No.16「テルルさん、修行は程々に。」
そして奇術師となった2人の魔法使い、少年と少女。今日も彼らは終わらない旅を続ける。その永遠を終わらせる為の手がかりを少しでも集めるために、遥か昔に失った、どこにも存在しない場所を目指して。
その若きマジシャンたちの詳しい事情は知らずとも、各々旅に同行する3人の奇術師、マックス、セイコ、ヒルデガルト。
そんな彼らは現在、中東の砂漠地帯、その広大な砂の大地のど真ん中にいた。
「いやー、存外悪くねぇな。」
「ギャハハ、面白いな、これ!」
「うるさい。」
大して珍しくもなく、いつも通り騒がしい大人組、少年と少女の前を行く彼らが乗っているのは、現代文明の動く箱、車ではない。この環境に最も適応した生物、ラクダだ。
「それにしても本当に助かったぜ、ありがとな!」
「いえいえ、構いませんよ。旅というものは助け合いですから。」
「はは、立派な思考だ。」
マックスが先導する男に感謝の言葉を告げる。彼は砂漠を移動するキャラバンの1人。その中心地で立ち往生していた、いかにも怪しさ全開の国境なき奇術団の面々を拾ってくれた、心優しい人格者の商人だ。
「それより、あなた方は大変運が良かったですね。移動中の乗り物の故障、この砂漠ではよくある事ですが、我々が奇跡的に通りがかったのは、本当に幸運でしたよ。」
「・・・はは、ほんと、仰るとおりで。」
「・・・はぁ。」
その言葉を前に、マックスが盛大に苦笑いし、セイコは頭を抱えてため息を吐いた。そんな彼らが徐に振り返った先には、やはりというか、何というか、そこにはラクダに乗る少年と、全ての元凶である少女がいた。
「あはは! 結構楽しいかも!」
「そうだな。お陰様で尻は痛いがな。」
「・・・あとどれくらいかな。意外とすぐに着くかも!」
「そうだな。お陰様で余計な時間がかかりそうだがな。」
「・・・もう、分かってるよ! 全部私が悪かった! 何度も謝ったでしょ!?」
「そうだ、全てお前が悪い。」
「───っ!」
はっきりと少女を咎める言葉を突き刺すジェード。しかしテルルには言い返すことはできない。そんな権利は彼女には存在しない。
この事件の発端は国境なき奇術団が砂漠のキャラバンに遭遇する数刻前まで遡る。
それは彼らが広大な砂漠の道を、お馴染みの古びた73式大型トラックで悠々と移動していた時のこと。
「───ねぇ、ジェードの炎ってどうやって出すの?」
とある少女はガタガタと揺れ動く車の荷台の中で、事の全ての始まりである爆弾発言をした。
「・・・どうって。それより、何でまた?」
「うーん、何となくかな。私も使えたら便利そうだし。」
「まぁ確かに、宝石しか脳がないからな。」
「うん?」
「分かった分かった、教えるからその拳を抑えてくれ。」
その手を強く握りしめ、じりじりと笑顔で詰め寄る少女を前に、少年は焦りながらその脅威を静止させる。彼はその身に確実に降りかかる悲惨な未来を回避したのだ。
「あ、でも、やっぱり私じゃ出来ないかな?」
「どうだろうな。別にテルルの場合は媒介があれば問題ないだろう。俺を通して感覚は伝えられるし。」
「うんうん、それもそうだ! じゃあ早速やってみよう!」
そして少女は嬉々として宝石を取り出す。その良くも悪くも単純で真っ直ぐな姿を、少年も小さく微笑みながら見守る。その漠然とした経緯はどうであれ、あまり器用に魔法を扱えない彼女の手数が、これを機に少しでも増えればいいなと思い、そんな仄かな親切心と油断から、ジェードはその手から小さな炎を出現させた。
「・・・どうだ? 掴めたか?」
「まぁ、いつもジェードが使ってたし、ある程度は。」
「そうか、じゃあ最初は───」
「大丈夫! こうでしょ!?」
「ちょま───」
その瞬間、テルルは余計な雑念を取り払い、その手に握る宝石に全ての意識を集中させた。それは咄嗟に警告しようとした少年の声が一切聞こえないほど。先ほど彼が起こした奇跡を、彼との繋がりを通して再現し、その繊細な感覚を、丁寧になぞるように、余すことなく辿るように。
「「あ。」」
しかし誠に残念なことに、その驚異的な集中力と天性のセンスが仇となったのだ。全ての感覚を共有する2人が反射的に口を開けた時にはもう遅い。
その瞬間、車の荷台は盛大に爆発した。
たった1人の少女の手によって、輝く小さな宝石を触媒として。
「───っ!?」
「なん───」
「んぁ?」
その豊富な人生経験と鍛えられた勘から事前に危険を察知した運転席のマックス、助手席のセイコ、荷台の積荷の上で呑気に寝ていたヒルデガルト。しかし彼らも僅かに間に合わない。全員もれなく爆発に巻き込まれる。
その衝撃と爆風は車の荷台の大部分を吹き飛ばし、その中に置いてあった積荷と共に、3人の人間を巻き添えにした。さらにその勢いは止まらず、残り2人の人間がいた車の前方部分も部分的に破壊し、その乗り物が2度と前に進むことはなかった。
こうして元傭兵の大男の愛車、古びた73式大型トラックは、濁った煙と炎を上げながら、砂漠の海に沈むのだった。
「───はぁ、思い出すだけで憂鬱。毛先も少し焦げちゃったし。ほんと、ごめんなさい。」
「まったく、お前は何なんだ。」
「私はポンコツです。はい。」
「本当に反省してるのか?」
「してます。はい。ごめんなさい。」
「まったく。」
そして珍しく素直に反省しているテルル。その節は割と立派な大人であるマックスとセイコにも叱られたことで、心底申し訳なさそうにしていた。
その縮こまる相方の姿を見て、ジェードは呆れて静かに俯くが、この一件は軽い気持ちで彼女の背中を押した、他でもない自分自身にも少なからず非があることを、彼が口に出すことはなかった。
こうして紆余曲折はありながらも、彼らの旅はまだまだ続く。ただその足で立ち止まらずに前へ進み続け、時には偶然の巡り合わせの力も借り受けて、さらなる新天地を目指すのだ。




