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No.10「歪な2人」

 2010年代、イタリア、アマルフィ。

 

 国境なき奇術団が山賊に襲われてから数日後、イタリアでのマジックショーを滞りなく終え、彼らは仕事の休暇と観光を兼ねて、断崖絶壁の海岸に面した都市、アマルフィに訪れていた。



「あはは、綺麗な景色だ!」


「そうだな。それより早く食うぞ、せっかくの飯が冷める。」


「うん! そうだね!」


 少女は興奮しながらも、大人しく静かに席に着く。ここは海が一望できる崖の上のレストラン。白を基調とした店内の落ち着いた雰囲気の中で、テルルはテーブルの上に並べられた料理を熱い視線で眺める。


 トマトとモッツァレラチーズのサラダ、カプレーゼ。アマルフィ名物、レモンパスタ。さらに新鮮な魚介類に溢れる地中海料理の数々。


 全ての料理が食欲を刺激する香りを漂わせ、少年と少女は颯爽と食事を始めるのだった。


「うん、美味しい美味しい!」


「これは確かに絶品だな。」


「あ、そっちも美味しそう。少しちょーだい!」


「ほらよ。」


「・・・美味い!」


 テルルは顔を綻ばせながら料理を頬張る。それに釣られて少年も心なしか表情は柔らかい。


「ふふ、今回のマジックショーも大成功、特別報酬も貰ったし、しばらくは贅沢な旅が出来るかな。」


「ふっ、全部酒代に消えそうだがな。」


「・・・それにしてもランチタイムなのに空いててよかったね!」


「あぁ、お陰様でアイツらと席を分けられた。」


「・・・はぁ、それは本当にそう。」


 そしてジェードとテルルは通路を挟んで隣のテーブル席を、やや冷めた視線で見つめる。


「ヒャッハー! うめぇ!!!! おいマックス!! 酒がねぇぞ!!!!」


「ガッハッハッ! 昼から呑む酒は最高だな!!」


「・・・」


 そこでは煩わしいほど上機嫌のマックスとヒルデガルトが酒を大量に飲み干していた。そのテーブルの上は空のグラスで埋め尽くされており、同席しているセイコは一見すると静かだが、彼女もまた目を疑うほどの量のワインを嗜んでいる。


「まったく呆れた。これならもっと安い店に行けば良かったな。」


「ほんと、いくら仕事終わりといえどね。これじゃあいつまで経っても金欠だよ。」


「まぁ諦めろ。どうせ次の目的地も遠いからな。気長に稼いでいくしかない。」


「はぁ〜。だったら今のうちに買っておくか〜。ジェードも付き合ってね。」


「ん?」


 


 

 そして昼食を終えた少年と少女は観光客用の高級店が立ち並ぶ場所にショッピングに訪れていた。そこには様々な土産屋や観光施設などがある中で、少女が真っ直ぐに向かったのは宝石店だった。


「・・・・・・はぁ。」


 そこでジェードは凄まじく重いため息を吐いた。この事態は予め想定していたが、やはり結果は変わらないことに今更ながら後悔しているのだ。


「うーん、悩ましい。」


「・・・おいテルル、そろそろ───」


「黙って。」


「・・・はぁぁ。」


 テルルは美しく輝く宝石を眺めては悩む素振りを見せ、また近付いて見つめ続ける。それを何十回、何百回と繰り返しては沈黙する。その異常なほど熱心な相方の様子に、少年は瞳を閉じてため息を吐き、ひたすらに天を仰ぐ。


「───どの子も美しくて選び難い。うーん。でも今日こそはコランダム系を・・・いや、でも、うーん。」


 この宝石店に入店してから凡そ3時間が経過。それでも少女は鮮やかな宝石を眺め続ける。その情熱には毎度付き合わされる少年が呆れ果てるほどであり、彼女は何より宝石の類には目がないのだ。


「・・・はぁ。」


 それはテルルの魔法の性質上、いくら触媒に使用するからといえど、彼女の宝石への愛は常軌を逸している。それを苦楽を共にする少年に言わせると、もはや狂気的なまでの執着心であり、その少女は数々の旅の中、行く先々で宝石を収集する。


 その全てが必要であろうと、なかろうと。少女は金のある限り、時間の許す限り。今までも、そしてこれからも恐らくは変わらないであろう、少女の道楽、傍迷惑な悪癖。


「うん、あなたに決めた! ジェード、これが欲しい、買って!」


「───はぁ。」


 さらにタチが悪いのは、この少女は自分の欲する宝石を見定めては、毎度のように呆れる少年に強請るのだ。


「ねぇ、・・・お願いジェード!」


「・・・っ。」


「お願い!」


 少女はショートヘアの茶髪を靡かせ、鮮やかな黄色の瞳の上目遣いで少年を覗く。そのあざとい仕草、そのあどけない顔は、まさに目を奪われるほどの美少女であり、通常の男性ならば、その多くが魅了され、虜になっているだろう。


 それは少年も例外ではなく、彼もまた1人の男。このような可愛らしい女の子の前では───


「ふざけんな、誰が買うか。」


「え!?」


 ───否、残念ながら彼は例外であった。この世にたった1人だけ、少女の全てを共有し、共感してしまう彼だけは、彼女の愛嬌は一切通じない。それが安易に許せるほど、少年は優しくもなく、大人でもなく、ましてや良心的な値段でもなかったのだ。


 ゆえにジェードは何の配慮も容赦もなく、ただ遠慮なく真正面から断る。その返しに少女は唖然として驚愕するが、その反応を前にしても少年の意思は変わらない。


「・・・っ。」


「───っ。」


 そして睨み合う両者の間で戦いの火蓋は切って落とされ、唐突に始まる2人の若人の対決、お互いに一歩も譲らない無益で無駄な争い。そこに発生する駆け引きは交差してすれ違う。こうして数多の煌めく宝石が見守る中、少年少女の奢り奢られ戦争は勃発するのだった。


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