁ、どうせなら少し見て回るか。」


「賛成!」


 それから暫しの間、少年と少女は古代都市の遺跡を見て回る。この場所は大昔に火山が噴火して、その灰に埋もれた場所らしい。それはまるで前に滞在していた国にある、古代ローマ都市の遺跡のようだと2人は話していると、遺跡全体を見渡せる丘の上までたどり着いた。


「・・・壮観だな。」


「・・・」


 ジェードが乾いた笑いをしながら吐露する。彼がそのような冷めた反応をしたように、そこから俯瞰した景色というのは、それはもう物静かで、本当に空虚なものだった。


「どうした? 静まり返って。お前らしくもない。」


「うん、何だか悲しくなっちゃった。」


「なんだそれ?」


「もう、意地悪。言わなくても分かるでしょ?」


 そこでテルルは少しだけ声を荒げた。その感情を口には出さずとも、少女の考えていることは全て伝わっているはずなのに、それでもわざわざ説明を求める少年に腹がたったのだ。


「無論だ。でもなテルル、こういうのは言葉にするから意味があるんだ。」


「?」


 しかし少年も黙っているだけではない。彼は少女の友人でも家族でも恋人でもないが、それでも唯一彼だけは対等な存在なのだから。


「こうして俺たちが難なく喋れるのも、こうして普通に景色を見ることができるのも、別に当たり前じゃない。」


「・・・っ。」


「それとも旅を始めた頃のように、殺伐とした関係がお望みか? それじゃあ何も変わらない、変われない。」


「それは・・・もう、分かったよ。・・・ちょっと感傷的になっただけ。だってさ、こんなの、あんまりだよ。どんな存在でも最後には、こんな寂しく終わっちゃうなんてさ。それって、もしかしたら、いつか私たちも・・・」


「・・・」


「ねぇ、ちょっと、ちゃんと聞いてるの?」


「あぁ、聞いてたさ。 要は漠然とした不安ってヤツだろ? まったく勘弁してくれ。こっちは嫌でも共感しちまうんだから。この寂しがり屋め。」


「もう! すぐそうやって馬鹿に───」


「別に馬鹿にしてないって。」


「えっ。」


「大体あのオアシスの街だって、大昔に噴火から逃げ延びた人々が作り上げたそうだ。それなのに今は賑わっていただろう? だからさ、何もかも終わるわけじゃない、きっと残るモノだってあるさ。」


「・・・・・・ジェード。」


「?」


「なんて言うか、やっぱりキザだね。」


「馬鹿にしてんのか。」








 それから数刻後、街に帰還した2人は、少し遅れてオアシス観光に勤しんでいた。そこは砂漠の交易の場という事もあり、様々な人と珍しい物で溢れている。街の大きな道沿いには、必ず商人たちの露店が立ち並んでおり、彼らも忙しなく客を招いている。


「うわー、他には何を買おっかな!」


「はは、ほどほどにな。」


 そこで楽しくショッピングを続ける少年と少女だったが、一通り見た限りでは宝石を取り扱っている店はなく、内心ほっとするジェードであった。


「ちょっと見ていかないかい? そこの可愛らしいお嬢さん?」


「え、私? 私のこと可愛いって言った? ねぇジェード、あの人私のこと───」


「うるさい。」


 それはオアシスの中心部から外れた道を歩いている時だった。この砂漠にしかなさそうな珍品を探していたテルルが露店の店主に声をかけられる。


「そうだよ、お嬢さん。君のことさ。ここらじゃ見ない顔だね。その髪と肌、西方から来たのかい?」


「うふふ、そうだよ〜。」


「そうかそうか。なぁ、どうだい、どれも掘り出しもんだ、買っていかないかい? 絶対に似合うと思うよ。」


「えへへ〜、そうかなぁ〜。」


 すっかりご機嫌でご満悦なテルルの前に並べられるのは、光輝く宝石が散りばめられた装飾品の数々。それを見た少女はその瞳をより一層輝かせ、少年は一足先に結末を悟って天を仰いだ。


「・・・ん? その三日月のペンダント、珍しい紋様だな。それに、随分と質が良さそうだ。」


「あぁ、これはあの遺跡で発見された骨董品よ。見た目は無骨で地味に見えるが、発掘家曰く、本物の古代王族の品らしいぜ? おかげで手に入れるのに苦労したがな。」


「え、本当!?」


 その不確かな話を聞いた瞬間、テルルは好奇心のままに飛びついた。


「眉唾だな、というか普通に市場に流してんじゃねぇよ。文化財だろ。」


「細かいこと気にすんなよ。それにアンタも今言ったろ、本物か偽物かは分からないって。」


「はぁ、なに言ってんだか。って、おいテルル、何財布出してんだ!?」


「はい、毎度あり!」


「やったー!」


「あーもう、おい!」


 それはジェードが止める間もなく、テルルは異例の速さでその装飾品を購入した。それはまるで最初から決まっていたように。ただ自然と、一切の迷いなく、必然的に、運命的に。それを手に持つ少女は鼻歌を歌い、段々と陽が傾き始めた道を歩きながら首にかける。


「それより珍しいな、お前が宝石を買わないなんて。」


「うーん、何でかな、これを見た瞬間、欲しくなっちゃったんだよね。というか、絶対に買わなきゃって感じ。」


「何だそれ。」


「もう、いいでしょ、私が何を買おうとさ。これ、古代の王族の品だよ? それに銀の純度もいいし、もう宝石じゃなくても買うに決まってんじゃん。」


「またそんな胡散臭いものを。どうせ偽物だろうに。」


「まぁ、それは別にいいの。」


「?」


「貴方も言ってたじゃない。残るモノも、あるってね!」


「・・・まったく、いらんことまで言葉にしやがって。」


 どうだ、と言わんばかりに笑うテルルの隣を歩く少年は、ただ心地よさそうに、ただ小さく微笑んだ。その少女の勝ち誇ったような含みのある笑顔を見て、どことない安心と親しみを感じて。





「ふふ、どう? 似合う?」


 そして少女は愉快そうに微笑みながら、その胸元のペンダントを少年に見せつけた。それを誇らしく自慢するように、また彼の反応を伺うように。


「───あぁ、似合ってるよ。」


 ゆえに少年は本心から思ったことを言葉にして、そこには嘘偽りなく答えるのだった。


 その銀の月のペンダントを真っ直ぐに見つめて。


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