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No.15「魔法という名の呪い」

 そしてジェードとテルルは目が覚めた。否、彼らは初めから醒めていたのだ。


「───ぁあ、あ。」


「───っ。」


 彼らは言葉を失って立ち尽くす。既に滅びてしまった故郷を前にして。かつては美しかった白き街は崩壊し、人々の痕跡は消え失せている。しかし唯一地面に残った血と臓物、不自然に引き裂かれ散らばった肉片、激しく争われた形跡だけが、その惨状を訴えていた。


 あの暗闇から2人で這い出たことを喜ぶことはなかった。それは決して忘れることはできない、脳裏にこびりついた悪夢、闇の中の最悪の光景。


 それを2人同時に思い出して再び激しく嘔吐する。その場で何時間も己の吐瀉物を見つめ、ただ虚になりながら、その後も一言も会話をせずに、呆然と静寂な街を共に彷徨った。


「・・・」


「・・・」


 どこまで行っても誰もいない。どこを歩いても何もない。人も、動物も、植物すらもない。


 そして少女が街を見下ろせる大きな屋敷、既に廃墟となった自身の家に帰った時、ようやく彼女は膝から崩れ落ちて、弱々しく言葉を発した。


「───なさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」


 少女は廃れた街を見つめながら、無我夢中に懺悔する。何百回も、何千回も。何時間、何日も。ただ永遠に繰り返す。

 

 その狂気的な奇行を少年は止めない。それはもはや彼にも止められなかった。なぜなら少年と少女は一心同体、彼女が感じたことを、彼も感じる。その終わらない苦しみを、彼らは無意識のうちに共有する。


 少年と少女は全て分かっていたのだ。数多の命を犠牲に、彼らの歩むはずだった未来を踏み台にして、あの唯一の光を手に入れたのだと。それは彼らから奪ったのだと。他でもない自分たちの手で、ただの身勝手と自己中心的な傲慢さで。


 それを2人が直感的に理解したとき、もう彼らに歯止めは効かなかった。それから少年と少女は何日も同じことを同じ場所で繰り返した。お互いに生き延びてしまったことを罵り合い、暴言を吐き続け、殴り合い、引き裂き合い、殺し合い、永遠と傷つけ合った。


 しかし彼らの本当の地獄はここからだった。お互いを傷つけることにすら飽きれ果てた彼らは、ついに故郷を捨てて放浪することを選んだ。その帰る場所のない旅の中で、お互いに様々なことを実験して、自分たちの身に何が起きたかを把握することができた。


 まず初めに、彼らは魔法を手にした。それは奇跡を起こす超常の力。それは人の文明を遥かに越えた、理から外れた万能の力。しかし彼らに愉悦感は一切ない。その代償はあまりにも大きく、またあまりにも重い運命を背負わされる事になったのだから。


 しかし彼らが光と共に得たのは魔法というには名ばかりの、ただの悍ましく、忌々しい呪いだった。


 一つ、その呪いは少年と少女に安寧を与えることを許さない。彼らが目を閉じている間、眠っている間、夢を見ている間。彼らは必ず、あの崩壊した暗闇の世界を、あの惨劇を見せつけられる。


 二つ、その呪いは少年と少女に自由を与えることを許さない。彼らは決して離れることはできない。お互いに意図的に離れようとすると、彼らは立ち上がることもできず、強烈な眩暈と吐き気、倦怠感、底知れない恐怖と苦しみを味わう。それは絶対不可避な魂の繋がりであり、故に彼らは全てを共有する。お互いの思考、感情、呼吸、脈拍、その他諸々。


 三つ、その呪いは少年と少女に救済を与えることを許さない。彼らはどんな手段を用いても、人として死ぬことができない。それは世界の輪廻から外れた存在である彼らが、その綻びにより強制的に生かされる。それは残酷なまでに強力な不死の呪いだ。



 そして彼らはこの呪縛を抱えながら、果てのない旅を続けた。最初の頃はお互いのことを嫌悪し、煙たがり、恨みあった。そこには信用も信頼も一欠片もない。彼らは事あるごとに貶し合い、歪み合い、ぶつかり合う。しかし皮肉なことに、その身体は絶対に死なないため、人間としての限度を越えた決闘などは、彼らにとって日常茶飯事だった。


 それでも少年と少女には呪いがあるかぎり、決して離れることはできない。どれだけ相手を嫌おうとも、拒もうとも。お互いの想いを偽ることはできない。


 その複雑で歪な関係はしばらく続いたが、お互いに荒んでいた旅の中で、偶然にも1人の偉大なマジシャンに出会った。そこで後に恩人となる彼に導かれることで、少年と少女の魔法に対する考え方は変わり、彼らは奇術師になることを選んだ。


 それから数年が経過して、いつの間にかお互いの存在だけが、唯一にして最大の理解者へと変化するのも、また必然だった。









「ジェード、私、決めた。」


「俺もだ、テルル。」


「覚悟はいい?」


「もちろん。」


「そう。じゃあ頑張ろうね。お互いに。」


「あぁ、どこまでも付き合うさ。最後までな。」

 

 それは少年と少女が旅を始めてから、初めて他人にマジックを披露して、彼らが正真正銘の奇術師になった日。彼らは再び手を取り合い、そしてお互いの魂に誓い合った。



 いつの日か必ずこの呪いを解いて、お互いの人生を取り戻そう。


 そして人々から奪ってしまった光を返し、今度こそ人として死のう。



 それが少年と少女の偽りのない願いであり、魔法という呪いを背負った覚悟の証でもあり、これが本当の旅の始まりでもあった。



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